第63話 セヴァルの授業と憂鬱な気持ち。 まんじゅう丸とお好み焼きです
じゅうじゅうと、お好み焼きが焼けていた。
今日はモダン焼きである。
お好み焼き屋のおっちゃんが、そばをおまけしてくれたのだ。
今日は週に一度の外食の日だった。
センリツがご飯を用意してくれているというのに、ついつい匂いにつられて食べたくなってしまうのだ。
一銭洋食くらいなら良いかと、度々寄り道していたのだが、結局それでは止まらず、追加に追加を重ねてしまう。
そのため、週に一回を外食の日と僕らは定めたのだ。
センリツにとっても休養になるだろうし。
ここのお好み焼き屋さんの特製ソースは、とにかく美味い。
くせになる。
シドに聞いたところによると、驚くべきことに自家製らしい。
隠し味に柿が入っていると言っていた。
いつか、センリツに再現してもらおう。
スズはもはや、お好み焼き屋のおばちゃんのようであった。
僕好みのカリカリふわふわのお好み焼きを、完全にマスターしている。
僕はスズに任せきりなので、口だけ番長だ。
「シドさん、お茶のおかわりお願いします」
僕が頼むと、エプロン……いや、前掛け? を着けたシドが、冷たい麦茶を持ってきてくれる。
「もうすぐ、バイトも終わりの時間か。君も食べるかい?」
カナタが尋ねる。
いや、それ、僕のモダン焼きだぞ?
分かってんのか、コイツ?
「賄いがあるから、気にすんな」
と、シドはぶっきらぼうに答えて、僕が飲み干した麦茶を注ぎ足す。
カナタもすっかり、ここのお好み焼きの虜になっていた。
ヘラで食べる姿も……めっちゃ違和感はあるが、様になっている。
見た目は王子様だからな。
それはそうと。
リノはなんだか、気落ちした様子だった。
まあ、たしかに、今日のセヴァルの授業の後だから無理もない。
あの人は潜行者を育てたいのか、辞めさせたいのか、どっちなんだろう?
子どもたちの心を普通に折ってくる。
リノ以外の生徒たちもなんだか、思い詰めた顔をしていた。
シドが何か言おうとして、けれど止める。
なんだろう?
気になるではないか。
そういえば、シドはところどころに絆創膏を貼っていた。
喧嘩でもしたのか?
じっと見つめる僕の視線に気づいて、シドは、
「凶暴な猫が近所に住み着いたんだ」
と、そう言った。
***
それにしても。
家路につきながら、僕はふと思い起こす。
リノもシドも、なんだか様子が変だった。
カナタはいつも通りで。
横を歩くスズを見る。
スズもいつも通り、ちょっと変だ。
「ねぇ、スズ」
僕はスズに尋ねようとして、そして、言葉を止めた。
シドの家の裏から続く用水路の側道を、僕らは歩いていた。
その用水路の脇に植えられた柳の下を、見慣れたまんじゅうが歩いていた。
いや、違う。
まんじゅうみたいな猫。
あの不細工な後ろ姿は、忘れようはずがない。
「まんじゅう丸」
僕はつぶやいた。
***
いや、そんなはずないだろうと近寄れば、そのふてぶてしい顔は紛れもなくまんじゅう丸だった。
僕は試しに、センリツへのお土産にと、おっちゃんがくれた洋食焼きを一枚やってみる。
たくさんあるのだ。
センリツだけでは食べきれない。
『な゛ぁ〜ご』
この腹の立つ声。
間違いない。
「アゲハ様、この猫は」
「まんじゅう丸ですね。でも、なんでこんなところに?」
下3層からここまでは、かなりの距離がある。
歩いてここに来るのは、ほぼ不可能である。
わざわざ、誰かが連れてきたんだろうか?
謎だ。
というか、最近住み着いた、凶暴な猫とはこいつのことだろうか?
まんじゅう丸は見た目に反して、なかなかの武闘派である。
下3層のヤクザ者たちをおちょくって遊んでいたりする。
要は、性格も見た目も悪いのだ。
僕はもう一枚、まんじゅう丸に洋食焼きを差し出した。
また、あの独特な鳴き声が響く。
ああ、なんかクセになるんだよなあ。




