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14 神殿巡回その後

 神殿巡回が途中で終わり、オレはディーアさんと一緒に先に王都に帰る事になったアルムです。

 しかし向かった先は王都ではなく、神官と貴族の孤児売買契約書事件が有った神殿の街の貴族邸だった。

 そして貴族邸では騎士達によって使用人達の取り調べが行われており、貴族邸の証拠集めを行っていた。


「アルム! やっと来たんだね!」


 オレを呼ぶ声の方を向くと大量の書類を持っていたテオドールだった。


「大変だったよ。授業中に城に呼ばれて、国王陛下に『神殿巡回中に起きた事件について王族として立ち会え』と言われて。凄く大変だったんだよ……」

「そうだったのか……」

「四日前に神殿長暗殺計画を終わらせて、不正財産貯蓄は昨日終わらせて、今は神官と貴族と孤児売買の事件を調べている最中だよ。それが終わったら次の街に行って麻薬密輸の件だね」

「……大変だね」

「……アルムが見つけた事件だよ。神殿巡回はいったん中止されたからこれ以上の事件は起きないから、みんな安堵しているよ」


 確か麻薬密輸事件の次は夜這い事件だな。テオドールは知らないのか?


「……あ! そうか! まだ報告してない!」

「……アルム。報告していない事件が有るのかい?」


 テオドールの目から感情が消えて無表情に……。


「解決したけど、まだ報告書を上げてなくて」

「……どんな事件?」

「ミリアリア様夜這い未遂事件とオレの誘拐未遂事件の二つかな」

「……アルム。二時間後に王都に報告書を送る予定だから、それまでに作成してくれ」

「分かったよ。どこで書こうか?」

「貴族邸の客間で書いてくれ。ディーア、案内してくれ。……報告書見るのが怖くなったよ」


 テオドールが肩を落として疲れ切っていた。……仕事が増えたからね。オレもそんな時は肩を落としてため息をついたよ。

 とりあえずディーアさんの案内に従い客間で報告書を作成する。オレ誘拐未遂事件は思い出すのが苦痛だけど、報告書作成する為には仕方がない。

 側に居たディーアが質問した。


「アルムエルグ様。誘拐未遂事件って何ですか? アルムを誘拐するって不可能ですよね」

「……あまり思い出したくないんだよね。犯人は怖かったよ」

「そ、そんな! そんな強敵だったのですか! 私達では歯が立たない……」


 驚愕しているディーアさんに。オレ誘拐未遂事件の報告書を読ませた。


「……アルム様。ご無事で何よりでした。……大変だったのですね」

「……大変だった。今までで四番目に怖かった事件だよ。いろんな意味で恐怖したよ」


 そしてミリアリア様夜這い未遂事件を作成中のときにドアからノック音が聞こえる。ディーアさんが扉を開けるとジャルブランド公爵令息のワレーンドル様だった。


「久しぶりだね、アルムエルク君」

「お久しぶりです、ワレーンドル様。どうしてこちらに?」

「事件を起こした貴族はジャルブランド公爵派閥でね。事件を調査する為に来たんだよ。そしてアルムエルク君にも伝えるべき事があってね」


 え? オレに伝える事? なんだろう? 

 そしてディーアに退室を求める。ディーアは反論しようとしたけど、秘密協定の話だと思ったのでオレがディーアに「少し出てくれ」と言ったら少し考えてから退室した。


「すまないね。話というのは王都関係の報告書だよ。オーラムヴェルと私に報告書を送って欲しいと頼んだのだが、……その表情を見るに忘れていたね」


 ……すっかり忘れていたよ。オレ個人の報告書って無いからな。小さき守護者としての報告書ならかなり有ったけど送れないからね。


「とりあえずその報告書は見ても良いかな?」


 ワレーンドル様がそう言って手に取った報告書はオレ誘拐未遂事件の報告書だった。


「……苦労したようだね。そっちの書きかけの報告書は?」

「ミリアリア様夜這い事件の報告書です」


 ため息をつくワレーンドル様。そうだよね、ため息をつきたくなる様な報告書だよね。あ、テオドールが部屋に入って来た。どうした?


「ワレーンドル様、勝手に報告書を読まないで下さい。」

「申し訳ない、テオドール殿下。しかし読まなかった方が良かった報告書だった」

「そんなに酷い報告書なのですか? アルム誘拐未遂は、……アルム、大変だったね」


 二人から同情された。……うん、そんな対応だよね。きっとゴーイングさんには同情されて、先王陛下には笑われるのだろうな。


「それで、アルム君。此処で起きた事件、孤児売買事件だが、小さき守護者が解決したのかい?」

「い、いえ。私は、し、知りませんよ……」


 急に話題を変えるワレーンドル様の質問に少し口籠った。


「そうかい? 神殿長暗殺計画や麻薬密輸も小さき守護者が解決したのだと思っているのだけど?」

「小さき守護者が解決したのでしょう。犯人は簀巻きにされて、証拠を置いているのですから。だから先王陛下の命令で王族の私が事件の調査に来たのです」


 ワレーンドル様の質問にボロを出しそうなオレに変わって、テオドールが対応してくれた。


「ミリアリア様の夜這い未遂やアルムエルグ君の誘拐未遂も小さき守護者が解決したのかな? アルムエルグ君、どうなのかな?」

「そ、それは……」

「アルムが解決したのでしょう。神官程度アルムの武力なら簡単に無力化できますので」

「さすがはドックライム公爵令息だね。噂とは大違いだよ。どのように無力化したのかな? アルムエルグ君?」

「え、えーと……」

「神殿に引きこもっている神官なんて私でも無力化できますよ。ジャルブランド公爵令息でも簡単でしょう?」


 ……なんかテオドールとワレーンドル様が争っている。どうしてこんな事態に?

 ワレーンドル様は小さき守護者の正体を知りたいが、テオドールが阻止しているって感じかな?

 そしてオレはうっかり口を滑らせそうだからテオドールがワレーンドル様の対応をしているが、ワレーンドル様はオレに質問しているのにテオドールが答えているから気に食わないのだろう。


「あの、二人とも、私は早めに報告書を作成しないといけないので、口論は他の部屋でお願いしたいと、思うのですが、出来れば……」


 オレが原因なのだが二人の口論のお陰で、報告書提出のタイムリミットが近づいてきている。そして時間に追われてずさんな報告書が父上に見られたら怒られてしまう!


「すまなかったね、アルムエルグ君。私も報告書を手伝ってあげようか?」

「いえ! 私がアルムの報告書を手伝います。一緒に仕事をしているので、慣れていますから!」


 ……二人の言い争いを無視して報告書作成しよう。

 そして思った。二人はなんか似ている気がすると。性格も顔のパーツも少し似ているような。遠い親戚同士でも少しは似るのかな?





 私はどうしてこんな会議に参加しているのでしょうか? 王妃として母親として聞く義務はあると思います。しかし一般的ではない会議なのでため息が出そうです。

 子供の教育会議をするのは良いとは思いますが、恋愛? 反省会はした事はありません。

 それだけミリアリアが皆に好かれているのだと思いたいのですが、そろそろ母親や保護者抜きでしてもらいたいと思ってしまうのは私だけでしょうか?

 婚約者の母親であるディアエルナも疲れきっていますね。……神殿巡回から戻って来てすぐに反省会ですからね。疲れもするでしょう。


「では今回の神殿巡回のミリアリア様の反省会を始めます」


 バルデハイム王国王妃である私は反省会の司会役であるミリアリア侍女のエリスを見てため息を吐きます。

 今回の反省会の参加者は神殿巡回に参加したミリアとアルムエルグ殿の母親のディアエルナ。ミリアの学友兼側近であるファムとコレートとミリアの側近達が参加しています。


「今回の大まかな反省点は、私一人ではミリアリア様の行動を抑える事が出来なかった点と、ミリアリア様が命令を無視してアルムエルグ様と会話して毒を吐いた点でしょう。他にもさまざまな反省点がありましたが、この二点だけに絞り、ミリアリア様には反省と、今後の対策を考えるべきだと思います」


 エリスからの報告書とディアエルナからの話を聞いていましたから分かりますが、対策できるのでしょうか? ……無理とは言いませんが難しいでしょう。

 ファムが「はい!」と挙手しました。どのような対策を発表するのでしょうか?


「ミリア様に質問があります。私達が徹夜で作成したカードは使わなかったのですか?」


 ……初耳ですね。どのようなカードなのでしょうか?

 ……なるほど、言葉を書いてあるカードを使ってアルムエルグ殿と言葉を交わさず会話を成立させようとしたのですね。そのようなカードを使ったとは報告書には書いていませんが……。


「ごめんなさい。カードを忘れてしまって……」

「私とコレートが徹夜して作成した努力が……」


 ……ごめんなさい、ファム、コレート。後日、なにかしらの褒美をあげますから、そんなに落ち込まないでちょうだい。


「ファムさん、落ち込まないで。ミリアリア様はカードを持って行ったとしても使わないわ。王妃様の命令を無視してアルムと会話していたのだから」


 ディアエルナがファムを『無駄な努力でした』と曲解できるような言葉で慰める。……ファムは気付かなかったようですが、他の側近達は気付いているわね。


「やはりアルムエルグ様と会わせないようにした方がよいでしょう」

「手紙のやり取りだけにするとか?」

「アルムエルグ様をローデンファング公国に留学させますか? それなら手紙のやり取りが可能ですね」

「会わせるにしても、私たち全員が対処できるようにして、ミリアリア様がアドリブを出来ないような完璧な台本を作れば可能では?」

「お茶会の回数も減らして、台本の練習を完璧にすれば可能ではないでしょうか?」

「お茶会での席の距離を離して会話できないようにするとかはどうでしょうか?」

「それよりも、これ以上アルムエルグ様とミリアリア様をお会いさせるのは双方が傷つきます。やはりミリアリア様が完璧に神聖魔法を使えるようになった後の方が良いでしょう」

「今回の神殿巡回は急遽決まったから、私達も同行が出来なかった事が原因です。エリスだけではなく他にも同行者が居れば、こんな事にはならなかったのに!」

「準備期間がほとんど取れませんでしたから。それに今回に限って予定で休暇を取る子が多すぎました」

「ミリアリア様が学生になったので少し余裕が出来たので休暇を取ったのですけど、こんな事になるとは思ってもみなかったし……」

「側近の数を増やしてローテーションで休暇を取れるようにする?」


 ……ミリアの側近の反省会の内容は『アルムとミリアの会う機会を減らす』から『安心して休暇を取る方法』に変わりました。

 ちゃんと休暇は取らせているのですが、話を聞いていると休暇中でも側近達はミリアとアルムエルグ殿とのお茶会の台本を作成、演技練習をしているみたいですね。

 少しだけアルムエルグ殿との距離を置いた方が良いのかしら? そしたら側近達も休暇が取れる事ができますし。

 時間の許す限り反省会で皆が忌憚ない意見を述べました。

 反省会に熱中して夜になりました。夕食も話し合いをしながら皆で食事を取りました。……偶にはこんな食事でも良いですね。ミリアの側近達が頑張った提案ですので私も協力しましょう。


「では今回の反省会で決まった事を発表します!」

「ではお茶会の回数を減らす。台本を多岐にわたり充実させる。ミリアは神聖魔法を特訓する。側近を増やして休暇の取り方をローテーションにして休みを取りやすくするに決まりました」

「ミリアリア様の側近候補は私達が推薦してエリスが審査を行い、王妃様とディアエルナ様が最終面接で決める事になりました」

「台本は複数の人気恋愛作家に依頼して側近全員でミリアリア様とアルムエルグ様に合うように変更し、演技練習はこれまで通り王妃様に観てもらう事になります」

「神聖魔法の特訓はディアエルナ様にお願いします」

「ファムとコレートにはこれまで以上にミリアリア様を制御してもらいます。その為にファム達に部下を手配しますので二人ともお願いします」


 ミリアの側近達がやり遂げたという表情をしていますね。……私は疲れました。ディアエルナも顔には出ていませんが疲労しています。


「貴方達の考えを尊重しましょう。私も協力します。ミリアも良いですね」


 ミリアは返事しない。それはミリアを見て分かります。反省会から逃げ出そうとしたので椅子に縛り付け、お茶会の回数を減らす事に反対してうるさかったので口を塞ぎました。


「ムー! ムームー! ムー!」


 王国や他国には美姫と噂されているミリアとは思えないですね。

それでは最後の議題をエリス達側近に伝えましょう。


「では次の議題に移ります。今回決まった事案を皆でミリアを納得させる事。私とディアエルナは退室しますので」

 私は席を立ちディアエルナを誘って、

「では帰りましょう。ディアエルナ、アルムエルグ殿によろしくね」


 そう言って私はディアエルナと一緒に退出しました。

 今までいた部屋から何か悲鳴のような声が聞こえますが気にしません。疲れたので今日は早く休みたいですね。


「では私も失礼します」

「お疲れさまでした、ディアエルナ」


 反省会は何時まで続くでしょうか? 徹夜も考慮に入れて夜食の手配をしてあげた方が良いでしょうね。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「アルムが見つけ且つ解決した事件」ってのは本来他の担当者達が事前に見つけたりそれが叶わないのであれば事件発生時に鎮圧しなければならないのに、それが出来なかった連中の尻拭いやって称賛されるべき…
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] 会話が少なくなって側近ガードが増え、会う頻度も更に減ると確かに 周囲の人は勘違いするわ
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