試合の始まり。 結構良い調子です!
試合が始まった。
予想通りというか、当たり前というか。
カボシは速攻だった。
そりゃそうだろう。
前の試合で、上級生側はスズ相手に、あれだけみっともないところを見せてしまったのだ。
ここで大将戦まで睨み合いとなれば、さすがに体裁が悪い。
瞬殺して、格の違いを見せつける。
そのくらいは必要だったのだろう。
向こうからすれば、僕はお飾り大将なのだから。
とはいえ。
僕だって、そんな簡単に負けるわけにはいかんのだ!
カボシが踏み込む。
速い。
速いのだが。
「あれ?」
思ったより、見える。
集中しているせいなのか。
始まってみれば、意外にやりやすい相手だった。
……まさかとは思うが、こいつも僕と同じお飾りなのか?
いや、そんなはずはない。
三年首席だ。
連動双発式の魔法杖を持つ、上級生側の大将だ。
だけど……速いには速いし、技術もある。
フェイントだって仕掛けてくる。
しかし、分かりやすい。
殺気の向きが、はっきりしすぎている。
右へ振ると見せて、左。
踏み込むと見せて、半歩止まる。
どこを狙っているのか。
本当は何をしたいのか。
それが見えてしまう。
フェイントですよ、と自分から教えてくれているようなものだった。
もしかして、僕が少し成長したのか?
この一週間、スズはほとんどノラの鍛錬に付きっきりだった。
僕はというと、わりと放置である。
いや、かなり放置である。
ぶっちゃけ、ずっとぼっちだった。
なので仕方なく、僕は一人で走っていた。
校舎の裏手。
木々の間を抜ける道。
朝の空気は澄んでいて、走っていると妙に気持ちが良かった。
だから、とにかく走った。
それから、木陰で座って、魔法杖にゆるーく魔力を込める練習を繰り返した。
練習というより、ほとんど瞑想みたいなものだった。
正直、これで何が強くなるんだと思っていたが。
光刃を安定させないことにはどうしようもない、とスズがノラに言っていたのを聞いてしまったのである。
なら、僕もそれをやるしかない。
誰も僕に何かを教えてくれる気配はなかったし。
それしかやることがなかったのである。
ただ、しかしである!
僕は、毎日ちゃんと走ったのだ。
毎日ちゃんと杖にも魔力を込めたのだ。
誰に言われるでもなく!
その頑張りが今、開花しているのかもしれない。
体は軽い。
息も続く。
頭はすっきりとして、冷静そのもの!
魔法杖の方へ意識を持っていかれすぎなければ、相手の動きも全然見える。
めちゃくちゃ調子が良かった。
いやいや、油断するな。
そんなことを思った瞬間、だいたい痛い目を見るのが僕である。
大体にして……。
僕はカボシの斬撃をかいくぐり、懐に入る。
一撃。
魔法杖の実刃に、薄く光刃を纏わせて振り抜いた。
当たった。
当たった、のだが。
「……やっぱり、駄目か」
味噌っかすみたいな僕の光刃では、全然ダメージが入らない。
あっさりと防殻に弾かれる。
当てたというより、撫でたに近い。
いや、撫でたは言い過ぎかもしれないけど。
少なくとも、三年首席を倒せる一撃ではなかった。
物理攻撃と、なんら変わらない。
つか。
なんか、今の一撃で、カボシの殺気が増したような。
「ふざけているのか、貴様」
低い唸り声だった。
いや、ふざけてない!
至って真剣というか、めちゃくちゃ必死に制御してんだよ!
実刃タイプなら、魔力を流せばそのまま光刃が乗ると思っていた。
けれど、全然違う。
さっき試した時もそうだったが、かなり慎重に操作しないと、光刃がまともに発現しないのだ。
少し乱すと、薄くなる。
少し強めると、刃がぶれる。
柄だけタイプみたいに、光刃だけがすっぽ抜けることはない。
ないのだが。
光刃がぶれぶれなのだ。
これは、まずい。
絶対にまずい。
このままやれば、じり貧になる。
僕は、手の中の魔法杖を見た。
カナタが選んでくれた、ちゃんとした杖。
僕の癖に合わせてくれた、実刃付きの単発式魔法杖。
悪い杖ではない。
むしろ、かなり良い杖なのだろう。
でも。
僕が、使えていない。
いっそ、思い切り魔力を込めたら出るとか?
すっぽ抜けるのが怖くて、今までずっと抑えていた。
けれど、考えてみれば、込める魔力が弱すぎるだけなのかもしれない。
僕は、杖を構え直した。
カボシが、再び踏み込む。
今度こそ。
ちゃんとした光刃を出す。
そのつもりで、僕は魔法杖に魔力を込めた。




