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18  ルックナー砦にて

 アルムです。現在、テオドールと一緒に神殿長とお茶を飲んでいます。

 テオドールと一緒にルックナー砦見学中に神殿長と偶然会ってお茶に誘われました。


「神殿長、お茶に誘われたはずですけど、どうして地下牢の兵の待機室でお茶を飲んでいるのですか?」


 テオドールが神殿長に質問をしました。オレも同じように質問をしようと考えていたところです。

 神殿長に誘われて、向かった先が地下牢の待機室だったのだから驚きです。

 地下牢の待機室で駄弁っていた兵達は神殿長に「ここは立ち入り禁止だ! 戻れ!」と言われましたが、神殿長が自身の身分を明かして「少し待機室を借りるよ」と言って兵達を追い出しました。

 そして手荷物からティーカップとポーション瓶を出して、ティーカップにポーションを注いだ。


「安心しな。ポーション瓶の中身は普通のお茶だから。ワシのは酒だけどね」


 そう言って酒を飲む神殿長。オレは出されたお茶を飲む。……本当にお茶だな。それも美味しい。

 テオドールもオレに続いてお茶を飲んだ。


「それで神殿長。どうして私達をこんな所に連れて来たのですか?」

「暇つぶしだよ。それから酒が飲みたかったからね。……おっと冗談だよ。アルムに頼みがあってね」


 オレに頼み? なんだろう?

 懐から手紙を出してテーブルに置いた神殿長。


「ワシにもしもの事があったら、この手紙をジジイに渡してくれ」


 オレは頷いて先王陛下宛ての手紙を受取ろうとしたが、


「ちょっと待て。……アルムに渡したら失くしそうだ。テオドールが預かってくれ」


 ……確かにおっちょこちょいだけど。少し酷くないですか神殿長。

 テオドールが神殿長から手紙を預かって言った。


「神殿長。不躾な質問ですが、この手紙には何が書かれているのでしょうか?」

「ワシの遺書だ」


 口に含んでいたお茶を吹き出そうになった。神殿長は世間話をするように簡単に遺書って言って……。


「神殿長!」

「そんなに怒るな、テオドール。万が一の為だよ」

「万が一? エルドラージ王国では命の危険があるのですか?」

「実を言うとね、数日前から嫌な予感がしているんだよ。……ワシの勘は馬鹿には出来んよ。この直感で何度も助けられたのだから」


 神殿長は直感で助かった経験を語る。

 お茶を飲もうとしたけど嫌な予感がしたから、お茶を調べたら毒が入っていたとか。

 神殿巡回中に嫌な予感がしたから順路の変更をして賊の襲撃を免れたとか。

 先王陛下と殴り合いしたときに直感を信じて動いたら勝ったとか。


「今回の手紙は万が一の為だよ。小さき守護者が居るから大丈夫だと思うが、ワシも若くないからね。遺書が必要だと思うだろう?」


 子供にそんな質問を投げかけないで欲しい。どう返事すれば良いか分からないよ!

 それよりも神殿長ってかなり人から恨まれているな。神殿巡回でもいろいろあったし。


「分かりました。お預かりします。ですが私達もエルドラージ王国へ行くのですから、神官長とかにお渡ししておけば良かったのでは?」


 テオドールの言葉は尤もだ。オレも同意する。


「神官長は駄目だね、テオドール。あいつ頭は良いけどちょっとお馬鹿だからね。次期神殿長は無理だね。その事は遺書にも書いているから。次期神殿長もね」


 ……神殿長候補が誰か気になるな。聞いても良いのかな?


「どうした? アルム。次期神殿長が気になるのかい?」

「え! そ、そうですね。少し気になります」


 神殿長は人の心を読む神聖魔法でも使っているのか?


「魔法なんて使わなくてもアルムは顔に出るから何を考えているのか分かるよ。それから人の心を読む魔法なんて無いからね」


 ……神殿長は敵にしてはいけない人だと再確認した。先王陛下の苦労が少しわかった気がしたよ。


「次期神殿長は秘密だよ。テオドールも手紙を開けて内容を確認しないように」

「も、もちろんです! そんな事はいたしません! 絶対に先王陛下にお渡ししますから!」

「手紙を渡すのは万が一の時だよ。それ以外では渡さなくて良いから。何事も無く帰る事が出来たら手紙は回収するから心配しなさんな」


 テオドールもオレと同じ気持ちなんだろうか? 神殿長には敵対しないという事。


「それでテオドールは好きな子は居るのかい? アルムはミリアのどんな所が好きなんだい?」


 ……いきなり好きな女の子の話題になった。


「私は環境の変化に慣れるのに忙しくて、好きな女性はまだ……」


 テオドールには好きな子は居ないか。でもテオドールはモテるからな。学院でも噂されているよ。

 そしてオレの質問だけど難しい質問だ。


「ミリアリア様の好ましいところは……」


 笑顔で心を抉る毒吐いてくるしミリアリア様の好ましいところは……。いつも一生け懸命オレを毒吐くところ? 寝込んだ時に心配して見舞いに来てくれた優しいところ? 人の誠意を踏み付けて試練を与えているところ? 出発前に無事を祈っていたところ?


「……アルム? 大丈夫かい? 難しい質問だったかい?」

「いえ! ミリアリア様の素晴らしいところは……」


 早く答えないと無礼だと思われる可能性が! ミリアリア様の素晴らしいところは……。


「ミリアリア様の素晴らしいところは皆に優しい事や何事にも一生懸命な事ですね。素晴らしいと思います!」

「アルム、ミリアの素晴らしいところではなくて、お主がミリアの好きなところだよ。婚約者なのに分からないのかい?」


 ……分かりません。とは言えない。だってミリアリア様は何時もオレに毒吐いて怒っているのだから。誉めても怒るし、お土産渡しても怒るし、返事しても毒吐いて怒るし……。


「……ミリアリア様に嫌われているのは知っています。私よりも他の人が良いと思っています」


 オレを嫌っているのは今までの言動で分かる。きっとオレが婚約者でなければミリアリア様は素晴らしい男性と婚約者となったはずだ。


「先王陛下のお決めになった事なのでミリアリア様は拒否できなくて、怒りの矛先を私に向けている事を知っています」


 オレも先王陛下が決められた事を拒否する事は出来ない。両親にも何度も婚約解消を頼んでも『先王陛下の結んだ縁談を解消する事は出来ない』と言われているのだから。


「ミリアリア様に嫌われないように頑張りました。これ以上嫌われないように努力しました。でも」


 神殿長に頭を殴られました。オレは別に痛くないけど、殴った神殿長は拳を痛めてたようで、手の痛みを無くそうとしている。


「大岩を殴ったような硬さだよ。どんな頭の硬さをしているんだい!」


 いやオレに言われても……。


「たんこぶ出来るくらいな威力で叩いてもダメージ無しかい……」


 そして痛みが引いた神殿長はオレに向かって説教をする。


「アルム! なに後ろ向きな考えをしているんだい! 男だろう! 男は黙って女の手を引くモノだ! お前には強引さが足りないんだよ! ミリア程度は顎で使うくらいで丁度良いんだ!」


 いや王族を顎で使うって無理でしょう。


「ミリアはお前を好いているんだから! もっと強引に行けば良いんだよ! 分かったかい!」

「で、でも……」


 あれだけ毒吐かれているのに好かれているっておかしいんじゃ?


「でももヘチマもない! ワシの言う事が聞けないのかい! アルムはミリアに好かれているんじゃ!」


 ゴミムシの様な目で視られ、無理難題言われ続けているのに好かれている? 逆に嫌われているでしょう。


「アルムはチ〇コ付いている男だろう! 〇〇〇と×××で△△△で結婚したら※※※や▽▽▽だからもっとしっかりおし!」


 ……何言っているのか分からない。〇〇〇ってなに? ※※※とかどういう意味? テオドールは分かる?


「神殿長、すいませんがアルムには意味が分からないようです。……まだ性教育を教えてもらっていないのでは?」


「……マジかい。王宮で習っていないのかい? 学院でも?」

「王宮で私が受けている授業にはありませんね。学院でも必修科目ではありません。性教育は家に教師を招き入れて教えてもらうのではないのですか? 私は家の執事から説明を受けて習いましたけど」

「確かワシの場合は神殿で先輩から教えてもらったような記憶が……。もちろん女の先輩だぞ」


 ……セイ教育というモノは必須科目なのか。しかし習ったことない。

 ……テオドールみたいにドックライム公爵家の執事から説明を受けた方が良いのだろうか? それともテオドールから教えてもらうか?


「テオドール、セイ教育というモノを教えてもらえないか? 出来れば神殿長にも教えてもらえれば」


 吹き出す神殿長とテオドール。……なんか変な事言った?


「……アルム、王国に戻ったら私が教えるから。間違っても他の人には教えを請わないように。特に女性には言わないようにね……」

「ワシが教えても良いんじゃぞ。さすがに実地は無理だから、他の女子を紹介してやろうか?」

「神殿長! マジで止めてください! アルムだけではなく! 他の皆が大変で酷い目に遭いますから!」


 笑っている神殿長に説教するテオドール。オレって無知なんだなって思った。


 その後、神殿長と別れてからスグに国王陛下がお呼びとの事だったので、オレとテオドールは国王陛下の所へ向かった。

 室内には国王陛下とダムボックス騎士団長とマクガイア将軍が居た。そして挨拶後に国王陛下が、


「アルムよ、マクガイア・ロックマイヤー将軍と腕相撲しろ。負けるのは禁止だ」


 いきなり腕相撲? ダムボックス騎士団長がテーブルの前に立ち、マクガイア将軍がテーブルに肘を乗せて準備している。

 ……どんな状況なんだ?


「小さき守護者であるアルムがエルドラージ王国へ行く条件としてマクガイア将軍に腕相撲で勝つ事だ。アルムよ、マクガイア将軍に勝て!」


 ……なるほど。そういう訳なのか!


「分かりました。頑張ります!」

「待ってください、国王陛下。ハンデとしてアルムは小指だけを使う方が良いです」

「テオドールの言う通りだな。アルムは小指だけ使うように。アルムよ、勝てよ!」

「分かりました。頑張ります!」

「ちょっと待ってください! 私が不利? ハンデが必要? これでも王国では上位の強さなのですよ! 相手はただの子供ですよ!」


 マクガイア将軍が待ったをかけてきた。


「将軍よ、言ったはずだ 。『まずは黙って勝負しろ。勝ったら言う事を聞く』と。何も言わずに黙ってアルムと勝負しろ」


 渋々命令を聞くマクガイア将軍。……そしてオレの小指に大人の手が握り締める。……手加減して痛くない様にしているけど。

 ダムボックス騎士団長が「では始め!」と号令を出した。

 マクガイア将軍がオレの小指が折れない様に少しずつ力を込める。しかしオレの小指は動かない。

 マクガイア将軍が段々と力を込める。しかしオレの小指が動かない。

 マクガイア将軍が顔を真っ赤にして全力を出して来た。しかしオレの小指は動かない。


「アルム、そろそろ決着を付けろ」


 国王陛下の命令でオレは少しずつ力を込める。……マクガイア将軍の手の甲がテーブルに付きそうになると、立ち上がって両腕を使って抵抗するマクガイア将軍。反則だよ!

 でも少しずつ力を込めて最終的にマクガイア将軍の手の甲が付いた。


「……本当にこの子が小さき守護者?」

「納得してくれたか? 将軍」


 理解するのと納得するのは別だからな。きっと混乱しているだろう。


「……納得しましょう。しかし! 子供を連れて行くのはやはり賛成できません!」

「ならどうすれば納得するのだ?」

「私よりも強いなら、……強いか。崖や橋を壊すのだから。なら危険察知能力なら……密偵を簀巻きにしているしな。だったら頭脳で勝負を……私は学院での成績は良くなかったからな……」


 提案しては自分で納得しているマクガイア将軍。……どうすれば良いのだろうか?


「マクガイア将軍、諦めてくれ。……面倒になってきた。王命だ。そして父上の命令でもある」


 国王陛下が止めに入る。どうしても子供が敵国に行く事が不満の様だ。


「それにアルムエルグ殿といえば、ミリアリア様の婚約者でしょう。そのような方を危険な目に遭わせる訳には」

「……アルムは危険とは思ってはいないだろうな。どちらかというと父上の土産を何にするかで頭がいっぱいだろう」


 それはちょっと……。エルドラージ王国が危険な事は分かっていますよ。


「……分かりました。許可しましょう」


 なんとか許可を貰った。しかし、


「アルムは砦に残しておくという形だ。ベルファルトやテオドールを残すのだから、形だけはアルムも残す。……そうだな、アルムは風邪をひいて部屋で寝込んでいるという事にするか」

「では私が看病している事にしましょう」

「そうだな。後は私の信頼する侍女に任せよう」

「場所はベルファルト殿下達と離れている場所で」


 国王陛下とテオドールが決めて行く。蚊帳の外のオレにマクガイア将軍が話しかけてきた。


「アルムエルグ殿。貴方の事は娘から聞いている。とても優しくて心の強い子だと」

「ファムさんから聞いたのですか?」

「ファムとエリスからだ。二人の手紙からアルムエルグ殿の事が書かれていた。心がとてもとてもとてもとても優しいと」


 どうして『とても』が四回も続くのだろうか? 手紙の文字数を増やす為か?


「ファムからの手紙は主にミリアリア様とアルムエルグ殿の事が多いな。ミリアリア様がアルムエルグ殿を慕っている感じが手紙に現れている」


 ……そうなのか? あれでミリアリア様がオレを慕っている? 確かに出発前は抱き着かれて驚いたけど……。


「エリスからの手紙は愚痴だな。仕事が大変とは台本作成とか演技指導とか等だ。どうして『ミリアリア様の侍女が演技指導?』と思ったがアルムエルグ殿は知っているか?」

「私も知りません。でもミリアリア様はエリスさんを信頼している事は確かだと思います」


 ミリアリア様とのお茶会でもエリスさんはいつも側に居るし、オレの事も気にかけてエリスさんは

とてもとてもとてもとても優しい人だ。


「だから二人を心配させないでくれ。アルムエルグ殿が小さき守護者だとしても子供なのだから。なにかあれば私を頼ってくれ」

「はい、ありがとうございます。マクガイア将軍」


 マクガイア将軍は良い人だ。この人の家族はとても良い人だよ。エリスさん、ファムさんありがとう。

 ……そして国王陛下とテオドールの話し合いだけど。


「陛下。アルムを侍女に変装して連れて行けば良いのでは?」

「……ローデンファング領での事件で女装していたらしいな。その手で行くか」


 オレは侍女の格好をして国王陛下に付いて行く事になった。……この歳で女装は少し嫌なんだけど。……命令なら仕方ないか。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうあがいても結末は短編版へ…
[一言] ミリアリアの祝福を抑えなきゃ強引に行けば良いも何も無いという事情を神殿長も知ってるはずなのにアルムに無茶言うなや。上からの理不尽なパワハラじゃん。
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