助けられる勇気。 僕は間違ってます?
その時、上級生たちが、初めて僕をまともに見た。
「なんだよ。お前には関係ないだろ」
関係ない。
そう言われて、少しだけ考える。
確かに、関係ないのかもしれない。
これはリノの話で。
カナタが確認して。
リノ本人が大丈夫だと言って。
なら、僕が口を出すことじゃない。
たぶん、それも正しいのかもしれない。
でも。
リノは、大丈夫とは言ったが。
嫌じゃないとは言っていない。
助けはいらないとも言っていない。
「リノ」
僕は、リノを見る。
「本当に、大丈夫ですか?」
リノの笑顔が、ほんの少しだけ揺れた。
「リノ、嫌なら嫌って言って良いんです。そうしたら、僕はリノを助けます」
「お前、どういう意味だ、それ!?」
上級生の一人が声を荒げた。
教室がざわつく。
楯突くなよ。
また酷くなるだろ。
そんな小さな声が、教室のどこかから聞こえた。
「僕はリノと話しています。口を挟まないでください」
僕はそう言って、それからリノをじっと見つめた。
彼女は僕の目を見て。
そして、逸らした。
何か口を開きかけて、そして、やめる。
僕はリノの前に立つと、そっと肩に手を置いた。
無理やり言わせたいわけじゃない。
でも。
言って良いのだと、知ってほしかった。
「リノ。嫌だって言うのも、助けてって言うのも、勇気です」
はっきりと告げると。
リノの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「……けて」
本当に小さな声だった。
けれど、リノはもう一度。
「……たすけて」
そう言った。
カナタは少し驚いたように目を開いた。
そして、視線を逸らした。
その言葉を聞いて、上級生たちが顔を見合わせた。
「リノ、それじゃあ俺たちが!」
その言葉を遮るように。
「まるで、上級生があなたをいじめているみたいじゃない」
静かな声が響いた。
見れば、三年生らしき女生徒の一団がそこにいた。
「来るのが遅いから見に来てみれば、どういう状況なのかしら、これ?」
苦々しげに言い放つ。
リノの顔色が、明らかに先ほどよりも青くなった。
「リノさん、あなた分かっているの? 寮でもみんな、あなたのことを気にかけているのよ?」
責めるような声色だった。
「先生方からも、下級生の生活指導には目を配るようにと言われています。級長としても、寮長としても、見過ごすわけにはいきません」
級長。
寮長。
つまり、先生からの信頼も厚い、優等生ということだろう。
「感謝こそされても、まるで私たちを悪者みたいに言うのは違うのではなくて?」
リノは何も言い返せない。
女生徒は僕に視線を向けると、
「あなたは何なの?」
と尋ねてきた。
少し赤みがかった長い髪に、切れ長の目元。
長身の女生徒で、制服の襟には級長を示すバッジが光っている。
「僕はアゲハ。リノの友達です」
「……アゲハ、さん」
僕の名前に、何か思うところがあるのだろう。
まあ、それは彼女に限ったことではないから、今は良い。
「私は三年級長にして、女子寮寮長を任されているソニアです」
女子寮ということは、リノが入寮している寮だ。
「実技の成績が芳しくない彼女のために、特別に手ほどきしているのだけれど。それが、何か問題なのかしら?」
彼女は、僕を糾弾するようにそう尋ねたのだった。
問題。
問題かぁ……。
リノは助けてと言った。
それだけで、僕にとっては十分に大問題だった。
けれど、それをどう言えば良いのか、僕は一瞬迷った。
ソニアさんは三年の級長で、女子寮の寮長。
先生からの信頼も厚い、いわゆる優等生なのだろう。
そんな人が、先生方からも頼まれているのだと言う。
特別に手ほどきしているだけなのだと言う。
そういう言葉を並べられると、僕の方が間違っているようにすら聞こえる。
まあ、間違っていようが合っていようが、どっちでも良いといえばどっちでも良いが。
だってリノは嫌がってるんだから。
僕が口を開きかけたその時。
「はいはーい、そこまで」
場違いなほど軽い声が、廊下の方から響いた。
全員の視線が、そちらへ向く。
そこにいたのは、シトロさんだった。
そして、その後ろにはスズがいる。
スズは状況がいまいち掴めていないようで、小首を傾げていた。
けれど、僕らの様子を見て、ただ事ではないと気がついたらしい。
「貴様ら、アゲハ様に失礼を働いているんじゃないだろうな」
空気が変わった。
ぞわり、と教室の温度が下がったような気がした。
「スズ! ストーップ!」
シトロさんが、軽く手を上げる。
それだけで、スズは一歩踏み出しかけた足を止めた。
流石、シトロさんである。
ただ、動きが止まっただけで、その目は全然止まっていないけど。
うわぁ……やっぱりめちゃくちゃ怖いな、コイツ。
慣れてきたとはいえ、それでも、先ほどまでの上級生の放つ怒気や威圧感など、比較になるものですらなかった。




