僕は劣等生? 凍てつくような殺気です
僕の横では、スズによるノラの魔法杖講座が始まっていた。
「アゲハ様クラスにもなると、普通の杖ではだめだ。しかし、ノラ、お前は違う。アゲハ様はそっとと仰ったが、お前程度なら全力で杖に魔力を込めても構わない」
……いや、うん、スズの僕に対するヨイショは今に始まった話ではないが。
横で聞いている僕の方がちょっと恥ずかしいわ!
コントロールが下手だから、上手くできないだけなんだよ!
しかも、それを、ノラはなるほどと真剣な面持ちで聞いていた。
それにしても。
僕がビビり過ぎているせいで、光刃は安定しないのか?
そっとやり過ぎなのか?
横の会話が気になって、うまく集中できない。
もっと力を込めてみる?
思考を持っていかれた僕の魔法杖から、光刃がすっぽ抜けた。
光の刃は、ひゅん、と間の抜けた音を立てて飛んでいき、そのまま天井を貫く。
天井の隙間から青空が見える。
うわぁ。
これ、絶対怒られるやつやん。
僕がぽかんと天井を見上げていると、ノラがそれを指さして大爆笑した。
「めっちゃ飛んでったし! アゲハ、めちゃくちゃビビってるし! めっちゃウケるー!」
ワイワイガヤガヤと、僕らがやっていると。
気がつかないうちに、なんだか酷く冷たい気配が僕の横に立っていた。
いや、嘘だ。
ずいぶん前から気がついていたんだよ?
気づかないふりをしていただけで。
走り込みが終わった後くらいから睨まれてたのは知ってたんだ。
でも、天井に穴を開けるのはさすがにまずいよねー……。
横を見ると、青筋を立てたカナタが、必死に何かに堪えるように口を引き結んでいた。
何かじゃないな、これ。
完全にガチギレですやん。
「……アゲハ君、ノラさん。申し訳ないが、外でやってくれないだろうか」
「え? でも、ウチ、今から」
「外! で、やってくれ。リノやシド君の鍛錬の邪魔なんだ。頼む」
僕とノラは顔を見合わせる。
ぶっちゃけ、僕らが悪いよね、コレ?
つか、主に僕が……。
僕の表情からノラも察したらしく、苦笑いを浮かべる。
まあ、僕はもう、光刃を諦めたし、外でも構わないや。
なんか、別の手を探そう……。
「ハイ、ゴメンナサイ」
僕はカナタに頭を下げて、ノラとスズと連れ立って外に出ようとする。
けれど、それをカナタは引き止めた。
「スズさんはこちらで、リノとシド君のフォローをお願いしたい」
そして、少し躊躇い、言いづらそうにしたあと。
小さく息を吸い込んで。
「言葉は悪いが、今、勝ち筋のない二人にかまけている時間はない。こちらの指導をお願いしたいんだ」
カナタはスズに頭を下げる。
いや、分かってたさ。
分かってたけど、そんなにはっきりキッパリ言わなくても……。
まあ、それでも、カナタなりに考えてのことだろう。
頭を下げてまでお願いするくらいだ。
スズは置いていこう。
僕はちょっと凹みながらも、仕方がないとスズの方を見て。
そして即座に目を逸らした。
めちゃくちゃブチギレとるやないか!
「貴様、カナタ。アゲハ様を愚弄するのか?」
カナタはそれでも、引かなかった。
「本来であれば、二人を導くのも僕らの役目だ。ただ、今は時間がない。……その、何というか……劣等生にかまけていては、勝てるものも勝てなくなってしまう」
まずい、まずい、まずい!
スズが暴れる。
血の雨が降る!
僕の思いとは裏腹に、スズはふっと笑った。
「そこまで愚かだと、いっそ清々しい。貴様にアゲハ様の凄さは一生分からないだろうな!」
キレすぎて、逆に冷静になったのか?
それとも、スズがちょっと成長したのか?
とにかく、穏便に済ませられそう……そう?
スズは静かに魔法杖を構えていた。
「遺言はそれで良いか?」
氷のような冷たい殺気。
完全に殺る気じゃねーか!
僕はスズの腕を掴むと、もう半ば抱きかかえるように鍛錬場の外に連れ出す。
腕の中でスズが何か言っているが、ギュッとギュッと強く抱きしめる。
少しでも動かしたら危険である。
もうこうなっては、飴ちゃんではどうにもならない。
本来なら逃げたいところではあるが、ここで僕が逃げれば、カナタのみならず、下手をすれば、無関係なシドやリノ、ノラもやられかねない。
あー!
なんで、こうなんだよ!!
僕は死の恐怖に打ち震えながら、とにかく、スズを抱えて外に飛び出したのだった。




