ガルムの決断と蛇の毒……。いや、絶対に適当なことを言ってるだけです!
***《ガルム》***
玻璃珠の魔女の事後報告を受け、ガルムは言葉を失った。
いや、報告ではない。
これは通告だった。
「魔女殿。いくらあなたといえど、独断が過ぎるのではないか」
ガルムの声は、低く抑えられていた。
シトロが告げたのは、二年・三年連合対一年の対抗戦の決定。
そして、一年が負けた場合、一年全員を退学処分とするという条件だった。
いくらなんでも酷すぎる。
そんなことが、まかり通るはずがない。
「でも、もう決めちゃったしぃ」
シトロは髪をいじりながら、思わぬ反発を受けたとでも言いたげに唇を尖らせた。
悪びれた様子はない。
むしろ、少し不満そうですらある。
「だいたいさぁー、ガルムんが後先考えずに、アゲハくんのクラスをモデルケースにしたから、こんなことになったんじゃーん。私はむしろ、それを解決してあげようっていうかぁ、協力してあげようとしてるのに」
ガルムは頭を抱えた。
誰のせいでこうなったと思っているのだ。
そもそも、この女がテオ・ドールを招き入れなければ、このような事態は避けられたのだ。
赤い悪魔が、好き好んで学生の席に座るはずがない。
誰かが理由を与えた。
誰かが道を作った。
そして、その誰かに玻璃珠の魔女が関わっていないなどと、ガルムには到底信じられなかった。
赤い悪魔。
玻璃珠の魔女。
そして、その二人が執着する少年。
ガルムは、ただでさえ扱いに困る案件を抱え込まされている。
そのうえ、当の魔女はこの調子だった。
「……解決、と言ったか」
ガルムは眉間を押さえながら言った。
「一年全員の退学を条件にした対抗戦を仕組むことが、あなたにとっての解決なのか」
「うん」
シトロはあっさり頷いた。
「だって、分かりやすいでしょ?」
「何がだ」
「どっちが強いか。どっちが優秀か。どっちが正しいか」
シトロは、恐ろしいほどに美しい笑みを浮かべた。
「強くなければ、蛇に食べられちゃう。そうじゃない?」
その瞳が、まっすぐにガルムを射抜く。
「ねえ、校長せんせ」
ガルムの喉が、低く鳴った。
シトロが机越しに身を乗り出す。
冷たい指先が、ガルムの頬に触れた。
息がかかるほど近づいた顔。
シトロは、ガルムの耳元で囁いた。
「このまま放っておいたら、あの子たち、本当に蛇に食べられちゃうよ?」
安い脅しだ。
そう断じるのは簡単だった。
だが、否定できなかった。
シトロの言葉は脅しであり、同時に事実でもあった。
ガルムは生徒たちを守るために、彼らを学校に入れた。
だが、学校という檻の中に入れたところで、世界の牙までは消えてくれない。
赤い悪魔も。
玻璃珠の魔女も。
そして、彼らが見ている何かも。
この学校の規則や良識だけで御せるものではなかった。
こんな安い脅しに屈するわけにはいかない。
しかしだ。
この目の前の女こそが、蛇である。
理屈で絡め取り、笑顔で呑み込み、相手が息をできなくなるまで締め上げる。
玻璃珠の魔女とは、そういう女だった。
ガルムは息を吐くと、小さく頷いた。
シトロは満足そうに目を細める。
「心配しなくて良いよん。責任は私が取ったげるから」
それから、まるで思いついたように付け足した。
「ちゃんと、誰にも文句言わせない形でね」
そう言って、シトロは跳ねるように校長室を出ていく。
その後ろを、四つの魔法杖が飛んでいた。
一杖ごとに三基の魔導演算機を積み込んだ、上級魔導師級相当の力をもつ自律型魔法杖。
玻璃珠の魔女の、狂った装備が。
ガルムは、閉じられた扉を見つめたまま、しばらく動けなかった。
あれは、協力者ではない。
教師でもない。
蛇だ。
そして自分は、その蛇を学校の中に入れてしまったのだ。




