お見舞い
その日はお勤めがあったものの、朝のうちに王宮へ赴き、熱で臥せっているミハエル殿下のお見舞いをさせてもらう事にした。
中身はシモンズなのに熱が出ることもあるのね。
元は殿下の体だからその時の体質を受け継いでいるという事なのかしら。
どうしてこんな風に人間の体質に振り回されてしまうのに、ミハエル殿下の肉体と魂を取り込んだのだろう……機会があれば聞いてみたい。
でもまずはお見舞いね。
色々と考えているとミハエル殿下の自室に着いていたので、扉をノックした。
――コンコン――
「誰だ?」
少し嗄れた声が聞こえてくる。
やはり調子が良くなさそう――。
「アンテリーナです」
私の言葉に「入っていいぞ」という声が聞こえてきたので扉をゆっくりと開いた。
視線の先にはベッドに横たわるミハエル殿下姿のシモンズ……瞳は熱で潤んでいて、辛そうだ。
こうやって体調の悪い姿を見ると、幼い頃に度々殿下のお見舞いに来ていた事を思い出す。
あの頃は楽しく会話も交わしていて、殿下との婚約も喜んでいた気がする。
いつからか殿下が元気になられたのでお見舞いに行く事もなくなって……会話する機会もなくなったのよね。
目の前の人物はもう殿下ではないけれど。
私がベッドサイドに近寄り、小さな椅子に腰をかけると、シモンズはおもむろに体を起こしてこちらに視線を移す。
「何しに来たんだ?」
「お見舞いです。 やはり昨夜体が熱かったのは熱があったのですね」
「それは違う。 これは…………いや、そういうことにしておいてくれ……」
「は、はい……魂を取り込んだと仰ってましたが、ミハエル殿下の体質も受け継いでいるのでしょうか?」
「そうだな。 あまり強くはないようだ。 それでもこんな風に熱が出るのは久しぶりだけどな」
「あの…………」
殿下が元気になった頃……恐らくその頃にシモンズが殿下の魂を取り込んだ、と考えた方がいいのよね。
やはり二人の間に何があったのかが気になる――。
「ミハエル殿下とあなたの間に何があって、魂を取り込むことになったのですか?」
「………………」
「ミハエル殿下はもともと病弱でしたし、死神のあなたが取り込むメリットを感じられません。 なのにどうして――――」
私の質問にしばらくは口を閉ざしていたシモンズだったけれど、やがてポツリ、ポツリと話し始めた。
「アイツは本当に体が弱くて、赤子の時から取りこぼし要注意人物としてリストに入っていたんだ」
「取りこぼし要注意人物?」
「いつ寿命が尽きるか分からない人間のことなんだが、主に病弱な人間や生育環境が悪い人間などがそれに当たる」
死神さんは死神の役割を語りながら事情を説明してくれる。
死神は魂を刈り、冥界へ導いた数によってランクが決まるらしい。
取りこぼした魂はだいたいが彷徨っている内に悪霊と化し、冥界で悪さをするようになるので取りこぼさないように言われていて、シモンズはミハエル殿下を張っていたそうだ。
赤子だったのもあって、すぐに命が尽きるだろうと――。
「だが俺の予想に反し、アイツはなかなかしぶとくてな……常に死と隣り合わせだからか俺の姿も見えているし、アイツを張っている内に会話するようになっていった」
話しをしていて想像してしまう。
幼いミハエル殿下とシモンズが交流しているところを……シモンズは殿下が言葉も話せない時から話しかけていたのかしら。
「ふふっ。 きっと殿下も話し相手が出来て嬉しかったことでしょうね」
「言っておくが、赤子に話しかけていたわけじゃないからな……」
「ふふふっ、そうですね」
「信じていないだろう!」
「そんなことはありません」
笑い声が溢れる室内……でもやはり体調が思わしくないようで、今日はこれ以上二人について聞くのは止めることにしたのだった。
「さぁ、これ以上お話していてはお体に障ってしまいますね」
「もう行くのか……?」
「はい、お勤めに行こうかと思います」
「そうか……」
ポスンと枕に倒れ込んだシモンズは窓の方を向き、ほんの少し名残惜しそうに見える。
私の気のせい?
「あなたが眠るまで、ここに居ましょうか?」
私の言葉を聞き、すぐに振り向いた目の前の彼の瞳は期待に満ちていた。
こういうところが子供のようで、つい願いを聞いてあげたくなってしまう。
「眠るまでここに居ます」
「そうか!」
「はい」
嬉しそうな顔……自分と会話して嬉しそうにされると私も嬉しい。
でもどうして死神さんが嬉しそうだと心臓の音が大きくなるのだろう――。
結局シモンズが眠ったのはそれから一時間後くらいで、それまで彼と他愛ない会話を交わし、お勤めへと向かったのだった。
殿下とのお話は少ししか聞く事はできなかったけれど、でも彼の口調から二人の仲が悪かったようには思えない。
むしろすごく懐かしい表情をしていて、仲が良かったように感じたわ。
羨ましいと思うほどに。
……私ったらどうして彼らの仲を羨ましいと思うのかしら。
「アンテリーナ様?」
「あ、神官長様! ごきげんよう」
考え事をしながら歩いていると気付けば神殿の前に着いていて、神官長様に思い切り心配されていたという。
お勤めに集中しなくちゃね……気を引き締めて祭壇の前へ立ち、今日も今日とて国の平和と民の安寧の祈りを捧げたのだった。
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