カナタの見誤り。 可能性を見出したのは僕です?僕です?!
***《カナタ視点》***
カナタには、一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ダグラが攻勢に出た。
その瞬間、ノラの動きが明確に変わったのだ。
完全に安定した光刃。
素早く放たれた、正確無比な光弾。
そこから、身体強化術式を用いた速攻。
どれも、魔法杖戦闘の基本だ。
だが、その基本を高い精度で組み合わせることが、どれほど難しいか。
カナタは知っている。
だからこそ、信じられなかった。
こんな芸当が、一週間でできるようになる。
そんな馬鹿な話が、あってたまるものか。
驚愕のまま、スズを見る。
スズは、さも当然だと言わんばかりに頷いていた。
「なぜ……どうして、こんなことが……」
漏れ出たカナタの声に、スズは小さく鼻を鳴らした。
「ノラはもともと、身体能力が極めて高い。それに、何より戦闘センスに関しては抜きん出ている。魔法杖の扱いさえクリアできれば、この程度、造作もない」
スズはそう言い切った。
カナタは、すぐには言葉を返せなかった。
確かに、ノラの身体能力は高い。
それは見れば分かる。
地下での実戦経験があることも、聞いていた。
荒削りではあるが、戦闘勘も悪くない。
それも、分かっていた。
分かっていたはずだった。
だが、ノラは魔法杖の授業をまともに受けていなかった。
光弾どころか、光刃もまともに扱えないと思っていた。
そもそも、彼女に魔法杖の適性があるかどうかすら、賭けだったはずだ。
何より、どうやってあのノラをやる気にさせたというのか。
彼女は魔法杖そのものに懐疑的だった。
より深く潜るために資格が欲しいだけで、魔法使いの真似事をするつもりなどない。
そう言っていたはずだ。
そんな彼女に、他の訓練を捨てさせた。
この一週間、魔法杖の扱いだけに集中させた。
それだけではない。
実戦で使えるところまで、仕上げてみせた。
そんなことが、どうして。
「お前は、見ていたはずだ」
スズが言った。
カナタは、息を止める。
「ノラの身体能力も、戦闘勘も、実戦経験も。見えていなかったわけではないだろう」
その通りだった。
見えていた。
見えていたからこそ、ノラを危うい生徒だと判断した。
素材は良い。
だが、魔法杖戦闘には不向き。
協調性に欠け、授業にも出ない。
この一週間で勝てるようにするには、あまりに不安定すぎる。
そう判断した。
「だが、お前は捨てた」
スズの声は、冷たかった。
「ノラの可能性を、最初から勝ち筋に入れなかった」
カナタは何も言えなかった。
「それは構わん。
アゲハ様はお前を信頼した。
シドとリノをお前に任せ、ノラの可能性に賭けたのだ。
その結果が今のこれだ。
お前は救われた」
スズは、はっきりと言い切った。
「さて、お前は何を見せる?」
カナタは、倒れたダグラを見た。
そして、荒く息を吐きながらも、まだ杖を構えているノラを見る。
見誤った。
そう認めるしかなかった。
ダグラが、目の前のノラを見誤ったように。
カナタもまた、最初からノラを見誤っていたのだ。
そのうえで、スズの言葉が重く響く。
自分が勝ち筋から外したノラを、決定打にしてみせたスズ。
そのスズはアゲハに従っただけだという。
その一方で、自分は、もともと優秀だったシドとリノを任されていた。
その自覚はある。
――お前は救われた。
否定できない。
ならば。
――さて、お前は何を見せる?
カナタは歯を食いしばり、息を呑んだ。




