12 妹の思考と侍女の決断
明日のパーティーの為にお母様から早めに休むように言われていますが、城での事を思い出して混乱しています。
ドックライム公爵家の令嬢である私は先日、初めて王宮に行き、ミリアリア様と会いました。
兄の婚約者のミリアリア様です。お母様と一緒に王宮に行ったときに紹介されました。
「貴方がラルーシャですね。初めまして、貴方のお兄様の婚約者のミリアリアです。仲良くしましょうね」
兄を仮の婚約者と言った王女でしたから、私に何か言ってくるのかと思っていましたが……、
「アルムの好きな食べ物は何かしら? 趣味を知っている? 好きな色は? 今回のドレスは水色を主とした色だけど好みかしら?」
側近の人達から止められるまで、いろんな質問を受けました。休日の過ごし方、睡眠時間、好きな花の種類、嫌いな食べ物、近くにいる女性、体を洗うときの順番など。側近のエリスさんに止められるまで質問をされました。
私は兄と離れて暮らしていましたから「詳しい事はわかりません」と答えたらがっかりして落ちこみました。
ミリアリア様は兄を嫌っていない? 周りの人達も嫌っていません。
「アルムエルグ様は忍耐強く、お優しい方です」
「あの方ほど忍耐強い方は見た事ありません」
「心が強く、我慢強い方です」
どうなっているのでしょうか? ミリアリア様は勿論、側近、学友も兄を嫌っていません。陛下も王妃様も兄を褒めています。
「アルムエルグの妹か。お主の兄は素晴らしく良く出来た子供だ。手伝いを頼んで迷惑をかけると思うが許してやってくれ」
「貴方のお兄様はとても心遣いの出来る優しい子です。義理の息子になるのが楽しみね」
本当に王族から好かれています。
でも貴族達には嫌われているみたいです。「欠陥魔法使い」「コネで王族に取り入った無能」「姫様の仮の婚約者」「運動神経は平民レベル」「頭脳低能」と耳にしました。兄と妹に特技や能力を取られて無能貴族。それが兄の評価でした。
しかし表立って兄の悪意を口にする者はいません。陛下や先王陛下に叱咤されるそうです。
噂では兄の噂を消すために、貴族達の噂を流して上書きしたと、聞いた事があります。どうやら事実の様です。先王陛下を怒らせると酷い事になるというのは王宮では当たり前の事で、国王陛下よりも怖いそうです。
そんな人達から信頼されている兄。嫌っている者は噂を信じている者達と私くらいでしょう。
「……兄が信頼されている」
「アルムエルグ様はずる賢く、計画的に動いているのですね」
その呟きを聞いて専属侍女ユーリアが言いました。どういう意味ですか?
「アルムエルグ様が王族の方々の信頼を得られるように、狡猾に動いていたのでしょう。自分を信頼させるために少しずつ時間をかけて、計画的に信頼されるように動いたのですね」
その後もユーリアは言う。
「アルムエルグ様は欠陥魔法使いですから、力が必要だったのでしょう。その力が王族になる事です。王族となれば権力が持てますから」
無表情で私に話すユーリア。どうしたのでしょうか?
「ガガーロン様が領地に戻った件も、アルムエルグ様が裏で動いていた可能性がありますね。両親が居ないときに何かをする予定だったのでしょう」
叔父様が領地に戻った件に兄が絡んでいた? どうして? 叔父様を陥れたの?
「ガガーロン様もクルックス様も当主様の命令で領地に戻りました。アルムエルグ様が裏で手を引いていたのでしょう」
「そ、そんな、兄がそんな事をするなんて……」
「ガガーロン様やクルックス様を陥れた犯人はアルムエルグ様だったのでしょう」
ユーリアの言葉にショックを受けました。あの優しい叔父様を陥れたのが兄の仕業だったなんて……。
兄にみんな騙されていのですね! 私も騙されそうになっていました。ユーリアに感謝しなければいけません。
「兄のおこないを正さなければ……。でもどうすれば……」
「ガガーロン様やクルックス様に連絡を取ってみてはいかがでしょうか? ラルーシャ様の力になってくれると思います」
ユーリアの言葉を聞いて、信頼できる人達を集める事にしました。みんなで協力して、騙されている人達を助けなければ!
私は机で叔父と従兄に手紙を書くことにしました。
※
ラルーシャ様の洗脳が解け始めています。
私の父であるガガーロン様や弟のクルックスがラルーシャ様に子供の時から植え付けていた、アルムエルグ様が無能だという事が解けかけているようです。
洗脳が解けかけている原因は、アルムエルグ様を無能と植え付ける人間が侍女である私しかおらず、ガガーロン様やクルックスと会わなくなったからでしょう。
二人はドックライム公爵から出入り禁止を言われているから会う事も出来ず、逆にラルーシャ様が二人に会う事も出来ない。
近いうちにラルーシャ様にかけられた洗脳は解けるでしょう。それを知った二人はどう思うのでしょうか?
私もそろそろ立場をはっきりした方が良いかもしれません。
ドックライム公爵につくか、それとも肉親につくか……。
ですが肉親と言っても使用人のような扱いしかされていません。
逆に、ドックライム公爵家ではお嬢様の専用侍女として他の使用人達よりも立場は上です。
やはりガガーロン様を裏切って、ドックライム公爵についた良いかもしれませんね。
そうと決まれば公爵に伝えましょう。
公爵の執務室にはちょうど奥様も居るようです。お二人で話しているようですね。
「小さき守護者としてのアルムの行動に責任を持つのは陛下達だ。私達は貴族として親としての責任だけをとる。それに小さき守護者の事を知らないフリして、近くで見ていた方が楽だし、面白そうだ」
「……それは親の言葉ではありませんよ」
は? アルムエルグ様が小さき守護者? 冗談でしょう! いえ、そんな冗談を言う方達ではありません。
あ! 奥様が部屋を出るようです! 私はさっと隠れました。
「アルムも大変ね……。でも母親としてしっかりと教育をしないと。でも小さき守護者を鍛える事が出来るなんて」
そう呟いて廊下を去る奥様。
……本当にアルムエルグ様が小さき守護者なのでしょうか? これは調べる価値がありますね。
この情報をガガーロン様に知らせるべきでしょうか?
まだ証拠はありません。まずは証拠を探しましょう。
そしてこの証拠で専用侍女から侍女長になるもの悪くありませんね。それとも貴族に嫁ぐ事も出来るかもしれません。
そうと決まれば、アルムエルグ様が小さき守護者という証拠を探して、ドックライム公爵に貸しを作りましょう。
ガガーロン様は私の踏み台になってもらいましょう。
親ですけど、親らしい事はされていませんから、この程度の事はしてもらっても罰はあたりません。
そうと決まれば、ラルーシャ様を上手く利用しないといけませんね。
幸い、ラルーシャ様はミリアリア様の学友になりそうですし。王宮に行く事を増えそうですから証拠を集める事が出来るでしょう。
今後が楽しみになりました。
閑話 姫様頑張る ベルファルト視点
私の双子の妹は優秀だ。勉強、マナー、ダンス、音楽と優秀な成績を収めていると聞いている。そして神聖魔法の使い手としてドックライム公爵夫人から手解きを受け、難易度の高い魔法を覚えている最中らしい。
「お兄様、どうかしましたか?」
そして優しく、見た目も可憐で同年代からの人気も高い。
「少し顔色が悪く思えます。御病気ですか?」
「大丈夫だ、昨夜、夜遅くまで勉強をしていたからな」
「さようですか、無理をなさらぬように」
「分かっている。ミリアも体調には気をつけてな」
「ありがとうございます」
今日は特別、ミリアと同じ勉強をするので教師の待つ部屋に二人で向かった。
「そういえばミリアは同年代の友人とお茶会をしたと聞いたが」
「はい、みんなとお友達になりました。学院で再会しようと約束しています」
「そうか、私も同年代の者達と会って、会話が弾んで楽しかった。私の為に騎士を目指す者や、文官を目指す者達と知り合って良かったと思っている。学院内では私の側近になって貰おうと思ったくらいだ」
「さようですか、でも側近に招いても良い人物かを見定めないといけませんね。前の学友の二人は酷い方々でしたから」
ミリアはラーブスとデーデルにあまり良い感情を持っていない。そして、
「彼らはアルム様に酷い事をしたと聞いています。側近には相応しくないでしょう。ですから学院で側近を探すのは良い事だと思います」
アルムの事を話すミリアは嬉しそうに話す。本人は気付いていないが、本当に嬉しそうに話すのだ。私や父上と話すよりも嬉しく話す。
「アルム様もお爺様に頼まれ事を依頼されて忙しいみたいですが、ちゃんと勉強をしているのでしょうか?」
アルムが話題になると私は不機嫌になる。アイツのせいで信頼していた学友二人が、ラーブスとデーデルがいなくなり、授業の密度が増えて大変な目に会っているからだ!
それに私に嘘を教えたりして父上に怒られたりした。魔法が使えない無能を学友にしてやったのに私を裏切りおって!
親の権力を使ってミリアの婚約者になった事や、アルムの悪い話題を同年代の者達から聞いて情けなく思った。そんな無能を学友にした私が情けない!
そんな事を思いながら教師の待つ部屋に着く。
「今日の課題は此処ですね。これはアルム様から聞いた事あります」
なに? アルムから聞いた? 今回の課題はローデンファング公国の地理と歴史だろう。どうしてアルムが出てくるのだ?
「アルム様が前にお爺様とローデンファング公国に行った事がありますから、その時にお聞きしたのです」
その時は私の学友だったはずだ! それなのに私に教えないとは! アイツは私をコケにしているのか!
アイツは無能のくせに、いつも私を苛立たせる! どうにかしないと!
授業後ミリアリアと側近の会話。
「ミリア様、アルム様からローデンファング公国の事を教えて頂いたと聞きましたが何時、お聞きしたのですか?」
「たしかアルム様が帰った後のお茶会の席で……。あれ?」
「あの時のお茶会では教えてもらっていません。アルムエルグ様に毒吐いて終わっています」
「……思い出しました。アルム様が向かった場所だから、その話題でお話出来るように覚えたのでした!」
「どうしてそれが、アルムエルグ様に聞いたと勘違いしたのですか? 願望ですか?」
「夢で見たのです! 夢で凛々しいアルム様がお茶会でローデンファング公国の御話をしてくださったので、その晩に私も勉強したので会話が盛り上がりました」
「……ミリアリア様、他にも勘違いしている事はありませんか? 現実と夢を一緒にしていませんか?」
「……ないと思います、多分……」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




