泥沼で、地雷を踏みました
僕は考える。この状況をいかにすべきか。
……結局のところ、僕が動くより他ないのだ。
本末転倒だが仕方ない。行き当たりばったりと言うなかれ。
だって修行が進まないと、僕はスズに殺される。
アイツはヤバい。断然ヤバい。
三英雄もヤバいけど、現実的な問題として身近にヤバい。
まず対処すべきはスズだ。分かってる、分かってるさ。これが泥沼というやつだ。
借金を返すために借金するようなものだ。
スズのことをチクって、テオたちになんとかしてもらえば、話は一瞬で終わるだろうが。
僕とて、良識というものが一切ないわけではない。
いや、むしろ、良識の塊ともいえる。
さすがにスズを生贄にして逃げ切るというのは、目覚めが悪すぎる。
要は楽して、僕が才能を開花させればよいのだ。
ならば、うまい具合に三英雄を誑かして、ゆるーい感じで強くなれる方法を模索するより他ない。
僕は小さく決意したのであった。
***
スポンと、テオの懐のなかに収まっている。
いつもの庭、テオの花園。
ちょうちょがふよふよと飛んでいた。
僕は意を決する。
「てお、ぼくさ……」
「なんだ〜」
テオは僕の頭に顎を乗せ、普段だと考えられないような柔らかな返事をする。
そして、僕の体温を確かめるように、ぎゅっと腕に力を込めた。
「強くなりたいんだ」
言った、言ってしまった。
このあとのセリフも表情も、全部考えている。完璧な道筋が僕にはあるのだ!
とりあえずはテオに協力してもらって、適当な鍛錬でそこそこ強くなる。
それからスズを言い包めて、今のキツい素振りを止めてもらう。
そして潜行者行きも回避できれば御の字だ!
だって、テオが僕に危険なことなんてさせるわけないからね!
完璧だ、完璧すぎる!!
そう思って見上げて、僕は固まった。
正直言うとチビりそうになった。
これまでにないほど、テオがブチギレた表情をしていたからだ。
「て、てお……?」
「誰がお前に戦えって言った?
どこのどいつだ?
…………いますぐ、俺がぶっ殺してやる」
溢れんばかりの狂気を宿したテオの目が、光を失う。
いつもの激しい怒りじゃない、静かな怒り。
やばい。これはマジでヤバい。
「スズか? スズがそんなこと言うのか?」
僕はフルフルと首を横に振る。
……いや、うん。ただスズが怖いだけだけど、正直に話すと、たぶん、明日からスズがいなくなって、それで終わる気がする。
確かに殺意は向けられているが、一応は鍛錬にも付き合ってくれてるし。
僕のやらかしで粛清とか、それこそ目覚めが悪いとかの次元ではない。
いうて、スズは六歳とか七歳くらいの女の子だ。
僕は引きつる顔をなんとかごまかしながら、事情をかいつまんで説明した。
アゲハとしての記憶を取り戻したいこと。
守られるばかりでは嫌なこと。
英雄として役目を果たすべきではないか……と。
テオは一応怒りを収めて、そして、僕を強く抱きしめた。
「お前は強くなんてならなくていい。戦わなくていいんだ。俺が守ってやる、わかったな?」
言われて僕はただ、素直に頷くより他なかった。




