アゲハの呪い。 センリツは素敵な茶番です
***《テオ視点》***
「あのクソ魔女が」
テオは苦々しげに言った。
何が、アゲハくんの最高に格好良いところを見せてあげる、だ。
ふざけるのも大概にしろ。
闘技場の真ん中で戦う、アゲハと一般生徒。
センリツは弁当を持って、まるで運動会でも見に来たような気楽さだった。
「とんだ茶番だ」
「そんなことはございません。センリツはとっても素敵な茶番でございますヨ。ドゾです」
センリツは、いそいそと水筒からお茶を注ぐ。
湯気の立ち上るそれは、紅茶だろうか。
昼食には、サンドイッチとフライドチキンを用意していたと言っていた。
頬杖をつきながらカップを受け取り、テオは顔をしかめる。
少し渋めのお茶のせいではない。
あの程度か、と。
学生という身分を加味したところで、たかが知れていた。
あんなものを相手に、アゲハが本気になるはずもない。
シトロの望んだ姿など、見られるわけがないだろう。
アゲハのクラスが上級生から目をつけられていることは、テオも知っていた。
全員ぶっ潰せば解決する。
だが、潜行者養成学校への入学に散々協力してくれたミコトからは、くれぐれも学校の崩壊だけは勘弁してくれと釘を刺されていた。
テオにとって、ミコトは色々便利な協力者であると同時に、可愛い妹分でもある。
さすがに、あっさり反故にするわけにはいかなかった。
そこで件のクソ魔女、シトロが提案したのが、今回の上級生と下級生の対抗戦である。
アゲハくんの実力をばばーんと見せれば、アゲハくんに寄りつく変な虫を追い払えるだろう、というのが彼女の弁だった。
だが、明らかにあの馬鹿女の趣味というか、娯楽のために進んでいる。
それに何より、テオはアゲハに戦わせることについては、ずっと反対していたのだ。
シトロは言った。
どう転んだって、アゲハはアゲハとして道を歩んでいくのだと。
「てめーが、けしかけてるだけだろうが」
苦々しげに、テオは呟いた。
闘技場の真ん中では、アゲハと一般生徒がやり合っていた。
アゲハは難なく躱している。
一般生徒の殺気はだだ漏れだ。
あれでは、当たるものも当たらない。
ここを殴ると宣言してから殴っているようなものである。
それで、本人は二手も三手も先を読んでいるつもりなのだから、余計にアゲハには避けやすいだろう。
遥か先までの動き方を、相手が自分から教えてくれているようなものなのだから。
何を思ったのか、アゲハが莫大な魔力を杖に込める。
案の定、杖は崩壊した。
「壊れてしまいました」
「あんな玩具じゃ、そりゃ耐えきれないさ」
アゲハ相手に単発式など馬鹿げている。
それなら、杖ではなく、潜行者が使うような魔動具でも渡してやる方がまだましだろう。
スズが外野から、アゲハの杖を投げる。
あの、綺麗で恐ろしい、化け物みたいな杖を。
もう終わりだ。
一般生徒程度では、相手にならない。
どうせシトロが八つの杖を使って防御し、適当なところで試合を終わらせるのだろう。
本当に、とんだ茶番だった。
帰って昼寝でもするか。
テオはセンリツにカップを渡し、その場を立ち去ろうとした。
その瞬間。
九つの閃光が走った。
テオは、はっと振り返る。
八つではない。
九つ。
その意味を理解した瞬間、背筋が冷えた。
「あの、クソ魔女!」
振り返れば、シトロの八つの杖が、アゲハへ狙いを定めていた。
カボシを守るためではない。
挑発しているのだ。
アゲハに、あの生徒を脅威だと誤認させるために。
当たれば、跡形もなく消し飛ぶだろう。
馬鹿だとは思っていたが、まさか、ここまで馬鹿だとは思っていなかった。
アゲハに殺しをさせるつもりか!?
凄まじいテオの怒気に気づき、けれど、シトロはにやりと笑った。
分かっていて、やったのだ。
テオが飛び出そうとした、その眼前で。
カボシへ向かっていた光弾が、無理やり捻じ曲げられた。
ホーミングではない。
そんな生易しいものではなかった。
撃ち出した後の光弾を、あの距離で、あの弾速のまま、別の的へ捻じ曲げた。
それは、かつて英雄アゲハが最も得意とした、光弾操作であった。
シトロが指鉄砲を作って、「ばーん」という仕草をする。
その顔は恍惚としていて、心底嬉しそうだった。




