アンテリーナとの邂逅 ~シモンズSide~
その時は突然やってきた。
ミハエルとの約束や、アンテリーナ自身の魂を手に入れる為にひっそりと人間に成りすましていた俺。
このまま過ごしていけばやがて彼女が年老いて寿命が尽き、そのまま俺が魂をいただく……そう考えていた。
今思えば人間界での動きを何も分かっていなかったのだろう。
いつものようにミハエルの執務室で人間の仕事を無難にこなしている時、突然扉が乱暴にノックされる。
「何事だ?」
執務室に入ってきた衛兵は明らかに慌てていて、息を切らしている。
何かあったと言わんばかりだな。
正直人間界のゴタゴタなど興味はない。
何が起こっていようと静観する気満々だったのだ。
「ミハエル殿下! 大変です! ご婚約者であるアンテリーナ様が捕らえられました!!」
「は?」
何を言われているのか分からず、事態を理解するのに少し時間がかかった。
衛兵が懸命に説明していく――――アンテリーナが王太子妃候補の自身の妹を殺害した犯人?
何かの冗談か?
あの女の魂を見てきたが、私利私欲で人をどうにかしようとする人間ではない事は確かだ。
なぜそのような事態に?
色々な事が疑問だったが、次に衛兵が放った言葉が俺の判断を鈍らせる。
「このままではアンテリーナ様が処刑されてしまいます!!」
「処刑……」
処刑か……その方が早めに魂が手に入るのではないか?
一瞬過ぎる甘い誘惑。
あの魂を手に入れる機会がやってきた。
これは喜ぶべきことのはず。
なのに微妙にモヤモヤするのはなぜだ。
ミハエルとの約束のせいか?
誰かが彼女の命を奪うところを想像すると、さらに胸がモヤッとする。
このまま処刑させて良いものかどうか――――呑気に考えている内に、処刑の時を迎えてしまう。
しまった、冥界の者と人間とでは時間の感覚が違うんだった。
ミハエルとして他の王族達と貴賓席に並び、処刑台の方へ視線を移す。
そして久しぶりに見るアンテリーナはというと……彼女の魂が…………どんどん真っ黒に染まっていくではないか――。
あの輝きはもうない。
女神像を模っていた魂はドロドロのスライム状に溶け、禍々しいオーラを放っている。
なんてことだ……!!
これはかなりマズいのではないか?!
とは言え、今まで見ているだけでほとんど話したこともない人間に声をかけるのも緊張するものだな……冥界に君臨する冥界神になる俺が、一人の人間相手に何を言ってるんだ……!
席に座りながら悶々と考えを巡らせていると、ミハエルの兄であるアステカ王太子が声を張り上げて処刑を宣言する。
「これより、我が最愛の婚約者ロザリンドをその手にかけた大罪人、元公爵令嬢アンテリーナ・カルヴァリオスの処刑を始める!!」
「「オオォォォォオオオ!!!」」
何が最愛の婚約者、だ。
なんとなくコイツが処刑宣言しているのが気に入らず、悪態をついてしまう。
こんなヤツらにアンテリーナの魂がどんどん溶かされていく。
「チッ。 めんどくせぇな……」
ひと言呟き、シモンズとしてアンテリーナのもとへ飛び立った。
どうせ俺の姿は人間には見えてないだろう。
『おい、お前。 このまま殺されていいのか?』
禍々しいデスサイズを掲げながら、軽めに声をかける。
闇堕ちしてしまいそうな人間だ、ヘタに刺激しないように気を付けなければならない。
ゆっくりと顔を上げたアンテリーナは、藍色の目を見開き、その瞳には俺の姿が映っている。
なんだ……見られているのは俺の方なのに、目が離せね――……。
「私の魂をもらいに来たのね、死神さん。 そんなにほしいならいくらでもあげるわ」
目には薄っすら涙が浮かんでいる。
哀しいのか悔しいのか……己の魂を闇に染めてまで、今のお前は何を考えている……?
なんにせよ、今くれるって言われても嬉しくはねぇな。
『あ――……いや、今のお前の魂はいらねぇ』
「え?!」
『でも、まぁ……少し時間を巻き戻せば……』
そうだ、この代々の冥界神にだけ使う事ができる真・デスサイズを使えば、時を巻き戻せる――――ここにいる人間の血と魂を全部使う事になるが。
「出来るの?!!」
案の定飛びついたアンテリーナ。
やり方は伝えない。
言えばそんなことはダメだとか、面倒くさいことになりそうだからな……多少冥界法を犯す事になるがどうせ巻き戻るんだから問題ないだろう。
『……フッ。 出来ない事はない。 ただ条件がある』
「何でもするわ」
覚悟を決めた瞳。
こんな風に人間と向き合って会話するのはミハエル以来だな。
ほんの少しワクワクしている自分がいる。
『即答か。 気に入った! いいだろう、お前の望みを叶えてやる。 俺はお前の魂がほしい……望みを全て叶えたら俺にお前の魂を喰わせろ。 死神である俺と魂の契約を交わすのだ』
「分かった」
案の定アンテリーナは即答した。
やっぱりコイツは面白いな。
アンテリーナの気が変わらない内に終わらせるか。
大鎌デスサイズを振りかざしながら天に掲げられた大鎌に己の生命力を集中させると、デスサイズが禍々しいオーラを放ち、大鎌全体に古語が浮かび上がる。
この場にいる聴衆からどんどん魂が抜けていき、次々に人々が倒れていった。
その間に処刑人がアンテリーナの胸を一突きし、処刑する姿が目に入ってくる――――時間を戻すとは言え、あまり気持ちのいい光景ではないな。
さっさと済ませよう、そう思った瞬間。
ふと王族の座る貴賓席が目に入ってくると、国王や王妃などは倒れている人々を見ているのに対し、王太子だけはこちらを凝視していた。
アイツは――――俺が見えているのか?
何者だ?!
まぁいいだろう。
時間が巻き戻れば王太子についても調べる事ができる。
驚きつつも、とにかく逆行させる為にデスサイズを思い切り振り切ったのだった。
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