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7 神殿長による癒し

 顔色が悪くなり、表情が酷くなり続けるアルムの症状を知って、見舞い後に先王陛下に報告に向かった。


「どうした? テオドール」

「先王陛下、アルムの事で報告があります」


 先王陛下が居る部屋で、アルムがトラウマに陥っている事を説明した。


「暗殺者に殺されかけ、殺したショックを受けているのか……。しかしアルムが殺されそうになったとは」

「罠にかかって、アルムが殺されそうになったのかもしれません」

「いや、現場にはそんな物はなかったと報告があったはずだ」


 私も現場での報告を聞いた。現場は罠を設置してなく、何もない普通の森だったそうだ。

 アルムを殺せるくらいの暗殺者。……確かに賞金首がついていた暗殺者だ。強さ的には分からないけど、相手を笑いながら惨殺するイカれた暗殺者という事だ。

 その悪意のせいでトラウマになったのか?

 ……分からない。私にアルムのトラウマを治す事が出来たら良いのに。


「先王陛下。神聖魔法の使い手を呼んでいると聞きましたが、その方はアルムを助ける事が出来るのでしょうか?」

「神殿で一番偉い奴じゃ。その程度の事はできるじゃろう」


 ……神殿で一番偉い人? それって!


「そろそろ来る時間じゃが、偉くなって時間を守らない奴になった。神殿長でなかったら処罰してやる」

「酷い言い様だね。折角いろんな用事をキャンセルして来たっていうのに」


 部屋に老婆が入って来た。長い白髪で白い服に神殿長のみが着る事が出来る衣装を凝らした青白い外套を纏っている。


「時間通りに来たはずだけど?」

「十分前に来るのが筋じゃろう。ワシを待たせるとは何事じゃ」

「先代の国王で、若い者達から嫌われている老害の頼みなんぞは無視しても良かったのだけど、弟子が頭を下げるから来てやったのだぞ」


 にらみ合う先王陛下と神殿長。二人の仲はかなり悪い様だ。

 ……神殿長の後ろにミリアリア様がいる。そういえば、ミリアリア様は神殿長に、祝福を封じる術を習っていたな。


「お爺様も神殿長も落ち着いてください」


 ミリアリア様が二人のにらみ合いを止めさせる。二人はにらみ合っている相手からそっぽを向けた。……大人げない二人だな。


「テオドール、ババアに説明しろ」


 先王陛下の命令で神殿長のアルムの容体を伝える。暗殺者に殺されそうになったせいでトラウマを負った事を説明した。


「……なるほど。その悪夢を見るせいで苦しんでいるんだね」


 ふむふむ、と呟きながら考える神殿長。

 それをよそに先王陛下と私に挨拶するミリアリア様。その後、


「お爺様。私にもアルム様の見舞いの許可を!」

「見舞いは少し待て。アルムが良くなったら見舞いの許可を出す。さすがに今の心情のアルムに毒を吐いたらショックで死ぬかもしれんからな」


 全くその通りです。先王陛下の言う通りです。ミリアリア様の毒舌は今のアルムには致命傷になります。だから自重をお願いします。


「大丈夫です! 先日、祝福を封じる魔法を会得しました! アルム様に毒は吐きませんから!」

「本当か! よく頑張ったぞ! ミリア!」


 ミリアリア様の言葉を聞いて、先王陛下は喜ぶ。


「会得したが、祝福を封じる効果は一分程度だから。それに発動するまで三分くらいかかるわよ。慣れたら効果時間も伸び、発動時間も減るけどね」


 一分間……短いな。でもミリアリア様とアルムが仲良く会話できるようになった。


「話さなければ問題無いだろう。患者は寝ているのだから。ミリアにも夢見の魔法を実践させる良い機会だし」

「悪夢を見るって、そんな事が出来るのですか!」


 私は神聖魔法にはそのような事が出来るなんて初めて知った!


「神聖魔法は普通の魔法とは違う。肉体ではなく精神や心に作用する術が多い。夢見の魔法や、ミリアが会得した祝福や魔力を封じる魔封じの魔法。他にも相手の意識を失う魔法や逆に覚醒させる魔法と色々とある。そして悪夢に打ち勝つ魔法」


 悪夢に勝つ魔法! その魔法を使えばアルムが良くなる!


「悪夢に打ち勝つ魔法。正確には悪夢に打ち勝つように手助けをする魔法で、本人の意思によって打ち勝つ事が出来ないと、悪夢に捕らわれ続ける。だから最初に夢見の魔法を使って、悪夢を確認しないといけない。悪夢に打ち勝てるようにする為に」

「だから早くアルムにその魔法を使え! アルムが悪夢に勝てるように!」


 先王陛下が神殿長に責める様に言う。責めているように見えるけど、内心はアルムの心配でたまらない様だ。


「神殿長! お願いします。アルムを助けてください!」


 頭を下げて神殿長に懇願する。私に出来る事は神殿長に頼む事だけだ。他に何も出来ない……。


「安心おし! 弟子の子供だし。赤子の時に私の腕の中で寝た事もあるし、おむつも替えた事あるのだから。やるだけやるよ」


 ミリアリア様の神聖魔法を教えている師は、アルムの母親と同じと聞いた事がある。神殿長にとってアルムは孫のような感じなのだろう。


「フルブルーネ神殿長! 赤ちゃんの頃のアルム様はどんな子でした? 可愛いい子でした? どんな赤ちゃんでした? どんな匂いでしたか?」


 ミリアリア様がアルムの赤子の頃の事を神殿長に聞く。そんな事よりも……。あれ?フルブルーネ神殿長? 先王陛下、フルブルーグ先王陛下と名前が似ている。

 疑問に思って先王陛下を見る。先王陛下は私の疑問を答えた。


「ただの偶然じゃ。名前が一文字しか違うのは偶然。親族でも知り合いでもない」

「名前が似ているからって、私達の親が会わせてね。そのときジジイは「変な名前だな」って言ったんだよ。だから「自分の名前を知らないのですか? お馬鹿さん」って言い返したら、顔を真っ赤にしてね」

「貴様こそ! 初対面のときに変な髪形をして笑いを堪えるのに苦労したんだぞ。それに型遅れのドレスを着て可哀そうな奴だと同情したわ! ドレスで転んで変な髪形が馬鹿変になって今でも爆笑モノだぞ!」


 再度、にらみ合いになった。先王陛下にタメ口が出来る人が居たなんて……。そんな事より、


「神殿長、アルムを診てください。お願いします」


 にらみ合いを止めて、私達はアルムの部屋に向かった。

 向かっている最中も口喧嘩をして、にらみ合って歩みを止める。

 ミリアリア様と一緒に、二人のにらみ合いを止めさせるのに時間がかかり大変だった。


 アルムが居る部屋の外にはゴーイングとディーアが入口を守っている。

 先王陛下はゴーイングを室内の警備に当たらせて、私達は部屋に入った。

 ……アルムはベッドで寝ている。しかし悪夢にうなされていて、苦しそうだ。


「アルム様」


 ミリアリア様が泣きそうな顔でアルムの手を取って両手で握った。……ミリアリア様が本当にアルムの事が好きなのだな。アルムは優しい姫様に好かれて羨ましいな。


「まずは、夢見の魔法でアルムの夢を見て、悪夢に打ち勝つ魔法を使おう。どんな夢を見ているか分からないからね」

「それで、悪夢に打ち勝つ魔法を使うのは分かったが、どうするのだ?」


 先王陛下が神殿長に聞く。


「簡単だよ。アルムが見る悪夢は殺されそうになる夢だろう? だったら正義の味方に助けてもらうんだ。ちょうど、この国には小さき守護者という英雄が居るだろう?」


 ……え? アルムがアルムの助ける? それって……。


「ババア……。その方法は無理だ。アルムが小さき守護者なのだから。自分で自分を助ける事が出来るのか?」


 アルムが小さき守護者という事実を知って、神殿長はアルムと先王陛下を見る。


「……冗談でしょう?」

「マジじゃ……」


 額に手をのせて天井を仰ぐ神殿長。きっと混乱しているのだろうな。気持ちは少し分かります。


「……では他の方法を考えるか」

「では! 私がアルム様を助ける役になります! 暗殺者の魔の手から、颯爽とアルム様を救って差し上げます!」

「いや、ミリアをアルムの夢に出すのは……。夢の中でもアルムに毒吐いて落ち込ませたら、さすがのアルムもへこむ。最悪、新たなトラウマを背負うかもしれん」


 私も先王陛下の言う通りです。ゴーイングも頷いています。

 今回は諦めてください。ミリアリア様。


「夢を見て判断するか……。ミリア、準備しな!」


 神殿長はため息をついて魔法を使う準備を始める。神に祈りを捧げ精神を集中する。ミリアリア様も神殿長のように神に祈りを捧げた。

 短くなく長くない時間を神に祈り、神に向かって神殿長とミリアリア様は言葉を述べた。


「神域より見守る至高の神々よ。我の祈りを聞き給え」


 神殿長とミリアリア様はアルムの手を取る。……二人はアルムの悪夢を見ているのだろうか?


「……なるほどね。これがこの子が見ている悪夢か。……狂った暗殺者だね。これはさすがに私でも引くわ。……しかし本当にこの子が小さき守護者とはね」


 独り言のようにつぶやきながらアルムの悪夢の感想を言う神殿長。ミリアリア様は意識を集中していて、神殿長のように話す事は出来ない様だ。


「おや? 暗殺者の血を見て動きが止まったね。……この子は血にもトラウマを負っているのかい? 血を怖がっているようすだね」


 神殿長の言葉を聞いて驚いた。アルムは前からトラウマを背負っていた? 初めて知った!


「アルムが血を怖がっている? 初めて聞いたぞ!」

「私もです。そのような事、今まで知りませんでした」


 先王陛下もゴーイングも驚いている。二人も知らなかった様だ。二人が知らない前の事なのか?

しかしゴーイングがふと思い出したように言った。


「……先王陛下。数年前の誘拐事件の時、先王陛下とミリアリア様とアルムエルグ殿と私が誘拐された時、私が賊に刺された時ではないでしょうか?」


 ゴーイングが先王陛下に話しかけ、先王陛下は苦い表情をする。思い当たる節がある様だ。


「あの時か……。アルムの目の前でお主が刺され、間近で血を見た。そのときの恐怖が心に傷を負ったのか?」

「アルムエルグ殿が今まで素手で無力化していたのも、無意識で血を見たくなかったからでは?」

「あの時は恐怖に怯える前にキレたからな。しかしアルムがそんな時からトラウマを負っていたとは……。どうしてアルムの心を分からなかったのだ」


 先王陛下とゴーイングはため息をつき反省する。そんな事は聞こえない神殿長は、アルムの悪夢を見ながら感想を述べる。


「なかなかイカれた暗殺者だね。これは夢に出るわ~。私の夢にも出そうだね。トラウマ負うわ、負うわ。……わ! 気持ち悪い顔! 最後の言葉は呪いだね。……これはなかなかの悪夢だよ。ミリアに見せたのは失敗だったかな? ジジイ、念のためにミリアが吐かない様に桶の準備と水差しの準備を頼むわ」


 先王陛下とゴーイングは反省中で動けないので、私が水差しと桶の準備をする。……神殿長は明るい声で感想を述べているが、悪夢はかなり怖いモノの様だ。

 ……神殿長とミリアリア様は目を開ける。ミリアリア様はふらついて床に座り込んだ。そして再びアルムの手を取って泣き始めた。神殿長はため息をついて「あ~、肩凝った」と呟くだけ。……二人の差は経験の差かな? 信頼度の差かな? それとも歳の差?


「とりあえず、悪夢の内容は把握した。……あとは悪夢に打ち勝つ方法だが……。どうしたジジイ?」

「ワシのせいなのだな。アルムが血を恐怖している事を全く知らなかった。……ワシの責任じゃ」


 ここまで落ち込む先王陛下を初めて見た……。


「先王陛下! 今は落ち込むより、アルムを助ける為に動きましょう! 悪夢も血の恐怖も、今から乗り越えれば良いのですから!」

「……そうじゃな。今はアルムを助ける為に行動しよう! 反省は後じゃな!」


 いつもの先王陛下に戻った。「よく言ってくれた、テオドール。感謝するぞ!」と言って頭を撫ぜる。祖父に頭を撫ぜてもらい嬉しかった。


「さてと、悪夢に打ち勝つ魔法でもかけるか!」



 神殿長は、「神域より見守る至高の神々よ。我の祈りを聞き給え」とつぶやいて、アルムに神聖魔法をかける。

 相談無しでアルムに魔法をかける神殿長。悪夢をどんな内容に変更するのか聞いていない!

 大丈夫なのですか!


「ほれ、終わったぞ」


 と言って「頑張った、頑張った」と額の汗を拭く仕草をした。

 本当にアルムは治ったのか? アルムを見ると、穏やかな表情で寝ていた。

 ……本当に治ったのか? あっけなく治したけど大丈夫なの? 何故か釈然としない……。

 アルムを治してくれてありがたいのだけど、……ありがたみを感じない。

 何故だろう?

 感謝の言葉を述べるけど、感情がこもらなかった。

 ……本当に悪夢を治したのだろうか?


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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