ぶらり一人旅。 けれどなんだか不穏です
授業にはだいぶ慣れてきた。
潜行者のことも、魔法のことも、かなり理解できるようになったのではないだろうか。
魔法杖も、なんとなく使い方が分かってきた。
要は、力みすぎだったのだ。
ゆるーく。
ゆるーく力を込めれば、なんとか安定して光刃を出せる。
かなり調節は難しいけれど。
それより問題なのは、剣術の授業である。
相変わらず、リノには勝てない。
カナタとかシド相手なら、そこそこ打ち合える日もあるけど、それでも調子が上がらない。
スズ相手だとわりと僕が勝ててしまうのだが、あいつの場合は僕の顔を立てようと、わざと負けている可能性も捨てきれない。
というか。
それしか考えられない。
「流石です! アゲハ様! 私では手も足も出ません!!」
やめろ。
大きな声で僕を褒めるな。
めっちゃスズに言わせてるみたいじゃないか。
リノには連敗続き。
他も似たようなもので。
学年最強を誇るスズにだけ、僕が勝てる。
周りからも、完全にヤラセだと思われていた。
僕は当然、そんなこと頼んでいない。
……ああ、皆の視線が痛い。
狂犬スズが僕の周りをちょろちょろし。
それだけでも目立つのに、テオが人目も憚らず僕にちょっかいを掛ける。
僕はクラスの中で、完全に腫れ物扱いである。
完全に関わってはいけない人になっている。
あの良い人代表のリノにすら、
「アゲハくんは近寄り辛いから……ね?」
みたいな、フォローなのか何なのか分からないフォローをされる始末だ。
僕の桃色の学園生活は、今や完全に灰色であった。
女の子と仲良くお話したり。
放課後デートしたり。
そういう普通の青春は、たぶんもうきっと無理だと思う。
……いや、諦めるなかれ!
「アゲハ様、今日も下宿に寄りますか? カナタがボードゲームを実家から送ってもらったので、シドの部屋に置いておくと言っておりました」
なんか、そんな話をしていたな。
ただの遊びのゲームじゃなくて、潜行者としての洞察力とか推理力を高めるなんちゃらかんちゃら。
カナタはほんとに良いとこのボンボンで、潜行者になると言った時には、母親なんかは泣きながら止めたそうなのだが。
そういうわりに、実家からの援助が手厚い。
寮だって、学校指定の中では一番設備が充実した寮だし。
娯楽用品から備品、食料に至るまで、頻繁に送ってもらっている様子だった。
本人は自立したいし、親の過保護にうんざりしているようだが。
まあ、気持ちは分からなくはない。
慎ましくても、自由を謳歌してこその一人暮らしなのに。
過保護な英雄とか、過保護な英雄とか、過保護な英雄とかが次々やってきては、心が落ち着く暇もないのだ。
まあ、それはそうと。
「今日は遠慮しておきます。スズは行っておいで。ボードゲームの遊び方、僕にまた教えてね」
「……何かご用事ですか? それならば、スズめもお供いたしますが?」
いや、スズがついてきたら本末転倒というか。
そのしゅんとした犬みたいな表情、やめてくれ。
テオもそうだけど、こいつらの悲しそうな顔は、普段がめちゃくちゃなだけに、僕のピュアハートにはこたえるのだ。
「ちょっと、お使いというか、知り合いに会いに行くというか。また今度紹介するので、ね? 突然、スズが行ったら、向こうも緊張してしまうと思うから」
変に誤魔化すより、正直に話した方が良いはずだ。
スズは納得したのか、していないのか。
「……分かりました」
と、俯いたのだった。
***
一人で行動するのは久しぶりだった。
背後にスズがいない。
横からテオが腕を絡めてくることもない。
センリツが完璧な距離で控えていることもない。
それだけで、妙に体が軽い。
レンガ造りの町並みは、そこかしこに緑が生えている。
最初に心配したほど、虫も湿気も気にならなかった。
鳥や虫を捕食する生き物が多いせいだろう。
それにしても。
僕は気づかれないように、後ろに意識を向ける。
三人か。
こそこそとつけ回している気配がある。
素人ではないが、ジャンク商会の人とか、金将会の組員に比べれば拙い。
テオとかセンリツが僕を心配して、遠出をするときなどはよく尾行がつけられていたから分かるのだ。
彼らはもっとうまく隠していた。
はてさて、どうしよう。
僕に勘づかれるくらいだから、大した連中じゃないだろうけど……。
こちらから声をかけるべきか。
人通りの多い道を選ぶべきか。
それとも、気づいていないふりをして目的地まで行くべきか。
少し迷って、僕はそのまま歩くことにした。
せっかくの一人行動なのだ。
尾行三人くらいで予定を変えるのも、なんだか負けた気がする。
***
目的地に着く頃には、気配はなくなっていた。
何だったんだろう?
まさか、僕の知らないところで誰かが追い払ったとか。
……いや、考えすぎか。
まあ、良いか。
僕は気にせず、目的の店を訪れていた。
ミルクホール・ピッチフォーク・中層学園都市支店である。




