王太子の正体 ~シモンズSide~
俺は今ミハエルの兄である王太子と、この男の自室で対峙している。
ただ聞きたい事があってやってきただけなんだが、やたらと警戒されているな。
俺達は日ごろからそれほど会話があるわけでもなく、周りから見ても仲が良くも悪くもない兄弟のはず。
まぁいい。
とにかくずっと疑問に思っていることを聞かなくては。
「兄上。 突然のご訪問、失礼いたしました」
「い、いや……」
「何かございましたか?」
「そういうわけでは、ない……」
「ではどうしてそのように、目を合わせてくれないのです?」
「お前だって目を合わせるようなタイプではなかっただろう?!」
どうにもバツが悪そうな王太子と視線を合わせるように顔を覗き込むも、冷や汗をかくばかりで全く視線が合わない。
人間というのはよく分からねぇな……そういう意味ではアンテリーナの行動もよく分からない。
さっき、神殿で祈りを捧げるアンテリーナを幼い死神が襲い掛かり、俺が退けた。
あの死神は死神になりたてだな……あまり会話が通じないので、ひと思いにデスサイズで真っ二つにしてやろうと思ったのに、アンテリーナに止められたのだ。
思いっきり。
なぜだ?
自分を狙うヤツだぞ?
『シモンズ!! だめ――――っ!!!』
アイツの叫び声を聞いた瞬間、体が金縛りにあったかのように動かなくなった。
俺が人間の声に縛られるなどあり得ないのに。
アンテリーナの前で殺し合いをするわけにもいかず、あの死神に自分の正体を明かすと一目散に逃げていったから良かったものの。
二人の神子がこの国に結界を張っているおかげで、並みの死神ではこの国には入れない。
なぜあんなC級の死神が紛れ込んできたのか……その辺も調べるか。
「ミハエル……どうした」
おっと、すっかり王太子の存在を忘れて考え込んでしまったようだ。
そろそろコイツの正体を暴く時間だな。
「いえ、なんでもありません。 兄上……あなたは兄上ではないですよね。 誰です?」
「私はこの国の王太子だ!」
「王太子かそうじゃないかなんて聞いてないし、そんな嘘言わなくていいんだって。 時間が巻き戻る前も、さっき死神がやってきた時も、俺と目が合っていた……見えてるんだろう?」
「………………っ」
やっぱりな……コイツは視えている。
アンテリーナのような俺と魂の契約をしている者なら分かるが、普通の人間に死神は視えない。
逆行する前、確かに王太子と目が合った。
そして逆行する前の話を出しても否定しなかったところを見ると、記憶も持ったまま逆行しているということは……相当位が高い何かだ。
「お前、天界の者か?」
当てずっぽうで言ってみたものの俺の言葉に物凄い勢いで後ずさり、壁にめり込むのではないかというくらいの勢いでぶつかりながら、目を見開いている。
ビンゴ。
反応見るだけで当たっているのが分かるな。
「なぜ……そう思う……」
「ははっ、天界の者は相変わらず正直者で嘘が苦手だな~~俺たちみたいな存在なら嘘なんて簡単につけるのに」
「君はやはり死神なんだな……?」
「人間界にいる時はミハエルの姿をしているけどな。 もう分かっているんだろう?」
「…………はぁ……隠しておく意味はない、か。 そうだ私は……」
そこまで話して王太子の体が金色の光に包まれていく。
全てを浄化してしまいそうなほど眩い光…………!
ここまでの存在とはまさか……!!
「お前、天界神か?!」
「……違う。 私の名はガスパール、天界神の子だ」
まさか天界神の一族の者がここにいるとは……!
まぁ俺も自分のことは言えねぇけど。
どんな経緯で王太子の体に入り込んでいるのか知らんが、初めて見る天界神の一族に興味の方が勝る。
「ガスパール、お前……全く見た目が変わらないな」
「そうだ。 このままだからな」
「ふーん……まぁいい。 俺はシモンズ、冥界神の息子だ」
「今更驚きはしない。 時間を巻き戻せる者は神の一族くらいなものだ」
さっきまで動揺していた者とは思えないほど、ガスパールは落ち着き払っていた。
アンテリーナを処刑した時の事も頭に過ぎり、なんとなく気に入らないのでロザリンドの名前を出してみる。
「そういやアンテリーナの妹のロザリンドのことだけど……」
――ガタンッ!!――
名前を出した瞬間、ガスパールは顔を真っ赤にして体勢を崩した。
ロザリンドの名前に反応したのか……?
「おい、ロザリンドのことだが……」
――ガタガタッ!――
「ロザリンド……」
――ガタタンッ!!――
名前を出すたびに体勢を崩し、もはや地に手を着いて土下座をするような姿勢だ。
おもしろ……なんなんだコイツは。
天界の者は正直者なので嘘が苦手というのは本当なんだな。
「お前、そんなにあの女のことが好きなのか?」
「好きではない、愛している!!」
「一緒じゃねぇか! 面倒くさいな!」
「ロザリンドはこの世の生きとし生ける全ての者の中で最も素晴らしい女性だ……軽々しく名を呼ぶな」
「ロザリンド」
――ガタガタンッ!――
呼ぶなと言われば呼びたくなるというもの。
もはや地面に突っ伏す勢いだな……顔も真っ赤にして、そんなに好きか。
俺には全く理解できない気持ちだな、好きだのなんだの。
欲しいのは魂だ……一瞬アンテリーナの顔が頭に浮かんでくる。
違う、俺が欲しいのはアイツの魂で――――アレは俺のものだから――。
「俺は妹の方に興味はないし、さっさと妹を手に入れろよ。 なんだったら協力してやるから」
アンテリーナの周りをウロウロされると邪魔だったのでそう言っただけなのに、どうやら変なスイッチを押してしまったらしく、突然顔を上げたガスパールは涙目になっていた。
そして俺の両手をヤツの両手でガッチリ握ってくる。
「お、おい……」
「シモンズだったか。 なんて良いヤツなのだっ! 死神のくせに!」
「最後のひと言は余計だろ!」
「お前はもう親友だ!」
「まてまてまて」
思いのほか力が強くて振り払えない……!
なんてバカ力だよ。
天界神の子は予想外にもチョロかった。
俺の方が心配になるレベルだ。
その後もガスパールは何かを言いながらまくし立てていたが、まったく頭に入ってこない。
「はぁ…………」
コイツをアンテリーナから遠ざけるのが目的だったのに、なんでこうなったんだ……色々と考えて深いため息をついた。
この後もロザリンドの素晴らしいところを延々と聞かされ、ようやく解放された頃にはゲッソリした状態で自室に戻ったのだった。
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