13 エスコート
王宮の大広間では貴族達が集まっており、もうすぐ王族達が入場してパーティーが開始される。
その王族達が集まっている部屋にオレは居た。全員が金のかかった衣装を着ている。王妃様やミリアリア様のドレスも凄く綺麗だ。
「アルムよ、今回はミリアのパートナーを務めてくれて感謝する。あの子も喜んでいたぞ」
陛下の御言葉を受けたが、そのパートナーから先ほど毒を吐かれたばかりで少しショックを受けていました。
「ごきげんよう、ごく潰しさん。今日は私の手を触る事が出来る機会となりましたが、手は綺麗ですか? 病原菌はありませんか? 無能菌とかありませんよね? 頭にキノコが生えていそうなポンコツさんですから心配です。だから手袋を用意しようと思っていましたが、手袋が手元になかったのでロープを持ってきました。小さき守護者が使っていたというレアなロープですよ。そのロープを使って手と首を絞めたらどうでしょうか?」
その後、周りの側近達から「化粧直ししましょう」と言われて部屋の隅に移動されている。
「ミリアは照れているのだよ。可愛い子だ」
「そうね、あの子は楽しみで寝るのが苦労したそうよ」
陛下や王妃が額に汗をかきながらフォローしている。ベルファルト殿下と他国の貴族達はミリアリア様の毒舌を聞いて引いている。
「……アルムはミリアから嫌われているのか?」
ベルファルト殿下がミリアリア様の毒舌を聞いて、表情を固めながらオレに話しかけてくる。殿下はホストとしてエルドラージ王国のマユーラ・オルクーム公爵令嬢のパートナーを務める事になっている。残りの二人は先王陛下と一緒居るそうだ。
殿下の質問に苦笑いをしながら、どう答えれば良いか考えているとマユーラ様が答えてくれた。
「ミリアリア様はツンデレなのですね」
「ツンデレ?」
「特定の人に対して敵対したり、好意的であったりする意味です」
「なるほど。エルドラージ王国ではそのような言葉があるのか」
「はい、他にもヤンデレ、メシウマ、チラウラ、モエ、リアジュウ、メンヘラ、ワクテカなどがありますね」
ベルファルト殿下とマユーラ様が話し込んでいる。良く分からない言葉が多いけどエルドラージ王国特有の言葉なのだろうか?
ミリアリア様が戻ってきた。近くにいたファムさんが話しかけてくる。
「すいません、アルムエルグ様。ミリアリア様は緊張していて変な事を口走りました。でも今度は大丈夫です。緊張をほぐしていますので、ニッコリ笑っているでしょう」
ミリアリア様の迫力ある笑顔が……怖い。笑っているけど心の中では何を考えているのかな。考えると怖い。
「そろそろ時間ですからお喋りは厳禁です。ミリアリア様も喋らない様に! アルムエルグ様もミリアリア様にお声をかけてはいけませんよ! 絶対に!」
「はい! わかりました!」
ファムさんの迫力に押されて肯定する。しかし喋らないとマナーに反するような……。それに手を置いてもらう合図はどうすれば良いのか。
「始まるようですね。ではアルムエルグ様、手を。ミリアリア様は手をアルムエルグ様の手に乗せて下さい。視線は遠くを見て、最初の一歩は右足からですよ」
ファムさんが仕切っている。手を置く場所、視線の方向、歩き方まで指示をしてくる。
「向こうには姉が待機していますので、姉の指示通りに動いて下さい。アルムエルグ様、ミリアリア様のエスコート、よろしくお願いいたします」
そう言ってオレ達の順番になったのでオレはミリアリア様をエスコートしながら大広間に向かった。
貴族達の視線の中でミリアリア様をエスコートするのはとても緊張した。どこかの貴族令息達が小声でオレを貶す声が聞こえる。そんな声を遮るように、ミリアリア様がオレの手を握ってくれて、微笑んでくれた。
その笑みに少し見とれてしまった。集中してエスコート役を成し遂げなくては!
ミリアリア様がオレに初めて微笑んでくれたような気がする。でも心の中ではどんな毒舌を考えているのだろうか……。
最後にベルファルト殿下がマユーラ様をエスコートして大広場の上座に王族が集まった。
「エルドラージ王国からの客人達を歓迎する宴を開催する」
陛下が開催の言葉を発してパーティーは始まった。陛下と一緒にいるマユーラ様が貴族達と挨拶をかわし、その後にベルファルト殿下とミリアリア様と挨拶をかわす。
オレはミリアリア様の隣で待機する。……予定だったけど不穏な声を聴いたので、先王陛下の横にいるゴーイングさんに近づく。
「向こうの壁側の貴族が良からぬ事を喋っていました。飲み物に毒を入れた主犯の一人だと思われます」
昨日の深夜に簀巻きにした賊は実行犯で、取り調べたが計画犯は分からなかったらしい。先ほど運良く計画犯の声を拾ったからゴーイングさんに伝える。
「分かりました、ありがとうございます」
ゴーイングさんは先王陛下に伝えて行った。その後、その貴族は先王陛下に呼ばれて、毒が入っている酒を飲まされそうになる。にこやかに酒を進める先王陛下と毒が入っている事を知っている計画犯の貴族。最終的には先王陛下が笑いながら貴族を退出させた。
……凄いやり取りだったな。逃げ道を塞ぎながら酒を進める先王陛下。周りの貴族達に分からないようにする話術。最後に実行犯の名前を出し、体調不良で騎士に連れられて退出する計画犯の貴族。
近くでやり取りを見ていたけど流石、年の功。そんな事を考えていたら先王陛下に呼ばれた。
「お主のお陰で助かったぞ、感謝する」
「運良く、声が聞こえたので」
「……この大広間にいる大人数の小さい声が良く聞こえたものだ。そういえばそろそろダンスの時間だぞ。ミリアと踊って来い。お主が踊らないとワシがミリアと踊れないからな」
ミリアリア様とダンス。踊りながら毒を吐かれる事しか思いつかないから、辞退を考えていたけど思いつかなかったんだよな。
「ミリアも楽しみにしているからな。二人の仲が良いと、ワシも嬉しいわい」
先王陛下の「絶対に踊って来い」という思い、というよりも重圧に辞退を諦め、覚悟を決める。
そろそろミリアリアの近くに戻ろう。気配を消してオレは無機物になり、壁と一体化するのだ。周りに気づかれずにミリアリア様の近くで待機する。
「無機物の分際でなに勝手に移動しているのですか? 無機物の首に紐でもつけて置いたら勝手に逃げないでしょう。ロープで首を絞めて、……美味しいお菓子ですね、ファム」
いきなりミリアリア様に見つかった。周りの側近や陛下達は驚き、ファムさんがミリアリア様の口にお菓子を入れて毒舌を遮る。
「ミリアリア様、アルムエルグ様は先王陛下に呼ばれて席を外したのですよ。それにそろそろ楽しみにしていたダンスの時間ですよ。アルムエルグ様、ミリアリア様をお願いします。ミリアリア様、手を出してください」
「そうですね、ミリアリア様をお願いします」
ファムさんとコレートさんに頼まれて、オレはミリアリア様とダンスをするべく、出された手を取ってミリアリア様と一緒に広間の中央に向かった。
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