八つの殺気、九つの敵。 この杖はやっぱりダメです
スズが投げた杖は、真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる。
というか、なんという勢いで投げるのか!
怪我でもしたらどうする。
僕はどうにか、上手い具合に杖を受け取った。
杖を握る。
まるで吸い込まれるように、僕の魔力が馴染んでいく。
柄に施された蔦飾りの滑り止めを伝って、銀の花の飾りへ魔力が流れる。
装飾の銀花が、開花した。
光刃が発現し、カボシは慌てて距離を取る。
心地良い。
借り物の杖と違って、僕が乱雑に魔力を込めても、この杖はびくともしない。
そうだ。
杖は、こうじゃないといけない。
世界が鮮明になったような気がした。
身体強化術式が発動する。
五感が研ぎ澄まされる。
ぞくりとするほどの殺気を感じた。
こいつ、こんなに強かったのか……。
僕を狙って、八つの強烈な殺意が動いていた。
カボシの周囲を旋回し、こちらへ狙いを定めている。
いや、違う。
違うはずなのに。
カボシの殺気が、急に膨れ上がったように感じた。
意識が流れ込む。
どうしようもない高揚感。
だから、この杖は使いたくないんだ。
目標は八つ。
いや、九つか。
僕は光弾をぶっ放す。
その瞬間、我に返った。
「やっべ!」
九つに分かれた光の弾が、追跡弾のように目標めがけて飛んでいく。
違う。
八つでよかった。
八つの殺意は、カボシじゃない。
それは、シトロさんの自律型魔法杖から放たれていたものだ。
僕はぼうっとして、それをカボシの殺気だと勘違いした。
いつの間にか特殊防隔膜を解いたシトロさんの杖が、僕を狙っていたのだ。
魔力を吸い上げ、光刃や光弾の威力を調節していた術式は、もうない。
カボシは外さないとまずい。
曲がれ!!!
僕はカボシへ向かっていた光弾の一つを、無理やり捻じ曲げた。
別の目標へ。
シトロさんの杖へ、照準を変更する。
二発の閃光。
一つ目が、杖を守る防隔膜を撃ち抜いた。
もう一つが、むき出しになった杖本体を撃ち抜いた。
***《カナタ視点》***
カナタは、その光景に愕然とした。
アゲハが杖を手にした瞬間、巨大に膨れ上がった光刃。
そしてそれは、瞬く間に収束し、銃剣の実刃に張り付くように、凄まじい濃度で安定した。
三基の魔動機が、完全に連動している。
そうでなければ、あそこまで大きな光刃も、まして、それをこの精度で安定させることなど、できるはずがない。
三年首席、カボシもさすがだった。
この現実離れした光景を間近に見て、なお、取り乱すことなく距離を取る。
「はは~ん、出たね! アゲハくん」
シトロが嬉しそうに言い、闘技場に張り巡らされていた特殊防隔膜を解除した。
その直後、八つの自律型魔法杖が動く。
アゲハを狙うように、カボシの周囲で陣を組んだ。
カボシは戦いの構えを崩さなかった。
それが上級生の威信によるものなのか。
それとも、目の前の脅威に対して、構えを解くことすらできなかったのかは分からない。
ただ、カナタには、あまりに無謀に見えた。
次の瞬間。
九発の光弾が、一気に放たれた。
光の弾は、九つの目標を完全に捉えている。
八つの自律型魔法杖。
そして、カボシ。
瞬間、アゲハがハッとした顔をした。
そして。
光弾の一つが、ありえない角度で軌道を変えた。
カボシへ向かっていたはずの光が、無理やり捻じ曲げられる。
向かった先は、シトロの自律型魔法杖。
二発の閃光が重なった。
一発目が、杖を守る防隔膜を撃ち抜く。
二発目が、その奥にあった杖本体を撃ち抜いた。
シトロの杖の一機が、砕けて落ちる。
残った七つの自律型魔法杖は、カボシを守るように分厚い防隔膜を展開していた。
けれど、それによってカボシが守られたようには、カナタには思えなかった。
守られたのではない。
外されたのだ。
あの一瞬で。
「光弾が、曲がる……?」
常識的にありえない。
そんな芸当、できるわけがない。
『試合、終了ー。勝者、一年代表、アゲハくんー!』
シトロの嬉しそうな声が、会場に響き渡った。




