平和を祈る踊り
私たちはまずはカフェと呼ばれる小さなお店に入り、それぞれがパルフェを頼んで食べ始めた。
器の中にクリームが入っていて、その上に沢山の種類のフルーツが乗っている。
こんなにフルーツを乗せられるなんて、我が国が豊かな証拠ね……私達が祈りを捧げる事で農作物にも好影響が出ているのならこんなに嬉しいことはないもの。
そんな喜びを噛みしめながらフルーツとクリームを口へ運ぶ。
「とても美味しいわ……」
「お姉様、こちらも美味しいですわよ」
ロザリンドが自身の匙に乗せたクリームとフルーツを私の口に入れようと、目の前に差し出した。
そこへミハエル殿下姿のシモンズが目を輝かせる。
「お、美味そうだな」
「これはお姉様に差し上げるのです」
「俺が食べても減るもんじゃないだろう」
「減ります!!」
ロザリンドとシモンズはあまり相性が良くなさそうね。
妹も相手は王子殿下なのに、全く遠慮がない。
中身が死神のシモンズだとは知らないでしょうけれど、死神さんが軽そうだからか彼女の対応も雑になっている。
そんな最中にふと視線を感じて顔を上げると、王太子殿下がこちらをジッと見ていた。
なんだか睨まれているようにも感じるのだけど……何か不敬な事でもしてしまったかしら。
先日の行動といい、今日のお出かけといい、予想外の事が続き少し混乱気味になってしまう。
「アンテリーナ」
そんな時に名前を呼ばれて声の主の方へ顔を向けると、ロザリンドのように匙を向けるシモンズがいた。
穏やかに微笑んでいる表情を見ていると、とても死神とは思えない。
「ほれ」
「何でしょう?」と聞き返す間を与えず、口の中に匙を入れてくる。
私に食べさせて満足したのか、また自身のパルフェを食べ始めた。
それにしてもシモンズが食べているパルフェも本当に美味しい。
ナッツ類も入っているので食べ応えもある。
「こちらも美味しいですね」
「だろう?!」
私の言葉に子供みたいに喜ぶシモンズ。
先ほどまでの不穏な空気や不安が嘘のようになくなっていく。
死神なのに優しい時もあったり、本当に不思議な人――。
「ミハエル殿下……私がお姉様に食べさせてあげたかったのに!」
「どっちが先でもいいだろう?」
「良くありませんっ!」
「ロザリンド、私のを食べるがいい」
「王太子殿下の分を私が食べるなんて恐れ多いことですわ」
ロザリンドに断られた王太子殿下はすっかり肩を落としている。
なんだか色々と微妙にかみ合っていないように見えるのは、気のせいではないわね。
ちょっぴり騒がしいけれど、皆で食べるというのも楽しいものね……初めてのカフェとパルフェをしっかり堪能して、お店を後にしたのだった。
~・~・~・~・~
街中を歩きながらウィンドウショッピングというものを楽しんでいると、あっという間に日が暮れてくる。
「もうそろそろ邸に戻らなくてはね」
「時間が経つのが早いですわ~~もっとお姉様と一緒に街を回りたかったのに……」
そこへ遠くから音楽が聞こえてくる。
「何の音かしら」
「ん――……行ってみるか?」
シモンズに聞かれ、どうしようか迷う。
日が暮れてから戻れば両親がとても心配する……でも見てみたい。
滅多に街に来られないから余計に迷ってしまう。
自分の立場と気持ちがせめぎ合い、返事が出来ずにいる私を見兼ねたのか、シモンズが私の手を引きながら足早に歩き始めた。
「ちょっ……! 待ってください!」
「行ってみた方が早い。 行くぞ!」
呆気に取られる私の後ろからロザリンドの声が聞こえてくる。
「お姉様~~待って――!」
妹を置いていってはダメ……!
そう思い振り返ると、王太子殿下がロザリンドと手を繋いで導いてくださっていた。
良かった――。
ちょっぴり妹が不満げなのは見なかったことにしよう。
シモンズは強引だし……仕方ない人ね。
でもそれがなぜか嫌ではない。
そんなことを考えながら手を引かれていると、たどり着いたのは街の中心に位置する中央広場だった。
「これは……」
さっきまで街中に溢れていた人々がここに集まっている。
広場はちょうど円形になっており、人々は円を描きながら各々自由に音楽に合わせて踊っている。
私は何が起きているのか分からず、近くにいる年配の女性に聞いてみることにした。
「あの……これは何かのお祭りですか?」
「違う違う。 毎日平和に暮らせていることに感謝して、明日の平和を祈りながら踊っているんだよ。 我が国の神子様に感謝しなきゃ!」
女性の言葉にじんわりと胸が温かくなっていく。
時間が巻き戻る前は家族を第一に守ることができればいいと思いながらお勤めに通っていた。
民の声を聞くのは初めて……こんな風に感謝していてくれたなんて。
「ありがとう」
思わず感謝の言葉が出てしまい、女性が不思議そうな顔をしている。
その神子が私たちとは思わないわよね。
「あんたたちも二人で踊ったらどうだい? そんなに仲良いんだから!」
女性は私とシモンズが手を繋いでいたので、どうやらカップルかと勘違いしている様子だった。
これは誤解を解くべきか迷っていると、シモンズに再び手を引かれてしまう。
「よし。 踊るぞ、アンテリーナ」
「え……えぇ?!」
「面白そうだ。 人間はこうやって祭りを楽しむんだな~」
「………………」
ただの運動だと勘違いしていそうだけれど、とても楽しそうなので彼に合わせることにしよう。
体は大きいのに、心は子供みたい。
そう思うと少し可愛く思えてくる。
「ふふっ。 あなたって本当に強引な方ですね」
「そうか? お前が自分の気持ちを隠し過ぎなだけだろう」
「そうんなことは……」
「ほら、そうやってすぐ考え出す」
シモンズに指摘され、踊りながらも視線が泳いでしまう。
きっと彼は先ほどここに来るか迷っていた私のことを話しているのだろう。
慎重な性格もあり、なかなか自分の気持ちに正直に動くことができない――。
シモンズは踊りながら私の顔を覗き込み、俯きがちな私と強引に視線を合わせてくる。
「さっきみたいに笑え。 その方が美しいぞ」
「あ、ありがとう、ございます……」
「魂がな」
「分かってます!」
「はははっ」
突然褒められて顔が熱くなったのも束の間、一言多い死神さん。
この人は遠慮とか気遣いというものがない。
それもそうよね……死神なんだもの。
人間に忖度する意味もないでしょうし、彼らと私達では価値観も違う。
でもなぜかその無遠慮さが心地いいのは、自分にはないものを持ちながら堂々としている姿が羨ましいのかもしれない。
彼と踊りながらそんなことを考えていると、私たちの近くで踊っていたロザリンドの声が聞こえてくる。
「ミハエル殿下、次は私がお姉様と踊ってもよろしいですか?」
「ん? ああ、そこにいたか。 仕方ないな」
「お姉様~~~やっとお姉様と踊れます!」
「ふふっ。 一緒にこうやって踊るなんて、小さな頃以来かしら」
私は昔を懐かしみながらロザリンドの手を取る。
王宮ではないから各々好きに踊っていいので好き勝手に踊っているのだけれど、ロザリンドは絶対に手を離そうとしなかった。
凄く楽しそう……こんな時間が続けばいいのに。
近くで踊っている王太子殿下の視線を感じつつ、結局この日は日が暮れるまで踊り続け、公爵邸に戻ったら両親がとても心配していて、しばらく街への外出は禁止になってしまうのだった。
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