17 目的地へ
目的地であるエルドラージ王国側の神殿に行くためにはルックナー砦を通る。
現在はルックナー砦に向かっている最中だ。
ルックナー砦は王都から徒歩なら十日で着く。
王族や上級貴族は馬車。騎士達は馬。兵達は徒歩で行くので、小さき守護者のときみたいに三時間で行く事は出来ない。
ルックナー砦へ馬車で行くのは初めての事なので少し新鮮だった。
しかし三日経つと暇になってしまう。同じ馬車に乗っているテオドールは馬車に乗りながら読書をしている。……オレも暇つぶしの様な本を持ってくれば良かった。
なので暇つぶしの為に自身を鍛えようと思う。体を動かせないが、身体強化の魔法を使って視力や聴力の強化の訓練をする。……訓練も飽きて暇になった。
そんなときに国王陛下から呼び出しを受けた。
オレとテオドールは国王陛下の下へ行き、同じ馬車に乗った。
「今回の公務だが、小さき守護者の事はエルドラージ王国も知っているので、アルムの正体がバレないようにしなければならない。したがってアルムは小さき守護者としての行動を取らないように。なにか異変を感じたらディーアに伝えるのだ」
「はい、分かりました」
「テオドールもアルムを補佐してくれ。……いや本来はテオドールの補佐をアルムがするのだった」
「大丈夫です。私は王族となって日が浅いので、アルムに助けて貰っていると周りに伝えています。それにアルムは学院では私を補佐してくれていますので心配いりません」
テオドールの学友としてオレは学院ではテオドールの補佐的立場で動いているからな。
しかし小さき守護者として動けないのか。……先王陛下の頼み通り国王陛下達を守るのは難しいかもしれない。変装も出来ないからな。
「アルムも公爵家の人間として部下を使う事を練習しないといけないよ。もちろん僕もだけど」
なるほど。部下を使う練習か。ならディーアにいろいろ頼む事になりそうだな。
あ、ディーアと内密のやり取りの方法を相談しないといけないな。後でテオドールとも相談しよう。
数日後、やっとルックナー砦に着いた。
皆と一緒のペースで行くので、野宿したりと何日もかかった。一人なら数時間で行けるのに。
ルックナー砦に入ると歴戦の騎士や兵達が出迎えてくれた。
一番前に居るのはルックナー砦の責任者のロックマイヤー・マクガイア将軍だ。エリスさんやファムさんの父親だったな。そして子煩悩な将軍だ。
「お待ちしておりました、国王陛下」
子煩悩な将軍とは思えない威厳ある声だ。昔聞いた『パパは頑張るからな』と言う声とは別だ。
「ロックマイヤー将軍、今まで良くルックナー砦を守った。そして今回の公務の護衛頼んだぞ」
「はっ! 全力を尽くします! そして今回の公務に参加するルックナー砦の歴戦の兵達です。皆にも陛下から御言葉をお願いします」
「うむ。バルデハイム王国を守護するルックナー砦の精鋭達よ! ヨーデンポリー王国を滅ぼしたエルドラージ王国だか、我が国の強兵には敵うまい! 今回の護衛の任務、期待しているぞ!」
ルックナー砦の兵達が威勢を上げて応えた。そして王都から来た兵隊も威勢上げて応える。……ちょっとうるさい。聴力強化していたら耳がおかしくなっていたよ。
そして王都からルックナー砦までの移動の疲れを癒すために、ルックナー砦で数日休み、エルドラージ王国へ向かう予定だ。
馬車に乗っていたオレ達はそこまで疲れていないが、ルックナー砦に徒歩で来た兵達の為に休息するそうだ。
疲れていないオレはテオドールと一緒にルックナー砦の見学をしようと思う。
同じく馬車で来たテオドールも疲れていないので見学に賛成した。そして馬に乗ってきたディーアさんと一緒に見学する事になった。
※
私はルックナー砦の責任者であるロックマイヤー・マクガイアだ。
現在、陛下とダムボックス騎士団長の三人で今後の予定を話し合っている。
ルックナー砦から徒歩半日ほどのエルドラージ王国側の神殿へ行く。
数日前に兵達に神殿周辺の偵察に行かせている事を報告した。
「神殿は平原の小山の頂上に有り、平原には兵を隠せる場所等はありません。砦から神殿までは敵兵等は隠れる場所もないでしょう」
「神殿内部の様子は?」
「さすがに神殿内の情報はわかりません。しかし神殿内には騎士や貴族、商人が出入りしているらしいです」
陛下は「そうか……」と言って考え込んだ。
「ロックマイヤー将軍、兵糧は?」
「ルックナー砦の備蓄で大丈夫です。しかし備蓄していた兵糧が半分近く無くなったので、早めに追加の兵糧を頂きたい」
「分かった。宰相へ報告を出してくれ。すぐに手配してくれるはずだ」
兵糧の心配がなくなった。しかし心配事で相談したい事はまだある。
「陛下、エルドラージ王国との短期間の同盟ですが、信用できるのでしょうか? 私はエルドラージ王国のことは良く知らないので」
バルデハイム王国を攻め続けていたヨーデンポリー王国を占領したエルドラージ王国。私が知っていることは、数年前からエルドラージ王国が近隣国を占領して国土が多くなっていることしか知らない。
ハッキリ言ってエルドラージ王国の国王の名前すら知らないのだ。知っているのはエルドラージ王国のコンキデムス王太子の名前だけ。
小国だったエルドラージ王国は数年前に他国に攻められたが、コンキデムス王太子が将軍として戦い勝利した。そして近隣国に戦争を仕掛けて王都を占領し、占領した国を統治して、次の国に戦争を仕掛ける常勝の将軍にして王太子である。
この程度の事は陛下達も知っているはずだ。それに小さき守護者という英雄が居るので他にも情報を持っているに違いないと思って質問をするが、
「……私達も詳しい情報を持っていない。エルドラージ王国側に密偵を使って調べる事は同盟の条件で禁止されているからな。商人達を使って調べようとしているのだが、結果はまだ出ていない」
……今回の同盟締結パーティーでより多くの情報を集めないといけないのか。
聞いた話ではエルドラージ王国の貴族令嬢が空を飛んで来て、コンキデムス王太子が迎えに来た時もルックナー砦を通らず川を遡る船を使って国境を越えたと報告を受けた。
だから兵達に川や国境付近を偵察させて、空にも注意をしているが、敵兵の敵の字もなくいたって平穏だ。
エルドラージ王国がヨーデンポリー王国を滅ぼしたから、今度はバルデハイム王国に戦争を仕掛ける可能性がある。今は反対側のファーレンフォール公国側で戦争をしているので、こちら側でも戦争が起きればバルデハイム王国は大変な事になるだろう。
なので二年間の短期間同盟が信用できるモノであってほしい。
「それから今回のエルドラージ王国への出兵、いえ同盟締結パーティーですが、どうして子供が多いのですか?」
間違って出兵と言ってしまった。それはどうでも良い。
普通は危険な旅に子供は連れて行くものではない。ましては国王の御子息と王弟の御子息。そしてその側近である公爵家の御子息と貴族の子供と多い。私なら絶対に連れて行かない。
「……少し説明しづらい理由があってな。私も息子は連れて行くべきではないと分かっているのだが」
「でしたらルックナー砦に残しましょう。砦なら安全ですから」
「ベルファルトは砦に残す事は賛成だ。しかしアルムとテオドールを連れて行くと、ベルファルトが怒るからな……」
「いえ、子供は全員残しましょう」
「……そうしたいのだが、少し事情があってな。アルムを連れて行った方が良いのだ」
アルムとはドックライム公爵家次男だったはずだ。魔法が使えない無能貴族という噂は私も耳にしている。しかし娘のエリスやファムから『アルムエルグ様は素晴らしい方です』という
手紙を貰っている。
私は噂よりも娘の言葉を信じる父親だから、ドックライム公爵家次男は魔法以外に素晴らしい才能を持っているのだと思っている。
しかし危険な旅に連れて行く事は出来ない。もしもドックライム公爵家次男が怪我をしたら娘達から怒られて口を利いてもらえなくなるかもしれない。
「やはり危険な目に遭わせる訳にはいけません。子供達は砦に残すべきです」
陛下も子供達を残す事に賛成すると思ったが、どうして考えこんでいるのだ? 何かほかに理由があるのか?
「陛下、なにか理由があるのですか? 子供達を連れて行かなければならない理由が?」
「……アルムは父上からエルドラージ王国のお土産を催促されておってな。留守番になったらお土産を渡せずに父上からアルムが怒られるからな」
「陛下!」
そんな理由かのか? それは考え込む理由ではない! お土産と子供の命とどっちが大事だ! そして子供を護衛する騎士達の命を危険に遭わせる可能性がある。我儘な子供は砦の一室に隔離すれば問題無い!
「先王陛下が子供の命よりもお土産が大事と言うなら! 私が子供達に代わり先王陛下から罰せられましょう!」
「ロックマイヤー将軍、そう怒るな、冗談だ。父上もそんな事で怒らんし罰せん。アルムは父上のお気に入りだからな」
陛下が笑いながら私を宥める。そしてため息をついてダムボックス騎士団長と目配りをして真面目は表情に戻った。
「アルムは連れて行くべきなのだ。将軍は小さき守護者の事を知っているだろう」
「もちろん知っています。会った事は有りませんのでどのような人物なのかは知りませんが」
先王陛下直属の部下としてさまざまな結果を出しているバルデハイム王国の守護者。背が小さいので小さき守護者と言われているが、何者なのかは先王陛下と一部の者達しか知らない謎の英雄。
「アルムがな、その小さき守護者だ。それで護衛としてアルムだけは連れて行きたいのだ」
「……陛下、そのような冗談はやめてください。我が国の英雄に失礼です。それだけではありません! 小さき守護者の主たる先王陛下にも失礼になります!」
陛下は馬鹿な事を言う。まったく小さき守護者が子供なわけがないだろう! ましては魔法が使えないドックライム公爵家次男のはずがない!
「陛下、冗談はほどほどに。さて、子供は部屋に隔離しておけば問題無いですな。責任は私が取りますので心配ありません。文句を言うのなら模擬戦で教育しましょう。実をいうと我が子が娘だったので模擬戦での教育は出来ずにいたのです。しかし男だったら少しくらい気絶させても問題ないでしょう」
……どうしたのだ? 陛下とダムボックス騎士団長がコソコソと内緒話をしている。私に聞かせないようにする為だと思うが、目の前での内緒話は私に失礼だと思うぞ。
「陛下、とりあえずアルムとテオドールと話し合いましょう」
「そうだな。ベルファルトとアルムは別々の場所に隔離して、テオドールにアルムの事を頼むか……」
二人の内緒話は終わった様だな。
では次の議題に入ろうか。神殿長を暗殺しようとした下手人についての事を聞いておかないといけないからな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




