隣国からの留学生
皆で街に行ってから数日後、朝の食事をしている最中にお父様からとある話をされる。
「実は数日以内に、隣国のシジリアス王国から王太子殿下がいらっしゃるんだ」
「隣国から? それは急ですね……」
お父様のお話に驚きつつも、内心はあまり驚きはない。
この留学は予定通りだもの。
逆行する前も二年前のこの時期に留学なさっていたから。
「ああ。 国王陛下の体調が思わしくないようで、急遽留学の時期が早まった」
「まぁ……大変ですのね」
前はあまり交流がなかったと記憶しているけれど、今回は王太子殿下と交流した方がいいかしら。
まだロザリンドの事件の手がかりもないし……他国が関わっているとは思えないけれど。
この話をしている間、ロザリンドは黙々と食事を進めている。
「ここまでは何の問題もないんだが、我が国は同盟国でもあるから王太子殿下をおもてなししなくてはならなくてね」
「私たちがおもてなしを?」
「ああ、そうなんだ。 陛下には反対したんだが、どうしても我が国の神子におもてなしをと言われて……」
「あなた、娘たちはそんな事の為に神子をしているわけではありませんのよ」
ああ、この話で揉めたのも覚えているわ。
お母様が大反対なさって……この辺りは逆行前の通り進んでいるのね。
でもこれからの未来は変える事ができるかもしれない。
「お父様、お母様、私頑張りますわ」
「「アンテリーナ!」」
「お姉様! なぜお引き受けなさるのです?! 私達が国のためにそこまでする必要はありませんわ! これまでだって時間と力を浪費してきましたのに、今回は接待ですって? この接待をしたからといって何の見返りもありませんのに、バカげていますわ!」
確かにロザリンドの言う通り、今までだって国の為に力を使うのは当たり前で、特段国から何かをしてもらったことはない。
でも先日の街にいた人々や公爵家の皆の為なら、私が神子としてお手伝いできることはしたいと思う。
あわよくばそれがロザリンドを救うことになればいいと思っている。
「大丈夫よ、ロザリンド。 お父様とお母様も心配なさらないで。 少しでも我が公爵家にいい影響を与えてくれるかもしれない事は、引き受けたいと思っているの」
「アンテリーナ……すまない」
「お父様のせいではありませんわ」
「仕方ありませんわね。 お姉様がやるというのなら私もやります。 絶対に王太子殿下をお姉様に近付けさせませんわ」
「ロザリンドったら……」
やっぱり妹はあまり隣国の王太子殿下に興味はなさそうね……シジリアス王国の王太子はロザリンドが目当てだったはず。
でも逆行前もあまり興味を示していなかったものね。
私自身もあまりに興味が無さ過ぎて何を話したのか覚えていない。
今回はそういう事がないように、色々と話してみよう。
そう決意して当日を迎えたのだった。
五日後――私とロザリンドは謁見の間にて王太子殿下の到着を待っていた。
そこには王族の皆さまが並び、その他にも国の有力な諸侯たちも居並んでいて、私たちのお父様も公爵として参列している。
もうそろそろかしら……緊張しながら背筋を伸ばして待つこと数分。
ゆっくりと謁見の間の扉が開かれ、衛兵が声を張り上げた。
「シジリアス王国からグリエル王太子殿下がご到着なさいました!」
そこにいた全ての者たちが、グリエル殿下の方へ視線を向ける。
薄いラベンダー色の髪を肩で切り揃え、切れ長の目にスラリとした脚、所作にも全く無駄はなく誰が見ても王国を代表する王太子そのものだった。
逆行する前の殿下を知らなければ、素晴らしいお姿に感動していたかもしれない。
でもこのお方は我が国のアステカ王太子殿下に少し似ているのだ。
ほぼ足音を立てずにレッドカーペットの上を歩き、陛下の前まで歩を進めたグリエル殿下は挨拶を始める。
「おお、よう来てくれたな、グリエル。 待っておったぞ」
「レグモートン王国ピオニー国王陛下にご挨拶申し上げます。 我が国の急なご要望を汲み取っていただき大変ありがたく、父上からもくれぐれもご挨拶申し上げるようにと仰せつかっております」
「まぁ堅苦しい挨拶は抜きじゃ。 我が国はそなたを歓迎する。 ここにいる間は我が息子や神子がそなたの相手をする機会が多かろう。 仲良うやってほしい」
「はい。 神子様のお噂は我が国にも届いております。 この国を守護している尊い存在と耳にしております」
「うむ。 ロザリンド、アンテリーナ、挨拶をしてくれ」
「「はい、国王陛下」」
私たちは同時に返事をして、グリエル殿下の前に進み出た。
二人並びながらロザリンドの方から挨拶をしていき、私も挨拶を済ませる。
ここまでは逆行前と全く一緒……記憶ではグリエル王太子殿下がここでロザリンドを見初めるはず。
そう思っていたのに――――
「挨拶してくださって感謝いたします、神子様。 ぜひこの国についてお教えいただきたい!」
なぜか今回は彼の関心が私の方へ向いているらしく、両手をガッチリ握られてしまっている。
どうして?!
「グリエル殿下、お姉様のお手をお放しいただいてもよろしいでしょうか?!」
ロザリンドは、神子の手を……それも公爵家の令嬢の手を握るなどあり得ないことだと言わんばかりだった。
でもなかなか力が強くて振り払えない。
闇の力を使うのはさすがにやり過ぎよね。
案内の話を受けなければ手を放してもらえなさそうだと判断し、表向き了承したかのような態度を装う。
「あの、殿下。 私でよろしければご案内いたします。 ですのでお手をお放し……」
「わぁ、嬉しいなぁ! よろしくお願いします、アンテリーナ嬢」
王太子殿下の性格は逆行前とあまり変わらないみたいね。
人の話を聞かず、我が道を行く人――――そしてかなりの粘着タイプなのだ。
ロザリンドに執着すると思っていたのに……半分諦めかけていた時、足音が聞こえてきて顔を上げると、そこにはミハエル殿下姿のシモンズが無表情で立っていた。
そして次の瞬間、手品のように手がスルリとほどけたのだ。
これは……きっとシモンズの力よね。
どちらにしても助かったわ。
ホッとしたのも束の間、彼から衝撃の言葉が飛び出してくる。
「私の婚約者ですので、気安く触るのはご遠慮ください。 グリエル殿下」
え……冗談でもシモンズがそんなことを言うタイプとは思えないのに。
どうしてしまったのかしら……恥ずかしさより驚きの方が勝ってしまう。
きっと魂のことよね……?
取られたくないから。
そうよ、そうに違いないわ。
それに今はミハエル殿下だから。
そうじゃなきゃこんな事を言うはずが――――私が戸惑っている間も王太子殿下とシモンズの会話は続いていく。
「婚約者ってことはまだ結婚していないってことでしょう? 僕も立候補しちゃおうかな」
「アンテリーナに選ばれなくて泣いて戻ることになるでしょうけどね」
「どうでしょうね~~やってみないことには、ね」
何が起こっているの?!!
あまりにおかしな展開にロザリンドの方をチラリと見ると、面白そうと言わんばかりにウィンクしている。
お父様はひっくり返りそうになっているし、全く予想もしていなかった展開に頭を抱えながら謁見は終了したのだった。
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