魂の契約とパートナーシップ
「そんなに見つめるなって。 俺が美形なのは認めるが」
「え……っと……」
死神さんはよく分からないことを言いながら、得意げに笑っている。
こういう時はどう返せばいいの?
美形だから見惚れていたわけではなくて、ただ驚いていただけなのだけど、そんなことが言いたいわけではなくて。
「死神さんはまたなって言っていたけれど、こうやってまた会えることが分かっていらしたの?」
「まぁな。 お前は気付いていなかったが、巻き戻す前も俺はこの体でお前の近くにいたんだぞ」
「えぇ?!」
「まぁこのもっさりした前髪じゃ、俺の美形にも気付かないのは仕方ないが」
そう言いながら、またしても得意げに笑っている。
確かに整ったお顔なのは否定しない。
でもそういう話をしたいのではなくて……ここはもう何も言わない方がいいかもしれないと判断して言葉を飲み込んだ。
それにしても第二王子とはほとんど交流した事がなかったのだから、全く気付かなかったわ。
いつからミハエル殿下が死神さんだったのかしら。
色々と聞きたい事があるのに、死神さんがまたしても衝撃的なことを言うので、聞きたいことが頭から飛んでいってしまう。
「お前と会う時はこの姿で来るからな。 俺も大事な魂を他のヤツに取られるのもイヤだし」
「今、なんて仰ったの?」
「いや、お前と会う時はこの姿で来るって……」
「その後です」
「大事な魂を他のヤツに取られるのもイヤだし?」
「それはどういう事です?」
「お、お前、まさか……俺との契約を忘れたのか……?!」
「契約…………」
もしかして『俺は――――――ら、――――……――だ』の部分って、そういう内容だったということ……?
私があの時の事を思い出しながら考え込んでいると、呆れたようなため息が聞こえてくる。
「はぁ……やっぱり忘れてるのか。 俺がお前の望みを叶えたら、お前の魂を俺に喰わせる契約だったろ」
「わ、私を食べても美味しくはないと思うのだけど……」
「安心しろ、お前の魂にしか興味はない」
死神さんは真顔でキッパリと言い切る。
そんなにハッキリと言わなくてもと思いつつ、死神だから欲しいのは魂なのかと納得したけれど……なぜか死神さんの言葉に胸が少しモヤッとしている。
どうして?
どんな条件にしても、時間を巻き戻してまたやり直すチャンスをくれたことには感謝しかないのだから。
「あの……死神さん、時間を巻き戻してくれてありがとう。 あなたの望み通り、ロザリンドや家族を救うことができたら私の魂をあなたに捧げると誓いますわ」
「……死神との契約はその魂に刻まれている。 お前が俺から逃れる事はできないぞ……覚悟の上か?」
ミハエル殿下の見た目だった死神さんはみるみるうちに死神の見た目に変化し、異様な威圧感を放ってきた。
「驚いたか? ミハエルの魂をいただいたのもこの俺だ……怖いだろう?」
物凄い圧をかけながらも真剣な眼差しで私に問いかけて来る。
私を試しているのだろうか。
処刑される時もされた後も、死を恐れたりはしなかった。
私が怖いのは、愛する者達の悲惨な未来だけ――――
もともと自分の事には無頓着なので、死神さんの凄みにもあまり恐怖を感じることはなかった。
それに無理やり魂を奪ったりしないところを見ると、目の前の彼は信頼できる人物のように見えるから……私も彼に誠意を返したい。
「いいえ、怖くはありません。 あの時、あなたに誓ったのは全て覚悟の上です」
私はこの逆行した世界の家族を救う。
そしてあの男、大神官フェラガモート。
『ようやく邪魔者を消す事ができる。 自分のせいで最愛の家族が消えていくのを悔やみながら絶望して死ぬがいい』
ただ私を消したいが為にロザリンドに手をかけたのだろうか……大神官は私にも良くしてくれたけれど、ロザリンドのことは殊更可愛がっていたから。
未だに信じられない気持ちが強い。
でも彼の目的や思惑は分からないけれど……絶対にあの男の好きにはさせない……!
邪魔をするなら戦うのみ。
その決意を滲ませた私の言葉を聞いた死神さんは、表情を崩し、見た事もない笑顔を見せてくる。
「お前、本当に面白いなぁ……! 俺が協力してやらなくもないぞ。 なんだか面白い事になってきたからな~」
「協力してくれるだなんて、ひょっとして死神さんはとても優しい人なのではないですか?」
自身が楽しいからと言って、死神が人間を手助けしてくれるだなんて思わなかった。
あまりにも柔らかい笑顔を見せてくるものだから思わず聞いてしまったけれど、途端に彼の顔が赤く染まっていく。
「お、俺は人ではない! それに死神が優しいなんて言われて喜ぶと思うなっ!」
そう言いながらも口の端が上がりそうになるのを必死に堪えているように見える。
これは明らかに喜んでいるような気がするのだけれど……でも照れくさそうなので深く追求しないでおこう。
口は少し悪いし死神だし、正直私達が話している内容はとても重い話だ。
それでも彼の正直な反応や言葉は少し可愛らしく思えて、緊張がほぐれていく。
滅多に家族や邸の者以外の前で笑わないのに、自然と顔が緩んでしまう。
「ふふっ。 そうですね、嬉しくないですよね。 では死神さんが喜ぶことを教えてください」
「難しい質問だな……」
契約を履行するまで、できる限り良好な関係を築きたい。
その方がメリットが大きいと思って聞いてみたけれど、真剣に考えて悩んでいる。
見た目は普通の男性と同じで時々禍々しい笑みを浮かべる時もあるのに……こういう時は子供みたいな面を見せるのね。
そんな事を考えながら死神さんからの言葉を待っていると、意外な言葉を発したのだった。
「俺はお前が元気でいてくれればいい」
「え……本当にそれでいいのですか?」
「ああ」
凄く真剣な表情。
でもどうして……?
最終的には私の魂がほしいはずなのに、元気でいてくれればいいって……あまりに真剣な眼差しを向けてくるので、なぜか目が離せない。
でもすぐに表情を崩した死神さんは、明るい声で言い放つ。
「お前が元気でいれば、その分魂の状態も良くなるからな!」
「……ふふふっ。 そうですね」
彼にとっては一番状態が良い極上の魂をもらい受ける事が最重要なのだから、そういう意味よね。
そんな事も明け透けと言ってしまう正直者の死神さん。
私にとっては噂話が大好きな貴族の令息や令嬢より、よほど信頼できる存在かもしれない。
「俺のことは死神さんではなく、シモンズと呼べ。 王子姿の時はミハエルで構わない」
「シモンズ……承知いたしました。 ではシモンズ様」
「シモンズでいい」
殿方を呼び捨てにする機会があまりない私にとって、とてもハードルが高い要求に一瞬戸惑ってしまう。
でも有無を言わさないようにニコニコしている死神さんを前に、シモンズと呼ぶしかなかった。
「ゴホンッ。 ではシモンズ。 互いのパートナーとなり、協力し合いましょう」
「いいぜ。 お前は家族の命を、俺はお前の魂を守ってやる」
「よろしくお願いいたします」
「ああ。 それにしてもその堅苦しい話し方、何とかなんねぇのか?」
「急にそんなことを言われましても……が、頑張ります」
「よし、頑張れ!」
私たちは握手をしてパートナーとなる事を決めた。
このパートナーシップが私の運命を大きく変えていく事になるとは思いもせずに――。
シモンズはよほど嬉しかったのか、ニコニコと喜びを隠そうとしない。
死神って思ったより怖くはないかもしれないと思いつつ、これからどうやってロザリンドを救おうかと考えを巡らせていた。
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