俺のもの
「こちらに向かってくるわ!!」
「目を瞑っておけ!」
言われた通りシモンズの背に隠れながら目をギュッと瞑る。
私にはどうする事も出来ないし、死神さんに従うしかない……!
――――ガギィィイイインッッ――――
体を震わすほどの衝撃と音を感じ、顔を上げると、互いのデスサイズがぶつかり合っていた。
死神と死神が戦うと、空気が震えるほどの衝撃波が生じるのね……攻撃されているわけではないのに、体がビリビリとして立っているのがやっとだわ!
彼らが見えない人間には、ただ地震が起きているように感じるだけなのでしょうけど。
デスサイズを交え、互いに睨み合っている状況――――シモンズはいつの間にか死神姿になっていた。
死神さんの方が鎌の大きさも腕力も強いのか、とても余裕そうに見える。
子供の死神さんの方はというと……先ほどまでの楽しそうな雰囲気は一切消え、冷や汗が流れていた。
互いのデスサイズを一旦突き放し、距離を保ちながら様子を窺う。
『さっきまでの威勢はどうした?』
『あ、あんた……死神だったのか?! 同じ死神なのに、なぜ邪魔をするんだ!!』
子供の死神さんは悔しさを隠せない様子で、シモンズに食って掛かっていた。
当の本人はというと、こちらをチラリと見た後、いつもの軽い調子でとても恥ずかしい事を言い放つ。
『悪いな、コイツは俺のものだから誰にもやれねぇんだ。 お前が欲しがるなら戦うしかない』
『なっ!』
「ちょ、ちょっと……! また誤解の招く言い方を……ちゃんと”魂は”って付け加えてください」
極力冷静にそう伝える。
この人は時々こういう直球の言い方をする時がある。
とても恥ずかしいし、事実と異なるのでやめてほしいのに……当の本人はなぜダメなのか分からないといった表情だ。
『魂はその人間そのものなんだから、お前は俺のものだろ?』
「またそういう言い方を……頭が痛くなってきました」
呆れる私に肩を組んできて、楽しそうに笑っている。
もう何を言えばいいのか分からないわ。
子供の死神さんは私たちの様子を見て混乱している様子で、宙に浮いたまま呆気に取られている。
『と、とにかく! あんたの魂、いただくから!!』
そう言って、またしても急降下する子供の死神さん。
シモンズは舌打ちをして飛び立っていく。
そして子供の死神さんの倍以上もある自身のデスサイズを振りかざした。
え……待って…………そんな小さな子供に手をかけるつもりじゃ……イヤな予感が体中を駆け巡る。
シモンズは人間じゃない。
死神なのだから容赦ないところもあるのでしょうけれど。
でも相手は子供であることが私を突き動かした。
「シモンズ!! だめ――――っ!!!」
『…………っ!!』
思い切り大きな声を上げ、恐る恐る見上げると……シモンズの大鎌は子供の首筋ギリギリのところで静止していた。
子供の死神さんは恐怖のあまり固まってしまっている。
でも、何とか止まってくれたのよね……?
くるりとこちらに振り向いた死神さんは、かなり……いえ、とても不満そうな表情をしていた。
『アンテリーナ、止めてくれるなよ……せっかくいいところだったのに』
「ごめんなさい。 でも相手は子供ですし、ここでそのようなことはお止めください」
『……ふん』
物凄く不満そう……でもシモンズはそれ以上は攻撃する事はなく、男の子に何かを呟いた。
すると子供の死神さんは突然顔を青くして、一目散に飛んで行ってしまったのだった。
「え……何が起きたの……?」
驚き戸惑う私の前に、死神さんがゆっくりと下りてくる。
追い返す事が出来たからか、目の前の彼は相変わらず軽い調子で嬉しそうだった。
『いや~~話し合いで解決出来て良かった! 同族と争うのは趣味じゃないからな』
「話し合い、には見えなかったですけれど」
『どこからどう見ても話し合いだろう? 俺の話術にかかればこんなものだ』
そんなものかしら……あまりにもシモンズが当然の事のように言うので、そうかもしれないと思ってしまう。
そういえばここには王太子殿下もいらしたのだわ……!
「殿下…………は、いないわ」
『……さっきの死神がやってきた後、すぐに出て行ったぞ』
「そうでしたか。 良かった……」
出て行った気配に気が付かなかった……でも殿下には死神たちの姿が見えていないとは言え、大声で叫んでいる姿とかを見られたくなかったので、ホッと胸を撫でおろす。
ふと視線を上げると、こちらをジッと見つめている死神さんがいる。
『アンテリーナ』
「はい、なんでしょう」
いつもの軽い調子ではなく、表情が無いので何を言われるのか全く予想がつかない。
もしかして、先ほど大声を出して止めたのをとても怒っていたり……?
まさか今すぐ魂を取られてしまうのかしら……まだロザリンドの未来を変えられていないわ。
そんな状態で魂を渡すなんて出来ない。
『お前……』
「あの、シモンズ。 私まだ……!」
『いい声出せるんだな~~てっきり大人しいヤツかと思っていたが』
「………………」
目の前の彼はとても笑顔で、あの場面を楽しそうに振り返っていた。
予想外の言葉に拍子抜けしてしまう。
「怒ってない?」
『何をだ?』
「大きな声で止めてしまったから……」
『あんなので怒るわけないだろう? 俺とお前はパートナーなんだから、相棒の言うことはきかないとな』
なんだろう……死神なのに凄くいい人だわ。
人じゃないんだけど。
あまりにもいい人なので善良な存在と勘違いしてしまいそうになる。
でもあの時私が止めていなかったら、あっさり子供の死神を切り刻んでいたでしょうし……考えれば考えるほど混乱してくるので、ひとまず思考を停止する事にしよう。
「そうですね。 私たち、相棒ですものね」
『そうそう。 お前の魂をいただくまでな!』
サラリと笑顔でとんでもないことを言われてしまう。
このパートナーシップはロザリンドの未来を変えるまで。
でもそれまでは死神さんも友好的な様子だし、とても強そうなのでありがたいことかもしれない。
私はいったん気持ちを切り替え、その後もお勤めをしっかりと果たして公爵邸へと帰邸したのだった。
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