玻璃珠の魔女。シトロさんはめちゃくちゃです
ガルムが己の失態を悔いている、その横で。
闘技場のざわめきが、一段大きくなった。
いつの間にか、シトロはマイクを握り直し、巨大な玻璃珠に乗って闘技場の上空に浮いていた。
『さてさて、今回の対抗戦だけどー』
シトロの声が、闘技場に響く。
『ちょっとした賭けをしてるの。二年、三年が負けたら、一年への陰湿なイジメをやめる約束!』
そこで一度、言葉を切った。
『そして……一年生が負けたら、一年全員退学!っていう、賭けを』
嬉しそうに言うシトロの声に、観客席が一瞬にして静まり返った。
ガルムは、ぎょっとしてシトロを見た。
言った。
この女、言ってしまった。
ガルムとの約束では、勝敗が決するまで伏せておくことになっていた。
それを、あっさりと反故にしたのだ。
『そんでもって、試合は実戦形式。何でも好きに使って良いよん!』
シトロは、会場の冷えた様子など気にも留めずに続ける。
『でも、安心してね。死なない程度には、私の結界と魔術で制御するから。光刃も光弾も、それ以外の攻撃も、ばんばん使ってね!思いっきりやっちゃって!』
観客席が少しだけざわめく。
シトロは、さらに笑みを深くした。
『ただし、お姉さん、いじめは嫌いなんだよねぇ』
その声は、明るかった。
明るすぎると言っても良い。
嬉しそうだとすら言える。
『指導。うん。良い言葉だよね。私も使っちゃおう』
さも名案を思いついたような声色だった。
『相手のためを思って、足りないところを教えてあげる。強くなるように、多少厳しくしてあげる。うんうん。とってもご立派ご立派』
パチパチパチ手を叩く。
シトロは、上級生側へ顔を向けた。
『今度は私が、足りないところを指導してあげるねっ!』
その気配に、上級生側の何人かが露骨に顔色を変えた。
『手足の一本や二本、飛んじゃってもー、私、止めないかもぉ。
だって、上級生のみんなのためだもん! 可哀想だけど、しょうがないよね? よね?よね?
みんな、分かってくれるよね?』
闘技場が、再び静まり返る。
ガルムのこめかみが引きつった。
『もちろん、死なないようにはしてあげるから、安心して!』
シトロは笑う。
『私が教えてあげるね。恨みを買うってことが、どういうことか』
一拍遅れて、わざとらしく声を上げた。
『あ! 指導、だっけぇ?
そう、私が指導してあげましょう』
シトロは観客席を見渡した。
誰もが、彼女の正気を疑っているような顔をしていた。
潜行者を養成するとはいえ、仮にもここは学校なのである。
正気の沙汰ではない。
『みんな、良い顔だね!』
シトロは満足そうに声を弾ませた。
『じゃあ、じゃあ、行ってみようか! 楽しい楽しい、一年対、二、三年連合、学年選抜対抗戦、始まるよー!!』
最悪の学年選抜対抗戦の幕開けだった。




