初めての依頼
ギルドを出て、まずは冒険リーフレットに載っていたお勧めの宿の中から、安い所に向かう。
宿の食事が美味ければ、そこに連泊する予定だ。
着いたのは、石造りの大きな建物。二階建てだ。
宿泊は大銅貨4枚で、一階には食堂も有るが別で支払いが必要とのこと。
とりあえず、さっきの余りの銀貨で一泊分を支払って、二階の部屋に入ると、中はかなり狭かった。
ベッドしか置いてないのに、空いてるスペースはほとんど無い。3歩歩けば壁にぶつかる。
荷物を置いて、部屋に鍵をかけてから食堂へ降りる。カリオッツが先に来ていて、手を上げてクウスを席に呼んだ。
「カリオッツ、ここの部屋すげー狭くないか? フチで泊まった宿屋はもっと広かったのに」
「寝れれば良いって奴向けだからな。だが、部屋の中は綺麗だし、ベッドも清潔だった。リーフレットに載ってるだけあって、悪くは無い」
カリオッツが言うには、狭さ以外は及第点らしい。クウスからするとフチの宿屋よりも、宿代が高いのに部屋が狭いので多少、不満に思ってしまう。
「お客さん、注文は決まった?」
店員が注文を取りに来た。
食堂の壁にはメニューが書いてあり、一品料理は、銅貨3枚から6枚。日替わりセットが銅貨5枚。
とりあえず日替わりにするか。
「日替わりセットって、どんなやつだ?」
「今日の日替わりは、野菜炒め、煮込みスープ、パンだよ」
内容も悪く無さそうだ。
「じゃあ、日替わりで」
「俺も日替わりを頼む」
「はーい、日替わり二つね。少々お待ちくださいねー」
店員は注文を取り終わると、水差しと木のコップをテーブルに置いて厨房へ入っていった。
「さて、明日からはギルドで依頼を受けるってことでいいか?」
「ああ! まずは銅級冒険者にならなきゃ、次の町に行けないからな。メシ食ったら依頼を探しに行こうぜ」
クウスは早く依頼を受けたくてウズウズしていた。
「もうすぐ夕方になるからやめとけ。夕方からは外から帰ってくる冒険者でギルドは混む。そいつらが掃けた時にはギルドが閉まる時間だ」
「ギルドっていつでも開いてるんじゃないのか?」
「ギルドの営業は早朝から夜まで、昼一の鐘から、夜一の鐘までだったはず、……このリーフレットにもそう書いてある」
冒険リーフレットを広げて確認したカリオッツ。
「一の鐘? って何だ?」
聞き覚えのない言葉につい質問する。
「時刻を知らせる鐘のことだ。
早朝六時に鳴るのが昼の一の鐘。以降、三時間毎に鐘は鳴る。昼は一の鐘(午前六時)から五の鐘(午後六時)まで。夜は一の鐘(午後九時)から三の鐘(午前三時)までだ。街によっては鳴る時刻が違ったりするがな」
時刻に関してはモリー婆から集落にいた頃に教えられたが、鐘については初耳だ。
というか、夜中も鐘が鳴るってうるさくないのだろうか。何か工夫されているのか、うるさくても慣れれば平気なのか。
「だから、ギルドは午前六時から午後九時までしか開いてない。ただ、夜間担当の職員がいるはずだから、緊急の連絡ならできるらしい」
「へえ、じゃあ明日の朝一でギルドに行って、依頼探すか」
「そうだな」
「お待たせー。日替わりセットでーす」
明日は朝から初依頼を受けることに決まったところで、食事が運ばれてきた。
まずは、野菜炒めから。さっぱりした塩味にシャキシャキした食感。中々、うまい。
次にスープ。肉が入ってるな。何の肉か分からんが。おっ、美味いぞ。ドロっとしたスープで、色々溶け込んでるのか濃厚な味だ。
パンは……普通だな。硬いパンが二つ。スープの中に沈めて食ってしまおう。
(銅貨5枚でこの味なら、中々いいよな? これから宿はここで決まりだろ)
そう思いながらカリオッツを見れば、彼も食事に集中している。多分美味かったんだろう。
明日の朝も、ここで食べると決めた二人だった。
翌朝、朝食を食べてからギルドへ向かう。
ちなみに昨夜、夜の鐘を聞いた。午後九時を知らせる夜一の鐘は昼間に聞こえた鐘の音とは違っていた。
朝食時にカリオッツに聞くと、夜に鳴る鐘は魔道具で、“囁きの鐘”という物らしい。
打つとささやき声の様な静かな鐘の音が鳴る。クウスが聞いた時も、静かな音なのにはっきりと鐘の音だと認識できて驚いた。
さらに不思議なことに、この囁きの鐘は寝ている者には聞こえることがないそうだ。実際、昨夜眠りについてからのクウスは夜の二の鐘、三の鐘に全く気付かなかった。
それと、夜中に隣の部屋にいたカリオッツが外に出かける気配がした。
街を歩きながらそのことを聞くと、「ちょっとな……まだお前には早い」と、よく分からないことを言われた。もしかしたら、こっそり美味いものを食いに行ったのかもしれない。
ギルドに着き中へ入ると、既に数十人の冒険者で中は混雑していた。
人ごみを縫って依頼書の貼られた掲示板の前に行き、札級でも受けられる依頼を探す。
依頼:刺兎の討伐
報酬:一匹につき銅貨2枚 ※素材は別途買取
受注条件:無し
備考:最近、繁殖数が増加傾向にあり。群れに注意。
依頼:三番街の側溝清掃
報酬:大銅貨3枚
受注条件:無し
備考:朝九時から夕方まで。昼休憩あり。
依頼:クペン草の採集
報酬:十束につき銅貨5枚 ※素材は別途買取
受注条件:無し ※札級優先
備考:十本で一束。
依頼:工事現場への搬入作業
報酬:大銅貨3枚
受注条件:無し
備考:朝九時から午後三時まで。昼休憩なし。運ぶ物は建築資材など。
札級が受けられる依頼は四つ見つかったが。
「……報酬、安すぎねえか?」
報酬が低すぎる。
高いもので大銅貨3枚。
「泊まっている宿の宿泊費と同じじゃん」
食事を取ればマイナスになってしまう。
「札級が受けられる依頼の報酬はこんなものだぞ。俺達の宿より安い所はあるから、札級はそういう宿に泊まってる。どれを受けるか決めたか?」
なるほど、そう言えば泊まっている宿屋は冒険リーフレットでお勧めされている綺麗な宿だった。もっと劣悪な環境なら安い所は有るのだろう。
「う〜ん、街の中より外に行きてえなぁ。……ここは、刺兎の討伐だな!」
街中での肉体労働は大変そうな割につまらなさそうに感じたので、討伐依頼を選ぶ。
掲示板から剥がした依頼書を持って、受付に向かう。
「おはようございます。依頼の受注でしょうか?」
「ああ、この依頼を受けたい」
受付嬢に依頼書を手渡す。
「はい。刺兎の討伐依頼ですね。では、ギルドカードをお出し下さい」
受付嬢は、クウスからペラペラの札級ギルドカードを、カリオッツから銅級ギルドカードを受け取ると、カウンターの下で何か作業を始める。
昨日、登録した時にも何かやっていたが、冒険者側からは見えないようになっている。気になるぞ。
「お待たせしました。依頼の受注処理をしましたので、カードをお返しします。それと、こちらが依頼の受注書になります。門で見せて下さい。それでは、お気をつけて」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
受付嬢に礼を言って、ギルドを出る。
「依頼受けたのはいいけどよ、刺兎を見つけらんなかったら、依頼失敗になるのかな?」
ふと沸いた疑問をカリオッツにぶつける。
「依頼書には、特に期限は書かれていなかったから失敗にはならん。ただ、情報掲示板の方に、今年は刺兎が大量に繁殖していると書いてあった。おそらくかなり見つけやすいはずだ」
カリオッツは依頼掲示板の横にある小さな掲示板までしっかり見ていたらしい。
「へー、そっか。なら何匹狩れるか競争するか?」
「構わんが、さっさと外に行くぞ」
街の南門に行き、依頼の受注書を門番に見せて外に出る。クウスは身分証無しだが、受注書を見せれば入街税を取られないようだ。
門を出て、草原を進んで行くと早速見つけてしまった。
お目当てである兎型の魔獣、刺兎だ。
脚の筋肉が異常に発達していて、普通のウサギよりも一回りは大きく見える。
頭に小さな角、口に鋭い牙が生えているのが特徴だ。
クウスはこの魔物を、故郷の集落でも狩っていたのでよく知っている。
こいつらは動物の兎と違ってかなり凶暴だ。
人間を見れば普通に襲ってくるからな。
その割に草食なんだが。
「ギュキュッ」
クウスに気付いた刺兎が突進してくる。脚力を活かしたスピードは中々、速い。
「だが甘い!」
クウスは突進してきた刺兎をヒラリと躱す。そして、すれ違いざまに剣鉈で一閃――刺兎は絶命した。
「やっぱ、弱いよな。こいつ」
はっきり言えば、刺兎は雑魚だった。
人の子どもなら命の危険がある相手だが、武器を持った成人男性なら勝つのは難しく無い。
「確かに弱いが、油断するなよ? この街でも毎年、油断して刺兎にやられる冒険者はいるらしい」
「ふぅん、それもリーフレット情報か?」
「……そうだ」
カリオッツ、冒険リーフレットを読み込んでやがる。
(後でオレもリーフレット見せてもらおう)
そして、刺兎を血抜きしながら草原を進み、次の獲物を探す。
昼過ぎになり、休憩する。
ここは、森の中だ。あの後、草原でさらに一匹の刺兎を狩ったが、草原にはあまり居なかった。
草原と言っても草の高さは膝より低いので、魔物がいれば見つけやすい。なので、他の冒険者に狩られ尽くしたのかもしれない。
ということで森まで足を伸ばしたのだった。
「ここまでで三匹かぁ。ってか、いっぱい狩れても街まで運ぶの大変だよな」
クウス達は、討伐した刺兎を血抜きだけして、木の枝に括って運んでいる。休憩前に内臓も出して捨てたが、それでも一匹あたりの重さは十数キロ。三匹で既に五十キロ近い。
「持てない分は討伐証明だけ取って置いていくしかないだろう。肉も金になるが、しょうがない」
そう。肉だ。
この刺兎は、討伐証明が魔石と角で、依頼内容は討伐だから、それだけ持っていけばいい。
だが、ギルドでは肉も買い取ってくれるという。その買取価格はなんと、一匹につき大銅貨1枚。
依頼報酬である銅貨2枚の五倍だ。捨てるのは惜しい。
「持ち帰れないぐらい狩れたら、その場で焼いて食うか」
「ふっ、それも良いかもな。塩くらいなら持っ――」
カリオッツが言葉を止めると同時、クウスもその気配に気付く。
森の奥から、茂みを掻き分ける音がする。
近づいて来る音は、二足歩行の足音だ。人間だろうか?
やがて、茂みから鋭利な手が現れ、その音の主が姿を見せた。
背丈はクウスより大きく二メートルほど。服こそ着ていないが姿形は人間に近い。
頭には指の様な太さの毛が何本も生え、耳は薄くヨレていて、まるで葉野菜みたいだ。
「なんだあいつ? 魔物、だよな?」
「知らないのか? あれは凶怪人。かなり有名な魔物なんだが」
血走った両目は大きな割に、虹彩がかなり小さく四白眼になっている。
……目を見るだけでこいつからの殺意が伝わってくる。
「知らん。強いのか?」
そして、口は大きく裂け気味で、獰猛な牙を剥き出しにして笑っている。
その笑みだけで分かるぞ、こいつの残虐さが。
「刺兎とは訳が違う。ランク3の魔物だ」
手足に生えた4本の指は爪が無く、指そのものが鋭利に尖っている。
両腕を広げ、その凶器を見せびらかしている。獲物に苦痛を想像させたがっている。
「ランク3?――」
「来るぞっ!」
「ゲゲゲゲェッ!」
姿を見せても、普通に会話を続けるクウス達に気分を害したのか、凶怪人が一直線にクウスへ接近する。
その動きは速く、あっという間にクウスを間合いに収める。
右手の尖指が獲物を切り裂く。
「くそっ、やられた!」
切り裂いたのは、クウスが身につけている革の胴当てだった。肩に近い部分を切り裂かれているが、体は無傷だ。
だが、
「ゲッゲッゲッ」
クウスにダメージを与えたと思ったのか、凶怪人が嗤う。その嗜虐的な笑い方は、ひどく勘に触る。
「うがー! 笑ってんじゃねえ!」
剣鉈を抜いて、凶怪人へ駆ける。
凶怪人は左手の尖指で迎撃する。
そのまま斬りかかると見せかけてクウスは突如、跳躍。
尖指を振りかざすキャドラーの上を通過。
そして空中で前転しながら剣を振る。
後ろに着地したクウスが振り返ると、凶怪人の左肩は大きく斬り裂かれていた。
「ゲギャアァァァアァッッ!!」
あまりの痛みに絶叫する凶怪人は、しかし判断が早かった。
分が悪いと感じたのか背を向け走り、逃げ出したのだ。
脅威に感じた人間は後方に、もう一人の人間も数メートル離れた左側にいる。
出てきた茂みへ入ってしまえば逃げられる。
凶怪人の行く手を阻む者はいない、はずだった。
「――〈気弾拳〉!」
声が聞こえてすぐ、凶怪人の視界は歪んだ。
どこからか飛んできた攻撃が凶怪人の顎を正確に捉えたのだ。
足がもつれ、ふらつく。
一瞬でも止まってしまえば。
クウスが追いつく。
「うおらぁっ!」
無骨な剣鉈が凶怪人の首を刎ねた。
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