八つ当たり。 僕は少しにぶすぎます
帰り道、僕は無言だった。
スズが気まずそうに僕を見て、でも、どうしていいか分からずに口を閉ざす。
結果的に、僕以外の皆は、リノが先輩からいじめにあっていることに気づいていたのだ。
あんなに皆、仲良くしていて。
それなのに、誰も助けてあげようとしていない。
カナタは知っていたが、成長の機会だと見過ごした。
カナタとリノは幼馴染だという。
そのカナタが、だ。
何の力にもなってやらず、試練だとのたまう。
シドも、リノが助けを求めたなら力になるつもりだったという。
けれど、そのまま潰れるなら、学校を去るべきだと言ったのだ!
けれど。
そんなことより、何より腹立たしいのは僕だ!
あんなに近くにいたのに、皆が気づいていることに気づかず。
なんか変だなーと、呑気に構えていた!
間抜けにしても過ぎるだろう。
「あ、アゲハ様」
「今、話をしたくありません!」
僕が答えると、スズはもう可哀想なくらいしゅんとした。
この世の終わりみたいな顔をして、うなだれる。
僕は少し、冷静になった。
「スズは……スズはリノが好きじゃないんですか?」
そう聞いた。
スズは動揺した様子で、
「あの……えっと……その」
と言い淀む。
それから、小さな声で答えた。
「分かりません」
僕はスズを振り返る。
スズの小さな肩が震えていた。
考えてみれば、スズはジャンク商会で大人に囲まれて育った。
唯一の友達も、英雄アゲハの生まれ変わりとされる、護衛対象の僕だけ。
僕はため息をついた。
スズの肩が、またビクリと震える。
「ごめんなさい。八つ当たりです」
僕の言葉に、スズは顔を上げる。
「僕はリノが好きです。もちろん、友達として。なのに、気づいてあげられなかった。スズたちは分かっていたのに」
スズやカナタ、シドの考え方に八つ当たりしても仕方がない。
受け入れられない考えもあるけれど、問題はそこじゃない。
問題は僕自身なのだ。
「スズ、僕はリノを助けたい。力になってくれますか?」
僕が尋ねると、スズは首を横に振った。
そして、言う。
「そんなこと聞かないでください。スズはいつでも、何を差し置いても、アゲハ様の力になります」
僕はふうっとため息をつく。
人の考え方はそれぞれだ。
それを強制することは、きっと誰にもできない。
リノを助けたい。
その考えは、きっと傲慢だ。
それでも、放っておけない。
「スズが助けてくれるなら、百人力ですね」
僕はそう言って笑った。
スズの顔が、途端に華やいだ。
***
家に帰り、まっすぐ向かった先はシトロさんの部屋だった。
扉をノックした、その瞬間。
猛烈な勢いで扉が開き。
気がつけば、僕はベッドで抱き込まれていた。
「いや〜ん、アゲハくんから来てくれるなんて、だ・い・た・ん。大丈夫だよん。アゲハくんは天井のシミでも数えておけば、あとはお姉さんが全部やったげるから!」
綺羅びやかな天蓋。
香水の香り。
紫と黒を基調とした部屋。
まるで、どこかのお姫様……いや、女王様が暮らすような部屋だった。
その片隅には、魔導機や設計図のようなものが書かれた書類、何かしらの部品が積まれている。
シトロさんが散らかしまくり、センリツが分からないながらも片付けた結果だろう。
下層のシトロさんの自室も、こんな感じだった。
もっとも、今はシトロさんの冗談に付き合う気分ではない。
シトロさんも何かを察したのか、
「つまんないの〜」
そう言いながら、僕から離れた。
「シトロさん、僕のクラスが先輩たちの標的になってます」
僕がそう告げると、
「え? 何で?」
と、シトロさんは首を傾げる。
僕はため息をついた。
分かってるくせに。
そう思いながらも、事情を説明する。
「えー、みんな性格悪くない? 下級生の成長くらい、暖かく見守ってあげれば良いのに〜」
シトロさんは、わざとらしくそう言ってから、
「で、アゲハくんはどうしたいのかな? 私ならまとめて退学処分にもできるし〜。なんだったら、ふしぎなふしぎな力で行方不明っ、とかも、だいじょぶだよ?」
……これが冗談じゃないから笑えない。
僕が望めば、たぶん、そうなるのだろう。
でも、僕は考える。
カナタの言い分は過激だ。
正直、気に入らないとすら言える。
みんながみんな、そんな高い志で学校に来ているわけじゃないだろう。
いや、志がないと言いたいわけではない。
ただ、人の頑張りなんてそれぞれで、優先順位だってそれぞれだ。
もちろん、通うなら努力して然るべきという考え方は、きっと正しい。
間違っていない。
やる気がないなら、やめればいい。
それも、一つの考え方だ。
でも、まだ、みんな子どもで、未熟で、手探りで何かを探しているのだ。
いや、大人だってそうだ。
正しい目的のために、常に正しく努力し続けていけるわけじゃない。
シドの言い分も尤もだ。
助けられたいなら、まず手を伸ばすべきだ。
誰かが勝手に助けても、それはきっと本人のためにならない。
同じような状況になるたび、誰かが助けてくれるわけじゃない。
でも。
なら、傍観するのか?
それは違う。
助けてと叫べと、手を差し出せと促すことは、きっと、できるはずだ。
そして、リノだ。
彼女がどうしたいのか。
それが、一番の問題なのだ。
シトロさんは、僕をじっと見つめていた。
それから、
「……戦えば良いんだよ」
ぽつりと言った。
「君は結局、そうするんだから」




