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想定外。 センリツは寮母さんです

職員観覧席。


ガルムは腕を組み、座っていた。


玻璃珠の魔女によって引き起こされた騒動ではある。


だが、この一年のクラスが、異常なまでに優秀であることもまた事実だった。


赤い悪魔の存在を抜きにしても、嘘ではない。


学年首席のカナタをはじめ、今回選出されたノラも推薦枠の生徒だ。


素行にさえ問題がなければ、極めて優秀な素材であるとガルムは考えていた。


それに加え、リノとシドの二人もいる。


この学年では中堅扱いではあるが、平年であれば上位生徒であってもおかしくない逸材だ。


つまり、このクラスをモデルケースにしたいという考え自体は、まったくの嘘ではなかった。


だからこそ、一年全員の退学は、何としてでも食い止めねばならない。


ジャンク商会と軍部が絡む、アゲハとスズ。


そこに、学年首席のカナタ、推薦枠のノラ。

さらに、リノとシドまでいる。


認めたくはないが、この試合は極めて興味深かった。


「あー、あー」


横では、シトロがマイクの調節をしている。


何を思ったのか、実況をやりたいと言い出したのは昨日のことだ。


ここまで来て、その程度のことを止める意味もない。


『はろー、えぶりばでぃ! シトロお姉さんだよー!』


拡声された声が、闘技場に響き渡った。


『さあ、始まりました! 一年対、二、三年連合選抜対抗戦! みんな、盛り上がっていっちゃおー!』


シトロが立ち上がり、拳を振り上げる。


観客席から歓声が上がった。


『お父さん、お母さん、関係者の人も見に来てくれてるのね! やっほー、センリツ! アゲハくんの格好良いところ、いっぱい見せちゃうからねー!』


シトロが観客席に向かって、大きく手を振る。


ガルムの動きが止まった。


センリツ。


その名前には聞き覚えがある。


いや、聞き覚えがあるなどというものではなかった。


「センリツ……戦慄」


ガルムは、隣に控えるセツナへ視線を向けた。


「今、戦慄と言ったか?」


セツナは、何のことかと首を傾げた。


「はい。言いました。センリツさんですね」


「なぜ、あれがここにいる?」


「……見に来たんじゃないですか?」


ガルムは目を瞑り、少しだけ心を落ち着ける。


しかし、駄目だった。


落ち着くはずがなかった。


「どうやって入ってきた」


「……はあ? 普通に歩いて入ってきましたけど」


「違う。そんなことを聞いているのではない」


ガルムは苛立ちながら、聞き直した。


「なぜ、あれが校内に入れる。誰が許可を出した。あんなものを中に入れる許可を、誰が出した」


「あんなものって、失礼ですね。というか、校長先生です」


ガルムの眉間に、深い皺が刻まれた。


「……なんだと?」


「ですから、校長先生です。彼女、入館証を持っていますから」


「誰が発行した」


「だから、校長先生です」


「俺が?」


「はい」


ガルムは言葉を失った。


心底、意味が分からなかった。


あれは、彼女ではない。


決戦用魔唱兵器。


型番、戦慄。


戦術級兵器であり、この闘技場程度なら、 十秒とかからず更地へ戻せる存在である。


そのようなものが、入館証を持って、観客席に座っている。


意味が分からない。


本当に意味が分からない。


何かの策略か。


国家の意図か。


愕然とするガルムの横で、セツナは思い出したように風呂敷包みを差し出した。


「そういえば、センリツさんからです」


「……何だ、それは」


「差し入れだそうです。手作りだとか」


セツナは風呂敷をほどき、蓋を開けた。


「あら。おいしそう」


そこには、綺麗なおはぎが並んでいた。


一つ一つ丁寧に形を整えられ、艶やかな餡が上品に並ぶ。


セツナはガルムを見る。


「いただいても良いですか?」


答える気にはなれなかった。


セツナはそれを許可と受け取ったのか、おはぎを一つ摘まみ、口へ運ぶ。


「……美味しい」


口元を押さえ、少しだけ目を細めた。


そして、それを飲み下してから、何でもないことのように告げる。


「アゲハ君たちの寮の、寮母さんですよ。彼女」


ガルムは、しばらく何も言えなかった。


玻璃珠の魔女については警戒していた。


研究補助も、護衛も、ジャンク商会絡みの人員も洗った。


だが、寮母。


生活職員。


そこまで警戒し始めれば、それはもう疑心暗鬼だ。


いや。


そこが甘かった。


だが、誰が想定できる。


まさか、決戦用魔唱兵器が、寮母として収まっているなど。


これは、あまりにも酷すぎる。




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