採集と横取り
朝起きたクウスは、その頭痛に顔を顰めた。
これが二日酔いなのかと、体験したくなかった初体験をして、もそもそと起き上がる。
起きて服を着ていると、外から鐘の音が鳴り響く。二日酔いの頭にグワングワンと響き、つらい。
それよりも鳴らされた鐘は二回。昼二の鐘だ。
どうやら、寝過ごしてしまったらしい。
慌てて準備を整え、下の食堂に降りるとカリオッツが朝食をとっていた。
「おはよう。悪い、寝坊した」
「いや予想通りだ。昨日あれだけ酔っ払ってたからな」
素直に謝ったが、カリオッツは何てことない顔をしていた。
確かに、昨夜は随分と飲んでしまった。八杯くらいは飲んだだろうか。飲めば飲むほど気分が高揚し、クウスはとにかく楽しかった。途中で泣いたような気もするが、あまり記憶は残ってない。
「早くメシを食え。今日もギルドに行って依頼を受けるぞ」
「おう! おーい、朝食くれー」
二日酔いだが、腹は減っている。しっかりと朝食を取ってギルドに向かった。
「うーん、無いなあ」
掲示板の前で思わず唸る。
札級のクウスが受けられる討伐系依頼が全く無いのだ。やはり、寝坊したのがまずかったのか。
「外に出る依頼がほとんど無いな。受付で聞いてみるか」
受付に向かうカリオッツについて行く。
「そうですねぇ。刺兎の討伐依頼も昨日までで終了しましたし、札級で受けられる討伐系は今日は残って無いですね。外に出たいなら薬草採集はいかがですか?」
「薬草? そんな依頼残ってなかったぞ?」
昨日は採集系の依頼が有ったと思うが、今日は無かった。
「ええ、掲示板に依頼は出ていませんが、一部の薬草は常設依頼になってますから、見つけてギルドに持って来れば事後受注にできます」
「おお、そうか。常設依頼ってのも有ったな」
「はい。ギルドで目ぼしい依頼が見つからなかった時、とりあえず森に行って魔物や薬草を適当に探すっていう方は多いんですよ」
受付嬢に礼を言ってギルドを出る。
「よし、薬草を探すぞ! 昨日と同じ南の森に行くか」
「いや、薬草採集なら西側の森が良いらしい。クペン草がよく生えているそうだ」
カリオッツが冒険リーフレットを広げて見せてくる。ツァムルの街内外を示す簡易的な地図が載っていて、西の森は薬草が多く見つかると書かれていた。
クペン草は、傷薬の原料になる薬草だ。見た目は鋸のようにギザギザの葉をしていて分かりやすい。集落にいた頃、薬師をしていたモリー婆の手伝いをすることがあったので知っていた。
常設依頼では、一束につき銅貨1枚とかなり安いが、見つけやすい草だから何とかなると思いたい。
西の門から出て一時間で森に着いた二人は、早速森へ入り薬草を探していく。
「おっ、見つけたぞ。クペン草」
「これで五本目か。群生地でも見つかればいいんだが」
森に入って数十分で五本目のクペン草を見つけた。稼ぎを考えればペースが遅いが、まばらにしか生えていないのでしょうがない。
結局、昼まで採集をした結果が、クペン草が十五本(一束半)、毒の治療に使われるコムラ草が六本、オモ茸が一本、見つかった。
オモ茸は食用可能なキノコだ。小さな見た目に反してとても重く、一本で数百グラムもある。かなり腹にたまるので、一、二本で満腹になれる上にけっこう美味い。買取額は一本で銅貨1枚。
コムラ草は一束につき銅貨1枚なので、あと四本は見つけたい。
「二時間くらいやったよな? 今のとこ稼ぎは銅貨2枚かぁ。薬草採集って儲からないんだな」
クウスはカリオッツから貰ったロイホ棒を齧りながら、しょぼい稼ぎについ愚痴ってしまう。
「薬草採集だけで食えてる冒険者は少ないと聞くが。もっとも、ここら辺は魔物を見かけんから、他の札級や町民が取りに来ていて薬草が見つからないのかもな」
「じゃあ、休憩終わったらもう少し奥に行ってみようぜ」
休憩後、二人は森の奥に入っていき、クペン草やコムラ草を数本採集した。
そして、変な実を見つけたのだった。
「……何だよこのデカい実。魔力を放ってねえか?」
目の前にある樹木は、周囲の木と比べて幹が太く、薄緑色だ。その枝の先端には、クウスの頭ほどの大きさの青い実が成っている。青いと言っても、未成熟な果実のこではなく、本当に青いのだ。
そして、実はなぜか魔力を放っている。攻撃的なものではなく、ただ実から溢れているという感じで。
「初めて見るが、多分マンダラの実だ」
カリオッツは何か、思い当たるものがあるらしい。またリーフレットだろうか。
「何だよそれ? 食えるのか?」
「いや、人間には食えない。マンダラの実を食うのは、魔物だな」
魔物の好物らしかった。
「マンダラの実は魔水薬の原料だ。木が吸収した魔素が一定に達すると、実をつける。土地の魔素濃度によって実の大きさ、数、成る周期が違う」
魔水薬はたしか、魔力を回復する飲み薬だ。前にモリー婆が作った魔水薬を飲んだことがある。飲んだ直後から、ジワジワと魔力が湧いてきたので驚いたものだ。
「確か銀貨数枚で買取していたな」
「えっ! あれ一個で銀貨かよ、すげえ!」
じゃあモリー婆の魔水薬も結構高いものだったのかもしれない。魔力が湧いてくる感覚が面白くて、ガブガブ飲んでたんだが。
「ああ、運が良いな。取ったら急いで離れるぞ」
「ん? 何で?」
クウスは木に登り、マンダラの実が成った枝に手を伸ばしながら、聞く。
「買取額が高い理由は、マンダラの実は魔物の大好物だからだ。実は魔力を放っているからな。
実が成るとすぐに魔物が食べてしまうから、野生のマンダラの実が貴重になる」
「つまり、早く離れないと……?」
「魔物が来る」
クウスは枝に飛び移って実をもぎ取り、そのまま飛び降りた。
「よっしゃ! さっさと行」
「おい! ごらぁ!」
クウス達の後方から四人組の男達が現れた。冒険者の身なりをしている。
先頭を歩いてきたバンダナを巻いた男が、クウスを睨みつけている。
「おう、そのマンダラの実は俺らが目ぇつけてたんだ。盗みは良くねえぞ、おう」
「はぁ?」
(なに言ってんだ、こいつ? さっきまで誰もいなかったぞ)
「おうおう、俺らぁ、ツァムルのベテランパーティーだぜ? 面倒なことにならねえうちに、実を置いてけ、おう?」
明らかな脅迫だ。バンダナ男たちはベテランらしいが、本当かは不明である。クウスは、ぶっ飛ばせばいいか、と短絡的な考えが浮かび始めた。
「採集は早いもの勝ちだ。目をつけてようが、そんなルールは存在しない。リーフレットにも特別なことは書かれていなかった」
カリオッツが、冷静に言い返す。クウスは、ギルドで受付嬢が、リーフレットにはその町のルールとかも書かれていると言っていたのを思い出した。
「おうおう、おう! 舐めてんのか? 冒険者間の暗黙のルールってもんはな、紙切れなんぞにいちいち書かねぇんだよ! 痛い目にあわねえと分からねえのか、おう?」
おうおう五月蝿いバンダナ男が剣を抜く。今のところ殺気は感じないから脅しだろうが、クウス達の返答次第ではどう出るか分からない。
「ヒッポの言う通り、今のうちに渡しとけよガキ共。マンダラの実を寄越せば、今後は俺らの仕事を手伝わせてやってもいいんだぜ?」
バンダナ男の仲間、ヒゲモジャの男がニヤつきながら諭してくる。
「ふざけんな、てめえらの手伝いなんてこき使われるのが目に見えるっつーの。やるなら相手になるぜ?」
イライラが募ったクウスはすでに臨戦態勢だ。
それを見てカリオッツもやるしか無いかと、首を振る。
そんなクウスたちの様子を見て、四人組のリーダーであるバンダナ男ヒッポは内心、驚いていた。
ヒッポたちは札級や経験の浅い冒険者から、獲物や素材の横取りを、たまにしている。少し凄んでやれば、膝を震わせるやつ。最初は虚勢を張っても、軽く小突けば、泣きながら獲物を譲るやつ。そんなのばかりだ。たまに一か八かで殴りかかってくるやつもいるが、三人組以下を狙ってるので、返り討ちにしてきた。
だが、今回のガキどもは少し様子が違う。銀混じりの黒髪に、赤髪。二人とも最初から驚きも焦りもしていない。
四対二で明らかな不利なのに、このガキどもはやる気になっている。
若さゆえの無謀か、それとも根拠のある自信なのか。
それでもマンダラの実を逃がす手はない。いつも通り、恐怖を教えてやる。
そうヒッポは決めると仲間に合図をし、一気に襲いかかろうとした、その時。
「ブモォオオォッッ!」
クウス達と四人組の横から藪をかき分け豚怪人が現れた。その数、五匹。
さらに。
「ブギッギッギ」
「フゴッ、フゴッ」
周囲を囲むように豚怪人の群れが姿を見せる。十匹以上はいる。
涎を垂らしている魔物どもの目的は、マンダラの実だろう。実の魔力に誘われて来てみれば、そこに他の獲物までいるから、大喜びだ。
「や、やべえぞ!」
ヒゲモジャが焦る。豚怪人数匹なら何とか討伐できる。しかし、十数匹ともなれば結果は明白だ。
「おう、ビビんな! 固まれ!」
バンダナ男、ヒッポが声を掛けると四人組は背中合わせになり、豚怪人どもを睨みつける。
クウスとカリオッツも、周囲の豚怪人を警戒する。カリオッツは四人組に対しても警戒したままだ。隙を見せれば自分たちを囮にして逃げるだろう。
「「ブキィィイイッ!」」
雄叫びを上げて豚怪人が一斉に動き出す。半分はクウス達に、もう半分は四人組へ。
横から突っ込んできた豚怪人を躱し、カリオッツが斬りかかる。
そのカリオッツの後ろを襲おうとした一匹は、クウスに腕を斬り飛ばされる。
「ブギッギィイイ‼︎」
クウスが四人組を見ると、囲まれているが何とか防御に専念して豚怪人の攻撃を防いでいる。
そして、リーダーのバンダナ男はクウス達が豚怪人を斬り伏せているのを見て驚愕している。
戦闘が始まって数分。
クウス達が四匹、四人組が一匹倒し、豚怪人どもの気勢が削がれ始めた。
だが、そこに新手が舞い降りた。
「ブキ?」
クウスと対峙していた豚怪人に影が差す。その豚怪人が上を見上げた瞬間。
怪鳥が降り立ち、豚怪人を圧殺した。
大きな爪で頭と肩を貫き、降下した巨体で押し潰したのだ。
「グエェエエェェッ!」
怪鳥は大きく鳴くと羽を広げる。
その翼開長は五メートルを超え、その場にいた全ての生物を圧倒する威容であった。
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