異常な試合。 必殺、溶ける斬撃です!
会場に戻ったカナタとシドは、言葉を失った。
スズの試合はすでに終わっており、彼女は当然のように勝利していた。
それは良い。
問題は、そこではない。
「……なんなんだ、この状況は? なんなんだ、この凄まじい攻防は?」
思わず、といった様子でカナタは呟いた。
目の前で繰り広げられているのは、三年首席であるカボシ。
そして、アゲハの試合だった。
カボシは、もともと両親が軍属のエリートだ。
一年入学時点で、すでに魔法杖を扱っていた。
今現在は連動双発式の魔法杖を使いこなしており、明確に魔導師級。
天才と揶揄されるカナタとて、まともにやり合えば厳しい相手だった。
にもかかわらず。
アゲハは、身体強化術式すら使わずに対応していた。
スピードも、パワーも、魔法杖の出力も、圧倒的にカボシの方が上だ。
アゲハの方がはるかに遅い。
それなのに、カボシの攻撃はかすりもしない。
それもそのはずだ。
カボシが動くか、動き出さないかの時点で、すでにアゲハは避けているのだから。
見ていて気持ち悪くなる。
まるで、時空が歪んでいるかのような攻防だった。
「どうなってんだ、こりゃ……」
横でカナタに寄りかかるシドも、ノラも、信じられないものを見るような表情でそれを見ている。
ただ一人、スズを除いて。
「スズさん?」
「どうだ、カナタ! あれがアゲハ様の実力だ!」
スズが誇らしげに言う。
そして、すぐに眉を寄せた。
「けれど、やはりハンデが過ぎるか。お気持ちは分かるが……」
「ハンデ?」
「ああ、あの魔法杖では耐えられない。ご自身のものをお使いになれば良いのに、頑なに使われないのだ」
どういう意味だ?
ふと、カナタはアゲハの言葉を思い出す。
『ゆるーく、ゆるーく、力を込めないといけないの、難しいんですよ!』
考えてみれば、魔法杖に緩く魔力を込めるとは何なのだ。
そんな方法、聞いたことがない。
カナタは、アゲハの魔導力学の知識が足りないのだと、そう思っていた。
けれど、スズが言うように、もし魔法杖の方が耐えきれていないのだとすれば。
アゲハは、いったいどれほど莫大な魔力を秘めているというのだろうか?
カナタの思考が止まった、その瞬間。
アゲハの手の中で、魔法杖が溶けるように砕けた。
***《アゲハ視点》***
嘘だろ!?
僕は、愕然とした。
杖が砕けた。
それも、ぱきりと折れたとか、刃が外れたとかではない。
なんか、溶けるみたいに。
え?!なにこれ?!怖っ!
めっちゃ怖っ!!
つか、どういうことだよ!?
もしかして、そういう仕様の杖なのか?
溶ける斬撃とか。
弾ける斬撃とか。
なんか、そういう特殊な攻撃が出るやつ?
僕の期待とは裏腹に、手の中の杖は、うんともすんとも言わなかった。
いや、そりゃそうだ。
砕けたのだから。
とにかく、距離を取らないと!
僕は慌てて後ろへ下がる。
そこへ、好機とばかりにカボシの連撃が唸った。
いやいやいや!
今、攻撃しちゃ駄目だろ!
こっち、武器壊れてるんだぞ!?
武士道精神とか、フェアプレー精神とか皆無かよ!
あの嫌な女、ソニアだって、リノに追撃しなかったぞ!
僕はカボシの斬撃をかわしながら、必死に叫んだ。
「シトロさん! シトロさん!!」
試合を止めてほしい。
止めてほしいけど、さすがに無理か。
この人、さっきからずっと楽しそうだし。
「なに、なに〜?」
ふよふよと、呑気な声が近づいてくる。
玻璃珠に腰掛けたシトロさんが、まるで散歩でもしているようにこちらへ寄ってきた。
いや、審判!
もっと緊迫感を持って!
「武器! 武器の交換、いいですか!?」
僕が叫ぶと、シトロさんは少しだけ考えた。
そして、とっても嬉しそうな顔になる。
「もっちろん!」
軽い。
めちゃくちゃ軽い。
「スズが持ってるんでしょ? あ、でも試合は止めないから、投げてもらってね」
もう、この際なんでもいい。
とりあえず、武器がなければどうしようもない。
僕はスズに向かって叫ぼうとした。
だが。
その必要はなかった。
僕が声を上げるより早く。
すでに、スズの傍らに置かれていた包みが解かれていた。
黒い銃剣型の魔法杖。
銀の華をあしらった、あの恥ずかしいくらい綺麗な杖。
それが、迷いのない軌道で、僕に向かって投げられていた。




