火花散る図書館での調べもの
二階には禁書が納められている本棚もあるけれど、それを読むには王族の許可が必要なので、ひとまず禁書以外の本棚を物色する。
気になった本を手当たり次第取り出すと、あっという間に両手で抱えるほどの冊数になってしまう。
一旦テーブルに置いておかなきゃ。
窓際のテーブルセットへ向かおうとしたところ、抱えていた本をシモンズがサッと持ってくれたのだった。
「持つぞ」
「ありがとうございます」
「ん」
……こんなに気が利く人だったかしら。
でも助かったわ……思いがけず両手が空いたので、また気になる本を取り出していく。
すると次はグリエル殿下が隣に立ち、興味深い表情をしながら声をかけてきた。
「何を調べようとしているの?」
「え……っと、他国について勉強しようかと」
「それは我が国も入っている?」
「はい」
「それなら僕に直接聞いてくれればいいのに」
「いえ、殿下のお手を煩わせるわけには参りませんので。 自分で出来る事は自分でしたいのです」
「あなたは……本当に女神のような方だ」
殿下は恥ずかしげもなく私を褒めちぎり、手の甲へ口付けをしようとする。
これは本来ならロザリンドに向けられるべきだった感情――――私が女神のように見えるだなんてあり得ないもの。
どうして逆行前と変わってしまっているのだろう。
戸惑いながらも曖昧な笑みを返し、テーブルへと戻って行った。
「グリエル、アンテリーナに何かしただろ」
「いいえ、君ほど無礼な態度は出来ないので」
「なんだと?!」
「二人とも、ここは図書館ですしお静かに」
「「はい」」
いくら王族と言ってもルールやマナーは守らなくてはならない。
むしろ人の上に立つ者はお手本にならなければならないのだから。
私の言葉に二人はすっかり静かになったので、さっそく読書を始める事にした。
まずはグリエル殿下の国、シジリアス王国の歴史などが書かれた本を読み始める。
シジリアス王国は我が国の西側に位置し、切り立った山々に囲まれている事から鉱物資源が豊富で貿易が盛んな国だ。
しかし夏は暑くて雨が降りにくく、干ばつが起こりやすい……ちょうど今時期、干ばつが起きる時期よね。
「グリエル殿下、今年も干ばつは起こりそうですか?」
「ええ……毎年のことなのだけど、こればかりは天に祈るしかない」
「そうですか……」
「でもレグモートン王国には感謝しているよ。 水不足対策として水路を作るのに協力をしてくれて、こちらに送ってくれているのだから」
「ふん。 感謝することだな」
「もちろん我が国からは鉱物資源を提供しているし、お互い様だけどね」
二人は隙あらば火花を散らしている。
喧嘩するほど仲が良いと思っておこうかしら。
シジリアス王国の現状を考えると……私達みたいな神子の力がほしいと思うのは必然かもしれない。
力を使ってあげたいけれど、そんな事をすればどちらの国にも混乱を招くことになってしまいかねないから……グリエル殿下とは距離感を間違えないようにしなくては。
さらに読書を続けていき、全部で10冊を読み終えてひと息つくことにした。
ふと隣りに視線を移すと、シモンズが眠ってしまっている……読書する性格にも見えないし、暇だったわよね。
でも色々と騒動もあったし、心配して付き合ってくれたのかしら。
そう思うとじんわり胸が温かくなる。
「一休みしようか、アンテリーナ」
「はい。 グリエル殿下は何をお読みになっていらっしゃったのですか?」
「僕はね、乾燥した地域でも強い農作物を調べていたんだ。 我が国にはない品種がこちらにあるかもしれないし」
「殿下は自国をとても大切に想っているのですね」
「そうだね……」
「素晴らしいことですわ」
こんな風に考えてくれる王族がいる国は幸せだと思う。
出来る限り協力してあげたい……この国にいる間は楽しいと思えるように。
「ありがとう、アンテリーナ。 君が我が国に来てくれればいいのにと切実に願ってしまうよ」
「それは……」
「ダメだ」
隣りからの声に視線を移すとシモンズが起きていて、ミハエル殿下姿なのになにやら不穏な空気を放っているような気がしてしまう。
「俺が寝ている間に……アンテリーナは俺の婚約者だと言っている」
「まだ未婚なのだから何の問題もないと思うけどね」
「アンテリーナはあんたを選ばないぞ」
「どうかな……彼女はこんな小さな国に収まっているような女性じゃないよ。 もっと大きな世界に羽ばたくべきだと思わないかい? きっと世界中の人々が彼女のことを待っていると思う」
「…………っ」
どうしてシモンズはそこで黙ってしまうの?
私はもっと大きな世界に羽ばたきたいとは思っていない。
この力は自国の為に使いたいし、家族を救う為に時間を巻き戻してもらったのだから……そう言いたかったけれど、言えるはずもなく。
それに死神さんが否定してくれなくて、少しショックを受けている自分がいる。
違う世界に行くべきだと思っている……?
私の魂をあげるって約束したのに――もういらなくなったの?
それとも私がグリエル殿下を選ぶとでも……?
嫌な思考が頭を占めてしまいそうなので、とにかくこの話を終わらせるべく今日は帰邸する事にした。
「もうそろそろ帰ります」
「……そうか」
私の言葉にも力なく返事を返すシモンズの方へ視線を向けたけれど、彼と視線が合う事はなかった。
その代わりグリエル殿下が「馬車まで一緒に行くよ」と言ってくれたけれど、
「いいえ、ご心配には及びませんわ。 失礼いたします」
グリエル殿下のご厚意を丁寧にお断りして、足早に図書館を退出した。
数冊、持ち帰りする事にした本を抱き締め、馬車へと駆け込む。
さっきの会話の何が嫌だったのか、自分でも分からずに馬車の窓から外を眺めた。
「変だと思われたかしら……」
私が帰ると言った時も視線が合わなかったシモンズを思い出し、またため息が漏れ出る。
この契約は自分の命を差し出す契約なのだから、死神さんが私の魂に執着しなくなるなら助かるかもしれないんだし、喜ぶべき事――。
そう自分に言い聞かせながら、馬車に揺られて帰邸の途に着いた。
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