ほんのかすり傷の、過保護が重すぎます
「どういうことだ! オラァ!!」
怒声とともに椅子が転がる。
蹴り飛ばしたのは、もちろんテオだ。
センリツは慣れた様子でお茶を淹れているし、
シトロさんは「テオちん、激おこだねー」と呑気にネイルを直している。
僕だけが、恐怖に固まっていた。
「あまり声を荒げると、アゲハ様が怯えています」
センリツの言葉に、テオはこれ以上ないほど顔をしかめると、
歯を食いしばり、ぐっとこらえるように頭を掻きむしる。
「シトロ。テメー、この落とし前どうつけるつもりだ?」
低い声で詰め寄る。
「落とし前はつけるつもりだったよん。
でも、アゲハくん嫌がるんだもん、私の薬ー」
やーん、ちょっとミスっちゃった。
と、シトロさんはどこ吹く風で爪を乾かす。
いや、その薬がこの世で一番信用ならないんだよ。
「スズのことはちゃんと叱ったよー。
アゲハくんの血の一滴まで私のなんだから、勿体ないことしない……ちがった、大事にしてって」
「誰がテメェのだ! クソ魔女!
俺のだ、ぶっ殺すぞ!!」
「いえ、センリツのという可能性もあります」
いや、僕は僕のです。
これほどまでにテオがキレている理由は——
僕が怪我したからだ。
スズとの鍛錬で。
僕は手を伸ばす。
センリツによってぐるぐる巻きにされた包帯を、すぽっと外した。
「っ!?」
センリツが声にならない悲鳴を上げる。
シトロさんは気まずそうな顔をし、テオは痛ましそうな顔をする。
「いや、しょうがねぇ!
スズのやつ一回ぶっ飛ばすか!!
それが終わったら、シトロ、テメェだ覚悟しろよ!?」
いや待て、「しょうがねぇ」じゃないよ。
ほんのちびっとだけだよ。
本当にちょっとだけ擦りむいてるだけなんだよ。
自分でも分かるか分からないかくらい、
ほんの僅かに。
ダメだ、このままだと収拾がつかん。
「て、テオ。だいじょうぶ、だいじょうぶだから。
スズもシトロお姉さまのことも、叱らないであげて?」
少し小首をかしげて——ここ。
悲しそうな顔で、ちょっと上目遣い。
ここが勝負だ。
泣かない。
でも、ギリギリ堪えてる感を出す。
テオは天を仰ぎ、
「なんとお優しい」とセンリツは涙を拭うふりをする。
シトロさんは「アゲハくん、好き!」と抱きついてくる。
僕はシトロさんの胸に顔を埋めながら、心の中で乾いた笑いを吐き出した。
冗談みたいだけど、正直これは由々しき問題だった。
だって——
これ、僕が手に豆でも作ろうものなら、どうなるんだって話だろ?
センリツは大丈夫だと言ったが、
スズは吊るされ、テオとシトロさんは全面戦争に突入する未来しか見えない。
師匠問題は、最悪の形で解決した。
でも、このままだと——
剣術の修行が出来ない。
つまり。
僕はスズに殺される。




