15 出発準備
こんにちは、アルムです。
神殿巡回から数日経ちました。
今度はエルドラージ王国との同盟締結アンドパーティーです。
エルドラージ王国の国王が出席するので、こちらもバルデハイム王国国王も出席する事になった。
場所は元ヨーデンポリー王国で現エルドラージ王国。バルデハイム王国のルックナー砦から徒歩半日くらいの距離にある街の神殿で行われる予定です。
同盟中とはいえ敵地なのだから『危険だ!』という声も出ているが、エルドラージ王国側から『護衛兵は三千人を目安にお願いします』と言われ、エルドラージ王国のコンキデムス王太子が『護衛兵は一万でも二万でも良いよ。でも兵達の食料は三千人までは出すけど残りは自腹ね』という手紙が来た。
バルデハイム王国上層部は馬鹿にされたと怒り、ルックナー砦に駐在する兵と合わせて一万で行く事になった。
それによって準備が忙しくなり、王宮内は慌ただしく働いている。
……ある意味、国王が指揮をとる出兵だからな。
バルデハイム王国側からは国王と側近であるダムボックス騎士団長と宰相補佐、近衛騎士などが多数。そしてルックナー砦責任者のマクガイア将軍、そしてベルファルト殿下とその側近達も同行する。
留守番はゲックハルト宰相、ジャルブランド公爵などだ。先王陛下やゴーイングさんも留守番だ。
そして小さき守護者ことドックライム公爵家次男のオレと補佐としてテオドールとディーも同行する事になった。
本当は行きたくなかったが先王陛下がオレに、
「アルム、今回はエルドラージ王国に行ってくれ」
「私も同行するのですか?」
「うむ、エルドラージ王国が馬鹿な事をするかもしれないからな。息子を頼んだぞ」
「分かりました」
「本当ならワシに同行してもらおうと思ったが、ワシの方が国内だからな」
え! どこかに行くの? 初耳だけど!
「ん? 言っておらんだったか? ジャルブランド公爵領に行く予定だったんじゃが」
「先王陛下、アルムエルグ殿には伝えていません」
「そうだったかの、ゴーイング。まあ、良いだろう。アルムよ、ジャルブランド公爵領でのお土産を楽しみにしておけ」
なんだか、先王陛下の機嫌が良い気がする。なにか良い事でもあったのかな? それともジャルブランド公爵領に行く事が楽しみなのかな?
「楽しみにしています」
「うむ。帰ってきたら一緒に食事でも食べるか。そして出来事を語り合おうかの。お主が未成年で酒が飲めないのが残念だな。そうだ、ゴーイングも一緒に食べるか」
「私もですか? ……分かりましたご一緒しましょう。先王陛下がアルムエルグ殿に酒を勧めるのを止めないといけませんから」
……ゴーイングさんも機嫌が良いな。二人ともジャルブランド公爵領に行く事が楽しみなのかな?
オレは機嫌の良い先王陛下といつも通りに話し合った。
※
……頭が痛い。どうしてこんな事になったのか。これも数日前、ミリアが神殿巡回から戻って来る前の事だった。
「父上! どうして私は駄目でミリアは良いのですか!」
「ミリアは学業で優秀な成績を修めた結果だ」
「私も行きます! 次期国王としてエルドラージ王国の同盟締結パーティーには絶対に行きます!」
「ベルファルト、遊びに行くのではないのだぞ! 死ぬかもしれないのだ! 分かっているのか?」
「そのような事にはなりません! 騎士達が守ってくれるのではありませんか! そんな事よりもミリアだけ学院を休んで私だけ学院に行ったのでしょ! 今度は私が学院を休む番です!」
「ミリアは公務で学院に行けなかったのだ。お前は公務などしていないだろう。学院に行くのは当然ではないか」
「だから今度は私が公務でエルドラージ王国に行きます! 父上と一緒なら安全でしょう!」
「いい加減にしろ! お前をエルドラージ王国に連れてはいかん! 何度も言わせるな! 学生なら学生らしく真面目に勉強しろ!」
「だったからアルムも行けないでしょう! テオドールも! どうして私だけが!」
「アルムはドックライム公爵家代表だ!」
……少し痛い所を突かれた。アルムは小さき守護者として私達を守るべき護衛だ。テオドールもアルムを補佐する為に必要な人員だ。
「アルムが行く位なら私が行った方が有意義です! 私は次期国王ですよ! アルムはただの公爵家次男の無能者です!」
「アルムを無能呼ばわりするな! お前よりも有能だ!」
失言した! 息子に他家の子供を褒めてしまった。幼少期に父から言われた言葉で、私自身も言われて嫌な気持ちになり、将来は他家と比較しないと決めていたのに……。ベルファルトの表情が固まっている。
「……分かった。お前も連れて行く。しかし側近は二人までだ」
「ありがとうございます! 父上!」
……同行を許可してしまった。嬉しそうに部屋を出て、礼儀作法がなっていないな。教師に礼儀作法がなっていないと厳命しなければならない。
そしてミリアが神殿巡回から戻ってきた日、ベルファルトのお目付け役としてジャルブランド公爵にもエルドラージ王国に同行してもらおうとしたが、
「陛下。エルドラージ王国の同行の件ですが、先王陛下がジャルブランド公爵領に行く事になったので辞退いたします」
「……父上がジャルブランド公爵領に行くと言ったのか?」
「はい、シルヴィアーナ様が手紙を出して会う約束をしたようです」
シルヴィアーナ。私の妹で亡き愛する騎士の冥福を祈る為にジャルブランド公爵領の神殿で祈り続けている。
その妹が父上に会おうとしている。父上を憎しみ続けていた妹だったが、時間が憎しみを消し去ったようだ。
「……分かった、許可する。父上と妹を頼んだ」
信頼できる側近が減り、頭痛の種が残る結果になった。
……ベルファルトのお目付け役は誰が良いだろうか? ……他の者と相談して決めるか。
そして現在。
「陛下! 大変です! 神殿長が『エルドラージ王国に行きたくないから旅に出ます』という置手紙を残して失踪しました!」
「捜索しろ! 絶対に見つけだすんだ! 見つけたら簀巻きにして確保しろ!」
……どうしてあんなクソ婆がバルデハイム王国の神殿のトップなんだ! エルドラージ王国に行く日は明後日なのに!
明日までに捕まらなければアルムに頼んで気絶させて簀巻きにして監禁しよう。
※
……簀巻きにされた神殿長を見下ろす先王陛下が言った。
「無様だな」
「喧嘩売っているのかい? クソ爺! 買ってやるからかかってきな!」
「そんな簀巻き姿で粋がっていて、面白いな。酒の肴になるぞ。おい、ゴーイング! 酒だ! 一番いい酒を持って来てくれ! 二人で婆の簀巻き姿を肴にして飲むか!」
「……先王陛下、悪ふざけはお止めください」
先王陛下を諫め、護衛騎士である私ゴーイングは簀巻きの神殿長を見てため息をついた。
「……神殿長も変な置手紙なんて残して失踪するからこんな目に遭うのです」
「マジで小さき守護者は凄いね。ワシが本気で隠れたのにあっという間に見つけて、あっという間に簀巻きにされたよ。こんな事は生まれて初めての経験だね」
簀巻きにされるのは確かに初めての経験だろう。再度ため息をつきながら簀巻き姿の神殿長を解く。
「仕方がないね。エルドラージ王国に行くか。少し面倒だけど、また逃げたら簀巻きにされるからね」
「簀巻き姿でエルドラージ王国に連れて行けば良いものを。見物者の為に檻に入れて簀巻き姿の神殿長は見ものじゃないか? 見物料が貰えるかもしれんぞ?」
「ジジイを檻に入れた方が儲かるよ。ワシが宣伝してやろう。老害ジジイの末路ってな!」
取っ組み合いになりそうなので私は両者の間に立つ。
二人は私を挟みながら睨み合う。ため息が出そうだ。
「先王陛下、神殿長もいい加減にしてください。話が進みません」
……ようやく会話できるくらいの冷静さを取り戻したお二人にお茶を入れる。
「それでどんな用件だい?」
「ポーションをくれ。前と一緒のポーションだ」
「……分かった。明日渡す。しかし国王を辞めてからポーションを必要としなかったのにどうして頼むんだい?」
「……念の為だ。ジャルブランド公爵領に行くからの」
先王陛下は国王時代に神殿長から各種ポーションを貰っていた。怪我を癒すポーションや毒を無効にするポーションなどだ。
それだけ先王陛下は命を狙われていた。護衛騎士にも同じようにポーションを常備させていて、私自身もそのポーションに命を何度も救われた。
「アルムが居ればババアのポーションなど必要ないんじゃが、アルムはエルドラージ王国に行くからの。心配は無いと思うが念の為じゃ」
「……娘に会いに行くのかい? ジジイを殺したがっていた娘に?」
「ワシはそれだけの事をした。……ワシは子供達の教育を失敗した親だ。……長男はワシの後を継げたが、ワシが尽力した結果ではない」
国王陛下は先王陛下に厳しく育てられた。大人でも逃げ出しそうな教育だった。しかし国王陛下は友に恵まれ、宰相や騎士団長等の皆から力を借りてやり遂げた。
「次男は勉強から逃げ出して楽な道を進み続けて罪を負った。しかし周りの者達の力を借りて立ち直った。親としては嬉しい限りだ」
次男である王弟クックスライド様は今では先王陛下からも信頼を取り戻してローデンファング公国に居る。昔とは違い信頼できる王族になられた。
「娘が一番不幸だった。ワシが奴を認めていれば、あのような結果にならなかっただろうに……」
シルヴィアーナ王女はジャルブランド公爵家の騎士を愛した。そして騎士も身分違いを知っているがシルヴィアーナ王女を愛した。しかし先代ドックライム公爵に殺された。その原因を作ったのは先王陛下だ。
だからシルヴィアーナ王女は父親である先王陛下と死亡した先代ドックライム公爵を憎んでいる。
しかし先代ドックライム公爵を憎んでいるのは先王陛下も同じだ。一人娘の愛した騎士を無残に殺されたのだから。私も先代ドックライム公爵を憎んでいた。だから私は彼を暗殺した。
「……死ぬ気で行くのかい?」
「死ぬか、ボケたか? ババア。ワシは許す為に行くのじゃ」
先王陛下は「いつ死んでもおかしくない歳になったからな」と笑いながら言う。確かに先王陛下は御高齢だが、私が思うにまだ十年以上は生き続けると信じている。
「ま、ポーションがあれば死にはせんだろう。明日取りに来な」
「逆だろう。ババアが持ってくるんじゃ」
「このクソジジイ! ポーションに頭が光る毒混ぜて後悔させてやる!」
「黙れクソババア! アルムにまた簀巻きにさせるぞ!」
この二人の口喧嘩をききながら私は再度ため息を吐いた。犬猿の仲である二人の口喧嘩が終わるのは何時だろうか? また私が止めるのだろうか。更にため息をついた。
「そうじゃ、新しいポーションの実験台になってくれ。どんな瀕死の怪我も絶対に死ぬ毒も死の淵でも完治するが、飲んだら数時間後に体調を崩して死ぬポーションが作ったんだが……」
「お主が飲んで死ねババア」
「神殿長お送りします。では失礼します」
二人が喧嘩を始める前に神殿長を引っ張って退出させた。本当に仲が悪い。……喧嘩するほど仲が良いと言うが、上司の喧嘩を止める身になってほしい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




