16 出発式
エルドラージ王国出発の準備が終わり、今日出発する。
バルデハイム王国から五千の兵達が集められ、ルックナー砦から五千の兵を合わせて一万の兵でエルドラージ王国に向かう事になった。
エルドラージ王国に行く者達が留守番役の者達と会話している。神殿長も留守役の神官と会話していて、挨拶周りが大変だと思った。
国王陛下が留守役のゲックハルト宰相と会話している。きっと「留守を頼む」「ご無事で」という内容なんだろうな。
その後、国王陛下は王妃様とミリアリア様と会話している。きっと「留守を頼む」「ご無事で」という内容なんだろうな。
そしてオレもテオドールと一緒に先王陛下に挨拶をする。
「行って参ります」
「うむ。アルムよ、土産を忘れるなよ。テオドールもしっかりアルムを補佐してくれ」
「はい、アルムの事はお任せください」
……オレもテオドールに迷惑をかけないように頑張りますと、心の中で誓う。
あ、王妃様とミリアリア様もこっちに来たよ。
「アルムエルグ殿、テオドール殿。体に気をつけてね」
「お心遣い感謝します、エルリーシャ様」
オレもテオドールに習って王妃様に礼をする。
そして、ミリアリア様がオレの前に立った。
「アルム様、お体に気をつけてくださいね。無事の帰還をお祈りします」
そう言ってオレに軽く抱き着くミリアリア様。
……? ハグ? 誰と誰が?
…………? テオドール? なに驚いている? オレ? 固まっているよ。先王陛下もどうしたんですか? 微笑んでいないで現状を説明してください。
………………あ、王妃様がミリアリア様を掴んでオレから離された。
「ミリア、寂しいのは分かるけど、他の者達にも挨拶があるからね。ではアルムエルグ殿、テオドール殿、お勤め頑張ってね」
そう言って王妃様とミリアリア様はオレ達の前から立ち去った。
「アルム、大丈夫か?」
「アルム、しっかり! まだ固まっているよ!」
先王陛下が頬を軽く叩き、テオドールがオレを揺さぶる。
大丈夫だよ。ただビックリしただけだよ。 今も少し混乱しているだけで。声も出ないくらいショックで。倒れそうなくらいの衝撃だったけど大丈夫だよ。
「……先王陛下。アルムがショックで固まっています。これでは他の方々への対応は無理かと」
「そうじゃな。思いのほかショックが強すぎたようじゃ」
「馬車で休めば回復すると思いますが、当分はこのままだと……」
「……テオドール、ワシがディーアを呼んでくる。それまでの間はお主が対応しろ」
先王陛下はオレ達の前から立ち去った。
「……先王陛下、アルムの補佐が大変です」
テオドールごめん。ショックから立ち直って動けるまでよろしく頼んだ。
※
初めてアルム様に抱き着きました! とても嬉しいです!
でも今は出発式の途中です。嬉しさは顔には出さずに我慢しないといけません。
今回もアドリブを利かせました。本来ならアルム様に『お体に気をつけてくださいね。無事の帰還をお祈りします』と言葉だけを伝える手筈でしたが、アドリブを利かせて抱き着きました!
お母様がちょっと怒っていますが、この程度なら問題ありません。初めてアルム様に抱き着いたのですから。
アルム様にもう少し抱き着きたかったですが、祝福を封じる魔法が途切れる前にお母様が離してくれました。
「ミリア。婚約者とはいえ、公衆の面前でアルムエルグ殿に抱き着くとは……」
今から説教ですか? お母様。
「良くやりました。皆が貴方達を見て驚いていましたよ。ミリアの行為で仲が悪いという噂も払拭できるでしょう」
お母様は怒っていません。誉められました!
「しかし祝福を封じる魔法が解ける時間ギリギリまで抱き着くのではありません。また毒吐くかと心配しました」
「申し訳ございません、お母様」
「お父様や先王陛下やテオドール殿の協力があり、ミリアの側近達の頑張りが無駄になるところでした」
今回の出発式でアルム様に言葉を伝える為に皆が協力してくれました。
お爺様とテオドール様がアルム様の側でフォローする役。
お父様とお母様が会話している最中に私は神聖魔法の祝福を封じる魔法の準備をします。
そしてアルム様とお話をして、魔法の効果が切れる前にお母様と一緒にアルム様の前から立ち去る。
今回はセリフだけでしたが、出演者が多いです。私の側には隠れてエリス達が待機していました。
他にもアルム様との会話を邪魔が入らないように他の側近達が動いていて、過去最大の人数が参加しました。
これで失敗したらエリス達から全力で怒られる事になったでしょう。
しかしアルム様と自然に会話出来て、抱き着く事も出来たのですから今回は大成功です!
「ミリア、少し良いか?」
あら? お兄様? それに側近のラーブスとデーデルも居ますね。
「私達にも祝福をくれないか?」
祝福ですか? では。
「皆さんのご無事をお祈りします、では失礼します」
そう言ってお母様と一緒に立ち去ろうとしましたが、お兄様から「ま、まて!」と止められました。
「そのような言葉ではなく、きちんとした祝福をだな。私の優秀な側近達はミリアの言葉だけではなくな。……二人に手を差し出してくれないか?」
……お兄様は何を言っているのでしょうか? 二人に手を差し出す?
お兄様の言葉通り二人に手を差し出す。すると二人は跪いて私の手を取りそうになったので、手を引っ込めました。
この二人は私に何をするつもりだったの! 手にキスするつもりだったの! 気持ち悪い!
「ミリア、何をしている! ラーブスとデーデルの好意を無駄にする気か!」
「ベルファルト。貴方は何を言っているの? ミリアはアルムエルグ殿の婚約者よ。逆にこの二人は何をするつもりだったのかしら?」
「ミリアからの祝福を貰う為に必要な行為でしょう。何を怒っているのですか、母上」
手にキスをする事はその相手に好意を示します。婚約者が居る相手にする行為ではありません。それ以前にこの二人はアルム様を貶した敵です!
そのような相手に好意を寄せられているなんて迷惑です!
お兄様達の行為にお母様の表情は普通ですが内面はマジ怒りです。そして不思議そうな表情をしているお兄様。そして気持ち悪い視線で私を見続けているラーブスとデーデル。
エリス達が私を守れる距離まで近寄ってきました。
これ以上、お兄様達の相手をしない方が良いですね。
「お兄様、申し訳ありませんが、他にも用事があるのでこれで失礼します」
そう言ってお母様の手を取って一緒に立ち去ります。
……せっかく良い気分だったのに。お兄様とその側近のせいで台無しです。
「ベルファルトの教育係は何を教えているのかしら? 後で詳しく聞かないといけませんね」
今の教育係は有能と聞いています。なんでもお兄様を真面目に勉強させているのですから。
しかしアルム様を虐めていた時に教育不足として再教育となったお兄様でしたが、まだアルム様を下に見ているのでしょうか? どうしてお兄様はアルム様を嫌っているのか分かりません。
あ、エリスどうしましたか?
「ミリアリア様。アドリブはしないと誓いましたよね。出発式が終わったら反省会です」
エリス怒っていますね。他の側近も怒っていますか? でも結果オーライだったので……。はい、ごめんなさい。
※
私はベルファルト殿下とその側近二人の行動に呆れていた。
確かに数日前に三人に『ミリアリア様にまずは好意を示すべき』と進言したが、このような場所で行うとは思ってもみなかった。
ミリアリア様に拒否されたラーブスとデーデルは、想い人の婚約者に怒りを露わにして、ベルファルト殿下は母親に責められた事に妹の婚約者に怒りを露わにして進言者である私に言寄った。
「ハルネス! お前の言う通りにしたが失敗したぞ!」
「ベルファルト殿下、相手の事を考えるべきでした。このような場所ではミリアリア様も恥ずかしいでしょう。それにムードも無い。もっとムードがある場所でするべきでしたね。例えば先日の入学生歓迎のパーティーとかで」
私はハルネス・ネローレ。ネローレ伯爵家次男でベルファルト殿下の教育係としてエルドラージ王国へ同行する。そしてラーブスとデーデルの相談を受けた者だ。
相談の内容は『ミリアリア様を無能なアルムエルグから婚約者の地位を奪いたい』というモノで、聞いたときは無理だろうと思った。
しかしベルファルト殿下の教育係として、次期宰相になる為に、裏からバルデハイム王国を操る為に、普通にアドバイスを進言したが『場所を考えろ! 空気読め!』という思いだった。
「しかしハルネス!」
「ベルファルト殿下。物事には順序というモノがあります。私も説明不足でした。しかし順序通りにいけば大丈夫です」
数年前からベルファルト殿下の教育係となり勉強を教えて、今では家族以外では一番信頼されていると自信がある。だからベルファルト殿下は「そうか、わかった。ハルネスの言葉を信じよう」と言った。
そして私はベルファルト殿下に「ラーブスとデーデルに…………と言えば立ち直ります」と伝える。
ベルファルト殿下はラーブスとデーデルに言葉をかける。
「お前達、ハルネスの言葉をもっと理解しろ。そして公務に集中するのだ。公務後にミリアと会わせる機会を与えてやるからな」
「はい、頑張ります」
「公務頑張りましょう!」
ラーブスとデーデルの機嫌が良くなり、ベルファルト殿下の機嫌も良くなる。
将来はベルファルト殿下が国王となり、私が宰相に就任したら、ラーブスとデーデルは私の下で働く部下となる。その為にはこの二人からも信頼されるようにしなければならない。
しかしラーブスとデーデルもベルファルト殿下と同じくらい馬鹿だよな。
ベルファルト殿下の幼少期は我儘に育ち、ひ弱な人間を打ちのめして喜んでいたクソガキだった。
そして無能で有名なドックライム公爵の次男を学友にして、自分よりも下の人間を更に貶す事になった。
その時の教育係はベルファルト殿下の性格や思考を矯正しなかった。その理由は『ベルファルト殿下がドックライム公爵家次男を教育している様に見えた』から。ベルファルト殿下の教育という名の虐め一歩手前だ。
その後、学友にラーブスとデーデルが加わり、ベルファルト殿下の性格や思考がラーブスとデーデルにも移り、ドックライム公爵家次男は苛めの様な扱いを受ける。
その頃になるとドックライム公爵家次男は王族や上層部に信頼されていたらしい。
そしてベルファルト殿下の性格や思考が両親に知られた。
教育係の人間達はクビになり、後任に私がベルファルト殿下の教育となった。
最初はベルファルト殿下の癇癪に嫌気がさした。
王族だからぶん殴って言う事を聞かせる事は出来ない。
だから私は策を立てた。
ベルファルト殿下に『あるモノ』を与えた結果、ベルファルト殿下は私の言葉を全て信じる。
その結果、私はベルファルト殿下の教育係として国王陛下達に信頼される事なる。
そしてラーブスとデーデルにも『あるモノ』を与えて、私は二人から兄の様に慕われている。
今回の公務は私にとってもプラスだ。ベルファルト殿下の教育の成果を見せて、私自身も国王陛下や他の上層部に更に信頼される為に頑張らないといけないからな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




