いいえ、彼女は殺意系美少女です
ずっと、素振りしている。
僕のことなんて、まるで見えていないみたいに。
こっちを見ることすらしない。
たまに視線が合っても――
心底、蔑んだ目。
虫でも見るような目。
いや、それ以下かもしれない。
意識して、視界に入れないようにしている。
そんな感じだった。
というか、朝から晩までずっと鍛錬している。
素振り。
走り込み。
筋トレ。
型の練習。
戦術書や武道書も読み込んでいるし、
商会の先輩たちの指導も積極的に受けている。
華奢な身体は、もうボロボロだった。
「セン姉様のお願いだから置いているが――」
彼女は言った。
淡々と。
「私の視界に入るな。入ったら、殺す」
……うん。
言い切ったね。
完全に言い切った、言葉にしたよこの子。
ガチだ。
これはガチなやつだ。
殺意の目が半端ないもん。
今まで甘やかされてきた僕は、慈しむ目しか向けられてこなかった。
だからさ、こういうの、やたらと敏感に分かるんだ。
それにしても。
自分で言うのもなんだが、イケメンの生まれ変わりなだけあって、僕の見た目はかなりラブリーだ。
商会のみんなは厄介事に巻き込まれるのが嫌で、なるべく僕に関わらないようにはしているが。
それでも。
お菓子をくれたり、
ちょっと微笑んでくれたりするお姉さんたちがいるくらいには、
僕の容姿は整っている。
そんな僕を、ここまで蔑ろにできるのは――
ある意味すごいというか。
どれだけ嫌ってるんだろう。
……逆に。
新鮮!?
僕の中に、変なチャレンジ精神が芽生えた瞬間だった。
***
僕は商会の事務室で、シトロさんに抱っこされていた。
机の上にはショートケーキとメロンソーダ。
シトロさんは上機嫌で鼻歌を歌っている。
テオはまた千石楼だろうか。
姿はなかった。
このケーキとジュースはセンリツが用意したものだ。
たびたび、僕の食べ物や飲み物に媚薬とか催眠薬とかを入れるせいで、シトロさんが僕の口に入れるものを用意するのは、テオから固く禁じられている。
っていうか、四歳児相手に何やってくれてんだ、この人。
マジで。
「はい、あーんしようねー」
言いながら僕の口にケーキを突っ込もうとするが、すんでのところでセンリツがガシりと阻止する。
「シトロ様、テオ様に叱られます。お薬はおやめ下さい」
センリツの笑顔の圧がすごい。
「ちっ!」
特大の舌打ちをしつつ、渋々フォークを受け取り「お薬を」と言う、センリツのダメ押しで怪しげな小瓶をセンリツに押し付ける。
薬の中身は……聞かないでおこう。
「そうだ、そうだ。
アゲハくん、スズとはうまくやってる?」
「はは……」
僕は乾いた笑いを浮かべた。
上手くやるも何も、視界にすら入れてくれないし、たまに見てもゴミを見るような目で見てくる。
なんか、新たな性癖……変な扉を開きそうな気分だった。
「アゲハ君が一番だけどー、あの娘もあの娘で可愛いのよねー」
と、シトロさんが恍惚の表情を浮かべる。
あんにゃろう、猫被ってやがるな。
……僕も人のこと言えないけど。
問題はそこじゃない。
そのせいで、僕の剣術修行が一向に進んでいないことだ。
これまで散々甘やかされてきたせいで、
手取り足取り教えてくれるものと信じて疑わなかったが当てが外れた。
……って、ちょっと待て。
なんでシトロさん、スズと修行してること知ってるんだ!?
慌ててセンリツを見る。
「お二人とも仲良く遊んでいます」
ウィンク付きだ。
なるほど。
そういえば“遊び相手”ってことにしてあるのか。
「まあねぇ、アゲハくんもお年頃だし、若い子の方が良いよねぇ。
でも、いつでもお姉さんが手取り足取り色々と遊んであげるからねん」
今度はシトロさんがウィンクしてくる。
一瞬、顔が緩んだ。
――やばい。
はっと我に返る。
狂気じみて顔面が良いから、たびたび、騙されそうになるけど。
この人には絶対弱み見せちゃいけない。
何されるか分かったもんじゃねー。
四歳児に薬盛るような女だ。
しかし。
いつまでもスズの氷の視線に悦んでいるわけにはいかない。
早急にスズから手ほどきを受けないと。
ケーキを口に放りこまれ、ジュースを飲まされながら――
僕は腕組みした。




