鬼を倒したのは誰?
「これは、どこで?」
職員のおっさんが聞いてくる。
「昨日、ツァムルに来る途中で、魔物に襲われて倒した」
クウスが答えると、
「倒した? 君たちがか? それとも他にも誰かいたのか?」
まだ若いクウス達が倒したのが信じられないようだ。敬語も忘れている。
「オレとカリオッツだけだよ」
クウスが答えると、おっさんはカリオッツへ目を向ける。
「あなたは冒険者証は?」
「これだ。銅級に上がったのは先月。登録したのは二ヶ月前だ」
カリオッツが懐から赤銅色のギルドカードを出して見せる。
「銅級 カリオッツ」と書かれている。
「登録二ヶ月と、新規登録者で緑剛鬼を倒すとは……あっ、失礼しました。魔石は念の為、鑑別させて頂きます」
おっさんがそう言うと、受付嬢が魔石をカウンター内側にあった小さな秤台に乗せはじめた。
「なにしてんだ、あれ?」
「あれは魔石鑑別器という魔道具です。鑑別器に登録してある魔物であれば、それが何の魔物から取れた魔石なのか判別することができます」
「へえ、便利だなぁ」
職員のおっさんと喋っていると鑑別が終わったのか、受付嬢が魔石を持って戻ってきた。
「緑剛鬼の魔石で間違いありませんでした」
「そうか。クウスさん、カリオッツさん。あなたたちが緑剛鬼と遭遇した場所は正確に分かりますか?」
クウスははっきり分からなかったので、カリオッツに視線を向ける。
「俺達は、フチからツァムルに向かう街道を歩いて来た。遭遇したのは昨日の昼過ぎ、太陽が真上にあった時間。ツァムルに着いたのはついさっきだ」
「フチから、ですか。やはり。……実は先日、フチに向かう街道の途中で緑剛鬼が出現したという情報が、旅人から寄せられまして。
討伐の依頼が出ていたんです。おそらく君たちはその個体と遭遇したのでしょう」
街道にあんなのが居ればすぐに依頼が入るか。どうやら、知らずに解決してしまったらしい。
「それで、魔石と角以外、皮はどうされましたか?」
「皮?」
「はい。緑剛鬼は、討伐証明の部位は魔石と角ですが、皮はとても高値がつくのです」
そんなこと知らなかった。もったいないことをしてしまった様だ。悔しいが今さら取りに戻るのもちょっとな。
「……皮は取ってきてないな。俺達は緑剛鬼の討伐証明すら知らなかったから、特徴的な角と魔石だけをとりあえず持ってきたんだ」
カリオッツが無表情で淡々と答えてる。もう少し悔しそうな顔しろよ。
「そうでしたか。残念ですが、仕方ありませんね。魔石と角は揃っているので、依頼を達成に――」
「おらっ! 緑剛鬼の討伐、終わったぜ! 皮取って来たから査定してくれ」
クウス達から二メートルほど離れた隣の受付で、四人組の男達が大声で話し出す。
「緑剛鬼の皮ですね。あれ、証明部位は?」
カウンターにいた若い男の受付員が、皮を見た後に四人組へ問う。
「あ〜、実は戦闘中に俺が槍を突き刺したら魔石が砕けちまってよぉ」
槍を持った男が、自分の胸に指を差しながら、訳を話す。
「んで、最後はおれの魔法で頭を潰したんだが、角も潰れて無くなっちまったんだ。しょうがねえから、皮と、魔石の代わりに心臓を持ってきた」
もう一人の杖を持った中年の男が、いかにも残念だったという顔で血のシミが付いた袋を出した。おそらく心臓が入っているのだろう。
この四人組、もしかしたらクウスたちが放置した緑剛鬼から皮だけを剥いできたのかもしれない。
「こうして皮は持ってきたんだし、依頼達成で良いだろ? 死体だって街道脇に転がってるはずだ。なぁ?」
受付員に詰め寄るリーダーの男。
「う〜ん、そうですね。皮は剥いで間もないようですし、では、依頼た」
「ちょっと待ってくれ。今こちらに、昨日緑剛鬼を討伐したという者が来ている。魔石と角を持参してな」
「なっ、何!?」
職員のおっさんが話に割り込むと、四人組は驚いてこっちを見る。だが、クウスたちを見た途端にニヤつきだした。
「おいおい、まだガキじゃねえか。お前らが緑剛鬼を倒しただぁ? どっかで、魔石と角だけ買ってきたんだろ。ギルドはこんなガキ共を信じるのかよ?」
リーダーの男は常識で考えろよと言いたげな顔をおっさん職員に向ける。
クウス達が若いのを見て、高圧的に出て押し切れると判断したのかもしれない。
「……しかし、あなた方は実際に魔石も角もお持ちでない。対してこちらの二人は、魔石と角を持ってきています」
「だから、魔石と角はダメになっちまったんだって! 大体、そっちのガキ共もおかしいだろ。なんで皮を持ってねえんだ? 緑剛鬼は魔石より皮に価値があるのは常識だ。放置するなんて考えられねえな」
常識という言葉に、カリオッツの気配が少し剣呑なものに変わってきた。やっぱり知らなかったのは悔しいのかもしれない。
「……その皮、胴体だな?」
カリオッツが受付員が持っている畳まれた皮を指さす。
「そうですね、皮は胴体と手足の部分です」
「……俺は背中に大きな切り傷を付けた。背の中心から左肩にかけてだ。こっちのクウスは、腹部に剣を突き刺した。魔石を取るために、胸に切れ込みを入れた。該当する傷は無いか?」
「え、えーっと。あ! 有りますね。背中の大きな傷と、腹部の刺し傷、胸の切れ込み。全て一致してます」
受付員が皮を広げると、カリオッツの言った通りの傷が、皮にはついていた。昨日の戦いを事細かく覚えていたんだな。クウスは素直に感心してしまう。
「……どうやら、こちらのお二人が討伐した物のようですね」
おっさん職員が、四人組を冷たい目で見据える。
「う、嘘だ! こいつら、適当なこと言ってるだけだ!」
「ガキ共、舐めたことしてんじゃねえぞ!」
「いやいや、俺らが討伐したんだって」
「こっちはベテランだぜ? こんなガキの戯言を信じるのか?」
四人組は一斉に、自分達の功績を主張しだす。こちらへの威嚇付きで。
「フーッ。……撤回するなら今のうちです。
これ以上、言い訳にもならない弁解を続けるなら、ギルドへの虚偽報告として、正式に処理しますよ?」
おっさん職員の目が据わってる。
おっさんの言葉を聞いた四人組は、挙動不審になり態度を豹変させる。
「は、ははははっ! な、なんか俺、勘違いしてたかもぉ!?」
「そ、そうそう! 緑剛鬼の死体見つけて、皮剥いできたのかもしれないなあ?」
「いやぁ、勘違いして怒鳴ってごめんね? 君たち」
「な、何か困った時は俺達を頼ってくれていいからな!」
自らの過ちを認められる、後輩に優しい先輩冒険者へ早変わりした四人組。
お詫びにと、皮を置いてギルドから立ち去っていった。やたら早足だった。
「お待たせしました。こちらが買取金額になります。緑剛鬼の魔石は銀貨3枚。角は大銅貨1枚。皮は銀貨9枚。合計、12万1000リーセです」
受付嬢が魔石などの代価を小さなトレーに乗せて持ってくる。二人で分けるため、銀貨が12枚、銅貨が10枚にしてもらった。
買取額が一人当たり6万以上になり、クウスの寂しい懐が少し潤った。
皮は大きな傷があったので査定が少し落ちたが、それでも銀貨9枚だった。
「それと、緑剛鬼の討伐依頼の達成はカリオッツさんだけになります。クウスさんは登録前の討伐で、しかも札級ということもあり、今回はギルドからの評価が上がるだけになります。すいません。
報酬を分けるかはお二人で決めて下さい。依頼報酬は、銀貨5枚です。どうぞ」
さらに、トレーに銀貨が5枚乗せられる。
「これは、2枚ずつ分けて、1枚は宿代と食事に使うか」
「おっ、いいね! いい感じに腹減ってるぜ」
カリオッツの提案に飛びついていると、
「ふふ、ツァムルは美味しい店はいっぱい有りますよ」
受付嬢が話に入ってきた。ここでお勧めの店を聞いてみようか。
「ほんとか! じゃあどこかお勧めを」
「ごほん! 美味しいお店、知りたいですよね? 情報って大事ですよね?」
なんか、受付嬢の雰囲気がまたおかしくなった。
「冒険者とは過酷な職業です。先ほどのようにああやって人の手柄を横取りしようとする者が一定数います。つけこまれないように、魔物の情報、素材の情報、依頼の条件、そして、街周辺の情報は大事ですよ?」
受付嬢は手に持った冒険リーフレットをヒラヒラさせている。
またか、とクウスがゲンナリしていると。
「……そうだな。そのリーフレット、買おう」
なんと、カリオッツが購入した。
これにはクウスも思わずニヤリとなる。なんだかんだで、冒険リーフレットに載っている情報がクウスも気になっていた。
特に、お勧めの店も載っているなら尚更だ。
カリオッツがリーフレットを受け取り、いざ宿屋と食事に向かう二人であった。
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