俺の気持ち ~シモンズSide~
日が暮れかけてくると、どこからともなく音楽が聴こえてくる。
街の人間が次々に同じ方向へ向かっていくのを見て、興味の方が勝ってくる。
色々と感情を表に出さないアンテリーナの手を強引に引いていき、人間たちの向かう方向へ歩いていった。
今日の平和を感謝し、明日の平和を祈って踊る――。
人間は俺たち冥界や天界の者のような特別な力を持っているわけじゃない。
一人一人が協力しながらなんとか生活しているからだろうか。
神子の存在に感謝するのは感心だな。
二人の神子がいなければ、この国は多方面から狙われる事になるだろうから。
俺は相変わらずしけた顔をするアンテリーナの手を引き、一緒に踊る事にした。
「さっきみたいに笑え。 その方が美しいぞ」
「あ、ありがとう、ございます……」
魂のことを言ったつもりだったのだが。
少し頬を赤くしている彼女の反応に、咄嗟に誤魔化す。
「魂がな」
「分かってます!」
「はははっ」
ムキになっている顔は初めて見た。
協力関係にあるとは言え、最初に比べたら色んな表情をするようになった気がする。
こんな風に会話をするようになるとは思わなかったが。
しかし俺が欲しいのは魂だ……それだけは変わらない。
俺は次期冥界神になる者なのだ。
「考え事かい?」
踊りの輪から外れ、ロザリンドとアンテリーナが踊っているのをぼんやりと眺めていた俺のそばにガスパールがやってくる。
「お前さ、いくらロザリンドと話したいからってアンテリーナを睨み過ぎた」
「……分かってる」
「分かってねぇだろ。 アンテリーナだって気付いているぞ」
アンテリーナに興味がないのはいいが、それによってアイツが落ち込んでいる姿を見るとガスパールに対して腹立たしくなる。
いくら天界の者は正直者とは言え――。
「……だって…………だって……私のロザリンドを独り占めしてしまうからっっ!」
「それは妹の方に言えよ!!」
「言えないよ……君が言ってよ~~」
だめだこりゃ……涙目で訴えて来るガスパールにため息が漏れ出る。
まぁ言ったところで嫌われてそうだからな、とは言えねぇな。
「はぁ……分かったよ。 会えたら伝えといてやるよ」
「ありがとう! 神!」
「神はお前と俺の親父だ」
コイツは本当に俺を親友だと思っているみたいで……頭が痛い。
冥界の者と天界の者が友人なんて聞いたことねぇぞ。
大喜びするガスパールをなだめながら、とりあえずその日は日が暮れるまで踊り、神子たち二人を送り届けてお開きとなったのだった。
~・~・~・~・~
翌日――ロザリンドがお勤めに来る時間を狙って、神殿に会いにいってみる。
ガスパールの為というより、ヤツがうるさすぎるからだ。
「お勤めご苦労」
「ミハエル殿下。 ありがたいお言葉、痛み入ります。 昨日以来ですわね」
「そうだな。 アンテリーナやガスパールがいないと静かなんだな」
「お姉様がいらっしゃれば嬉しくなってしまいますから」
「あまり執着しすぎるなよ」
「なぜです?」
何が問題か分からないといった表情だな。
同じ神子なのにアンテリーナと全く違う……双子だから魂の形状は同じなのに、溢れ出すオーラは全く別物だ。
妹の方が力強く、燃え滾る炎のような輝き。
まぁ全く欲しいとは思わんけど。
姉を想う気持ちは本物なのだろうが――。
「姉以外にも目を向けろ。 自分の近くにいる人間をだな……」
「……そんな必要は感じられませんのですけれど」
「それが姉のためになる」
アンテリーナの話を出すと表情が変わった。
「お姉様の……?」
「兄上なんかどうだ? 婚約者だろう」
「アステカ殿下は……」
「苦手か?」
「ええ」
きっぱり言い切るロザリンド。
ガスパール、ご愁傷様。
「私のことなど良いのです。 それよりも殿下はお姉様の事をどのように想っているのです?」
「どのようにって……」
「殿下は婚約者ですが、今までほとんど交流しておりませんでしたでしょう? 突然お姉様にアプローチをされておりますので」
「アプローチ?!」
「私、お姉様には本当に愛し愛されているお方と結ばれてほしいのです。 殿下はお姉様を心から愛していらっしゃいますでしょうか?」
な、何を言っているんだこの女は……愛だの恋だの俺たちのような者には関係ない……!
アンテリーナに近付いているのもアプローチをしているわけではない!
ハッキリ言いたいが、言ってしまえば公爵邸にも入れてくれなさそうな雰囲気だ。
ロザリンドににじり寄られ、壁側に詰められていく。
魂は欲しいがアンテリーナ自身が欲しいわけではないのだから、適当にサラリと返せばいいのだ。
嘘など得意中の得意ではないか。
「殿下、どうなのですか?」
「…………あ、ぁ、ぁぃしている」
あまりに恥ずかしくて、だんだん声が小さくなってしまう。
変な汗が止まらん……なぜこんな言葉を言わなければならないのだ!
やっとの思いで口にしたのに、ロザリンドからは絶望的な言葉が返ってくる。
「申し訳ございません。 なんとおっしゃいましたの?」
……聞こえていなかった、だと?
「~~~っ、愛していると言った!」
「まぁ! でもその言い方ではお姉様にお気持ちがちゃんと伝わりませんので、私と一緒に練習しましょう」
「え……いや、そんな……」
恥ずかしすぎて穴があれば入りたいほどなのに、練習しようだと?
コイツは鬼か……俺のことはどうでもいい。
早くガスパールの好意に気付いてくれ……!
切実にそう思う俺の気持ちとは裏腹に、一生懸命アンテリーナへの愛の告白の練習をさせられ、生まれて初めて消えてしまいたいと願った。
ロザリンド、恐るべし……その日は地獄のように羞恥にまみれた一日になってしまったのは言うまでもない。
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