最悪の展開と、ノラちゃんです。
とんでもないことになってしまった。
教室では、もはや話し合える雰囲気ではなくなり。
僕らは、シドの部屋に来ていた。
事の顛末をまったく知らないシドは、部屋に帰ってくるなり、その場の空気から何かを察したらしい。
くるりと踵を返し、部屋に入るのをやめようとした。
逃がしてなるものか!
僕はシドの肩を、ぐっと掴んだ。
僕らの話を聞いて、シドは乾いた笑いを浮かべた。
絶望の淵に沈んでいたリノは、今度は別の意味で沈み込んでいる。
青い顔をして、俯いていた。
自分が原因で、とんでもないことになってしまった。
そう思っているのかもしれない。
いや、悪いのはどう考えても上級生とシトロさんである。
シトロさんは言ってのけた。
「一年が負けたら、全員退学ね」
彼女の言い分は、こうだった。
スタンピードが起こって、絶対に勝たなければならない状態だと思え。
準備ができていないから待って、など通用しない。
負けたら死ぬ。
負けても退学程度なんだから、むしろ緩い条件でしょ?
と。
カナタの言うような、上級潜行者を目指す者としての責任とか矜持とか向上心だとか、そういう話で言うのならば、たぶん、シトロさんの言っていることは間違っていないのだろう。
準備不足だろうが、泣いていようが、怖かろうが、死ぬ時は死ぬ。
スタンピードならば、こちらの都合など待ってくれない。
それが、上を目指す者の心構えである。
……たしかに、そうかもしれない。
だが、勘違いするなかれ!
あの人は災害ではなく教師、先生なのである!
しかも、上級生に課した条件は、下級生が勝ったら、もう勝手な指導はしない。
関わらない。
それだけだった。
もう、無茶苦茶も良いとこだ!
「俺は話すら聞いてねーぞ」
シドは肩をがくりと落とす。
それも、そうだろう。
シドが昼休憩から帰ってくる前。
あの後、副校長先生が来て、箝口令が敷かれ、全員退学についても気にしないようにとのお達しがあった。
「なんか、教室の雰囲気が変だと思ったんだ……」
嘆きつつも。
けれど、彼も自分の担任であるシトロさんの最悪さは理解しているのだろう。
今さら何を言っても、どうにもならないことは分かっているようだった。
「私のせいで……ごめんね……ごめんね」
リノはしきりに謝っていたが、
「勝てばいいだけの話だ」
と、スズはいつもの調子だった。
それも、そうだが。
当面の問題として、リノをどうするかである。
副校長先生は気にしないようにとは言ったが、シトロさんの発言が取り下げられたとは言わなかったのである。
勘の良い生徒なら、そのことに気がついているだろう。
今、僕らを取り巻く環境はまさに四面楚歌。
そんな状態で、あのソニアさんが支配する学校寮にリノを帰すのか、という話である。
上級生どころか、もはや級友すら敵に回りかねない。
状況が最悪すぎて、僕は逆に吹っ切れつつあった。
「とにかく、だ。勝ってもらわないことにはどうしようもない」
カナタは僕らの顔を見渡して言った。
なぜか?
僕たちが出場者だからである。
実技ダントツトップのスズ。
ことの発端となったリノ。
そして、中間くらいの成績を持つシド。
……実技評価、下から二番目の僕である。
言っておくが、僕がビリではないぞ!
僕は……そう!
下から二番目!
断じて一番下ではないのだ!!
「っていうか、僕とリノで実技最下位じゃないんですね」
僕は思わず言ってしまった。
剣術の打ち合いを見る限り、リノはかなり酷く、そのリノに勝てない僕が最下位。
そしてリノが下から二番目。
そういう感じだと思っていたからである。
「リノは、魔法杖の扱いでは光刃を安定して出せている。それに、まだ拙いが光弾も習得済みだ」
……そっちか。
僕は単発式の魔法杖の扱いに苦心していた。
光刃は出る。
けれど、出力が安定しない。
使い方がまずいのか、運が悪いのか。
もう、貸出用の杖を二本だめにしていた。
杖がそんなに簡単に壊れるとは思えないから、まあ、もともと壊れていたか、摩耗していたか。
なんせ、貸出用だし。
でも、セヴァルはそれを僕のせいみたいに言うのだ。
本当に嫌なやつである!
それはそうと、問題はもう一人だった。
僕は、寝転がって漫画を読んでいるピンク頭に目をやった。
鮮烈なピンク色に染め上げたツインテール。
小柄な体躯。
状況が分かっているのか、分かっていないのか。
ポテチを摘みながら、足をぱたぱたさせている。
「まあ、それはいいとして、コレはなんで俺の部屋にいるんだ?」
顎で指して、シドが尋ねる。
カナタが半ば引きずるように連れて来たのが、彼女だった。
クラスメイトで、こんなに派手な見た目なのに、正直、僕はあまり印象に残っていない。
いや、派手だからこそ、かもしれない。
そもそも、僕はああいう陽キャの群れを、個別に判別できないのだ。
言われてみれば、教室の後ろの方で、似たような髪色の連中とたむろしていたような気はする。
皆の視線が集まっていることに気づき、ピンク頭が漫画を置いて起き上がった。
「挨拶くらいしたらどうです、ノラさん」
ため息まじりに言うカナタとは裏腹に、ピンク頭はすくりと立ち上がって、にやりと笑った。
「元野良潜行者のノラちゃんです! ヨロシク!」
きゃぴっと決めポーズを取る。
コイツ、マジで状況分かってねーだろ!




