勝利の為に必要なモノ。アゲハ様はお気づきです
僕らが暮らす寮の庭。
その広場で。
「アゲハ様はもうお気づきだと思いますが、今さら、ノラの基礎体力や技術を上げることに価値はありません。そして、これは昇級試験ではない」
復活したスズが言った。
昨日はあれから、なんだか一日、変な様子だった。
それにしても、これは昇級試験ではないとはどういうことだ?
しかも、アゲハ様はもうお気づきらしい。
気づいているのか?
……勿論、気づいていたさ!!
「ノラ、この意味が分かるか?」
スズは聞いた。
先程の、昇級試験ではないという発言から推理するに。
付け焼き刃の技術を身につけても意味がないということだろう。
光弾だの、光刃だのも、試験であるなら必ず発現させなければならないが、そこに固執する意味などないのだ!
僕たちは勝たなければいけないのだから。
目的はそこではないのである!
我ながら冴えている。
ノラはピシリと手を上げて、
「分かりません!」
とはっきりと答えた。
まあ、僕ほどの推理力があれば、答えに辿り着けるだろうが、ノラには少し難解だったか。
スズは言った。
「必要なのは、光刃、光弾を発現させることではない」
ほら見ろ。
やっぱりそうだった!
「発現できれば良い程度の認識であるのならば、浅はかで済む。しかし、使えなくても良いなどと考えているなら、考えを改めろ。それは愚かだ。馬鹿だとすら言って良い」
僕は心に深いダメージを負った。
……いや、浅はかまでは良いとして、そこまで言わなくても良いじゃないか?
スズは、ノラの鞄から突き出した鉄パイプを指差した。
「持て。構えろ」
鉄パイプ。
ノラが、光刃なんか使うより早いと言っていた武器だ。
対するスズは三発連動の薙刀。
あの特殊な補助があるやつだ。
知ったかで言っているわけじゃないぞ?
ノラが構える。
独特だが、隙はない。
……実技最下位のお前が何を言っているんだ、という人もいるだろうが、そういうのは分かるのである。
いや、マジで!
対して、スズは光刃を発現する。
同時に身体強化術式、防殻を展開。
やり過ぎじゃない?
ただならぬ気配にノラがたじろぐ。
スズが踏み込むふりをすると、ノラは堪らずに打ち込んだ。
しかしだ。
スズには、ノラの動きが見えている。
多分、スローモーションみたいに見えているのだろう。
ノラの鉄パイプを、指二本であっさりと受け止めた。
防殻の展開によって強化された表皮は鉄のようになっており、鉄パイプ程度の攻撃ではビクともしない。
そして、逆にスズは、まるで豆腐でも切るように、光刃で鉄パイプを輪切りにしてしまう。
ガラガラと音を立てて散らばる丸い金属片。
「のわっ!」
ノラは思わず叫び声を上げて退いた。
「これが光刃だ。不必要か?」
ノラはゆるゆると首を振る。
まあ、スズの光刃は、他の人のそれとは比較にならん密度だけどな。
「私は同時に全て展開できるが、お前にここまでは望まない」
その上で、スズはノラに条件を示した。
身体強化術式を扱えるようになること。
瞬間的に防殻を展開できるようになること。
そして、光刃と光弾を、ただ発現するだけではなく、使いこなせるレベルまで引き上げること。
それを最低条件とした。
ノラと僕は最悪、実刃式の魔法杖で選抜戦に挑むつもりだった。
それでは意味がないと、スズは言うのだ。
光刃が使いこなせていない状態でそんなものを使っても、実体のある方の刃を切られて終わるだけだと。
「上級生は光刃に光弾はもちろん、身体強化術式を使ってくる。当然、防殻くらい使えるだろう。鉄パイプでは傷つけることすら出来ん」
ノラの身体能力や基礎技術はそもそも高い。
一週間という限られた時間で、さらに劇的にそれを上げられるか?
不可能である。
ならば、魔法杖の扱いに集中すべきだというのが、スズの結論だった。
いくらノラの基礎が良くても、身体強化術式、さらに防殻を使われて、物理武器で対応するなど出来ないのだから。
スズが昇級試験でも何でもないと言ったのはつまり。
発現するなど最低条件以下のことであり、運用可能なレベルで、光刃、光弾を扱い、身体強化を同時使用出来ねば意味がないと、そういうことだった。
そこまで引き上げられないのなら、そもそも選抜戦に出る意味がない。
それくらい、ノラの勝ち筋は細いのだった。




