小さな死神さんの襲来
「えーん! 今日もお勤めでお姉様とゆっくりできない~~」
「ロザリンドったら。 学園に通わない代わりにお勤めに出ているのだから、しっかり役目を果たしなさい」
「お母様が厳しいっ!」
今日も今日とて食事後のお茶の時間にロザリンドは盛大に駄々をこねていた。
まだまだお子様のようね……でも私は妹が可愛くて仕方ないので、彼女の髪を優しく撫でた。
「ロザリンド、明日の私のお勤めが終わればお休みだから、一緒にお出かけしましょうよ」
「本当?! わぁぁぁ何を着ていこうかしら!」
「まったく、もう……アンテリーナだって休みたいでしょうに」
「私は大丈夫ですわ、お母様。 たまには息抜きをしないと」
お母様は私を気遣ってくださって、ロザリンドは私と一緒にいたいと言ってくれる。
皆の愛を感じると、逆行する前の冷え切った心が溶けていくよう。
この国を護る為にもお勤めに精を出さなくては、と気合を入れ直した。
翌日――――
夜になり、いつものように王宮へ赴き、神官長様が出迎えてくださった。
しかしその中に、いるはずのない人物が立っている。
この国の王太子であるアステカ殿下だ。
なぜ殿下がここに……?
彼はロザリンドの婚約者で彼女を深く愛している……単独で私に会いにくるなど、今まで一度もなかったのに。
それでも王太子殿下に挨拶をしないわけにはいかないので、丁寧にカーテシーをする。
「顔を上げてくれ。 貴方は私の婚約者の姉君なのだから」
「は、はい」
一体何が起きているの?
王太子殿下が自ら私に会いにくるなど、逆行前も一度もなかったはず。
彼が私のことが気に入らなかったのは分かっている。
夜会などでもロザリンドと私が一緒にいると、あからさまに嫌な表情を見せていた。
瞳の奥は冷えていて、私としても王族の方と関わりたくはなかったから極力視線を合わせないようにしていたのよね。
今日も笑顔を見せてはいるけれど、目は笑っていない。
怖いお方――。
「今日は君が祈りを捧げる姿を見る為に来たんだ。 昨日はロザリンドのお勤めを見させてもらった。 たまにはこの国の王太子として国を護る神子の姿を見てみたくなってな」
「そう、ですか。 承知いたしました」
よくは分からないけれど、そういう理由ならば断わる事も出来ないし、このまま儀式を進めていきましょう。
神官長様の方へ視線を向けると頷かれたので、祭壇の方へ歩いていく。
そしていつものように供物や花を供え、祈り捧げ、力を使っていった。
これで満足して王太子殿下も去っていくでしょう。
そう思っていたのに。
神官長様たちはゾロゾロと去って行く気配を感じたけれど、王太子殿下が去ろうとする気配がない。
チラリと様子を窺ってみると、祭壇の方を見つめながら立っていた。
どういう事?
なぜ戻らないの?
今の殿下が何かをしたわけではないけれど、処刑される時の殿下の表情や声音を思い出すと、今でも胸が苦しくなってしまう。
私を犯人だと決めつけたのもこのお方だから……あの時の冷たい目を忘れる事はないわ。
出来る限り一緒の空間にいたくはない。
息苦しさを感じていたところに、突然軽やかな声が聞こえてくる。
「おや? 兄上ではありませんか! なぜここに?」
「ミハエルか。 神子殿の様子を見てみたくなってな。 お前こそ婚約者のお勤めに連日訪れるとは熱心だな」
「そりゃ愛しの婚約者殿ですので。 様子を見に来るのは当然かと……なぁ、アンテリーナ」
「ええ、そうね……」
愛しの婚約者って……もはや何を言えばいいのか分からず、適当に返事をしてしまう。
それよりも、完全にシモンズの性格が出ちゃってるわ……!
ミハエルは王太子殿下にそんな口のきき方はしないのだから……案の定殿下が少し訝しげな表情をしている。
「ミハエル、お前……アンテリーナ嬢に対してそんな話し方だったか?」
「ん? ああ、ずっとこんな感じでしたよ」
ミハエル姿のままこちらに歩いてきたシモンズは、私と肩を組み、ニッコリと笑っている。
婚約者とは言え殿下の前で肩を組むなんて、ミハエルじゃなくてもしない……もうどこからツッコめばいいか分からない。
困り果てる私とお構いなしのミハエルを王太子殿下が交互に見ている。
そんな事よりお勤めを果たさなくては。
そう思った瞬間、どこからか可愛らしい声が聞こえてきた。
『きゃははっ! こんなところに綺麗な魂をしたお姉さんがいる~~』
声の主は神殿の入り口のあたりにいた。
その見た目はまだ10代前半の子供のようにも見える。
漆黒の髪は短く、黒いローブを纏っているけれど、おそらく男の子……と思っていいのかしら?
そして自身の身長くらいの鎌の上に座り、宙に浮いていた。
その様子を見ただけで、この子が私たち人間とは違う事が分かる……鎌も持っているし、死神よね。
(シモンズ、あの子も死神?)
念のため小声で確認してみると、少し真剣な表情になった死神さんはゆっくりと頷いた。
どうしてまだその時じゃないのに、私のもとへ死神がやってくるのかしら。
『そこのお兄さんも僕が見えるんだ? おもしろいな~~二人いっぺんに魂をもらっちゃおうかな!』
シモンズは死神だけれど、ミハエルの見た目なので同じ死神仲間だとは気付いていない様子だった。
その彼の腕が私の前に差し出され、私を自身の背に隠すように前に立つ。
いつもは軽い調子の死神さんだけれど、少しピリッとした空気。
「俺の後ろにいろ」
「……ええ。 分かりました」
『隠してもムダだよ! 二人まとめていただくんだから!!』
子供のような無邪気な表情が、余計恐怖を掻き立ててくる。
神殿の天井高くまで舞い上がった子供の死神は、鎌を掲げたかと思うと、スピードを上げながらこちらに急降下してきたのだった。
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