スズの確信と僕の不安。 きっと勝てます!
試合開始の合図が近づいていた。
観客席は冷ややかだった、負ければ一年全員が退学、寝耳に水の話だろう。
対戦相手である上級生たちもまた、静かに僕たちを睨んでいた。
僕も、いい加減覚悟を決めないといけない。
そう思って、隣にいるスズを見る。
「スズ、ノラは勝てますか?」
僕の質問に、ノラがむっとしたように僕を睨んだ。
「ちょ、アゲハ。そこでそれ聞く?」
そりゃ、聞くよ。
だって、大事なことだもの。
僕が曖昧な笑みを返すと、スズは迷いなく頷いた。
「勝てます」
即答だった。
「次鋒、中堅でもいけます。しかし、あえての先鋒です」
「あえて?」
「はい。今のノラなら、初手で相手の想定を崩せる。更にノラが勝つことでリノの負担は減ります。様子見の先鋒、負けるはずもありません」
スズは、ノラを見た。
「アゲハ様のご期待に、不肖スズ、そしてノラ。共に応える所存です」
ノラの顔が、ぱっと明るくなる。
「さすがスズ! よく分かってる!」
そして、僕の方を見て、にやっと笑った。
「アゲハ、ブー!」
「こら、ノラ! アゲハ様に失礼なことをするな!」
スズが即座に叱った。
叱った。
叱っただけだった。
……え?
普段なら、僕にこんなことを言う奴がいれば、一瞬で殺気立つスズが。
普通に叱って終わりだと!?
自惚れでなく、マジでちょっとびっくりだ。
人を育てるって、すげー。
ノラを育てることにより、スズも確実に成長しているということか!
なんにしても、良い兆候だった。
そして、そうか。
勝てるのか。
スズがそう言うなら、間違いない。
僕はそれを信じよう。
カナタも、リノも、シドも、ボロボロになるまで頑張っていた。
きっと、二人も勝てるはずだ。
ただ、少し疲労が気になる。
リノの顔色は、まだ悪い。
シドも、いつもより口数が少ない。
カナタに至っては、さっきから何か考え込むように黙っている。
三人の空気は、酷く張り詰めていた。
でも、ノラが勝ってくれるなら、この嫌な空気も払拭できるだろう。
リノの気負いもスズが言うように少しは晴れるだろうし、シドだって自分のことに集中できるはずだ。
それから……僕も頑張らないと。
二人の、いや、皆の頑張りに報いなければならない。
僕は後ろを振り返った。
そこにあるのは、スズが念のためにと持ってきたものだ。
銀の花をあしらった、可愛らしい僕の魔法杖。
ただ、一つ心配事がある。
「ねえ、スズ」
「はい」
「あれ、使っても反則になりませんか?」
僕が尋ねる。
スズは、僕の視線の先を見た。
それから、僕を見る。
少しだけ、考えるような間があった。
「反則級ですね」
「……え?」
やっぱり?
やっぱり使っちゃまずいのかな?
なんか、すげーグレーな答えが返ってきた。
あれがあれば、結構良い勝負ができると思うんだが。
いや、勝てる可能性はかなり高い気がする。
気がするのだけど。
反則かー。
そうだよなぁ……。
あれが魔法杖と呼んで良いものなのかどうかは、かなり微妙だった。
スズが反則と言うくらいなのだから、基本的には使わない方が良いのだろう。
僕は、そっと魔法杖から視線を外した。
とりあえず。
今は、僕が今できることを頑張るしかない。
僕は小さく息を吐いて、闘技場へ視線を戻した。
先鋒戦。
ノラの出番が、もう始まろうとしていた。




