テオとスズと狭い部屋。 千日紅が置かれました。
ミスった。
完全にミスった。
テオはニコニコと僕の隣にいた。
学校に通えとは言った。
たしかに言った。
でも、まだ、放課後まで一緒について来いとは言っていない。
「僕のオアシスが侵食されていく」
「……なあ、お前ら、ここが俺の部屋だって理解してるか?
オイ!?」
「シド、煩いぞ。
アゲハ様がテオ様と寛いでおいでだ。
邪魔するな」
「頭おかしいのか、お前は!?」
なんか、スズとシドがギャイギャイ言い争っている。
「二人とも仲良しだよね」
と、リノが笑う。
仲良しなのか、あれは。
まあ、面倒くさいし、そういうことにしておこう。
「授業以外でお会いするのは、初めてですね。
狭いところですが、どうかご容赦を」
カナタがテオにお茶をすすめる。
というか、ここはシドの部屋である。
なぜ、カナタが主みたいな顔をしているのか。
紳士ぶっているが、こいつもたいがい図々しいぞ、まったく。
そして、話しかけられたテオは、スンとした顔をしていた。
まるで、借りてきた猫である。
荒事にはめっぽう強いが、意外にシャイなのだ。
けれど、カナタはそういうところは流石というか、テオの扱いが分かってるわけではないのだろうけど、無視されても深追いはしない。
「お茶、置いておきますね」
と、麦茶の入ったコップをそっと置いた。
カランと氷の音が鳴る。
テオは氷を目で追っていた。
麦茶にかち割り氷。
二番煎じではあるが、カナタもよくわかった男だった。
まあ、とは言えテオのことだ。
すぐに飽きるだろう。
「俺、今から、下でバイトだからな」
グイッと麦茶を飲み干し、シドが立ち上がる。
シドは下のお好み焼き屋さんでアルバイトをしている。
それで、家賃は免除されて、給料も出るらしい。
ちなみに、お好み焼き屋のおっちゃんが家主である。
あんまり愛想は良くないが、焼きそばをおまけしてくれたりする良い人なのだ。
「それがどうした?」
「いや、家主が今からいなくなるって言ってんだから帰れよ!」
「心配するな。ちゃんと後片付けして、麦茶も補給しておく」
「常識あるのか、常識ないのかどっちなんだよ!?」
なんだか疲れた様子のシドに、テオはもう飽きたのか、くあっとあくびをして、伸びをすると立ち上がった。
そして。
「スズ」
と、スズに声をかける。
スズはハッとすると、すぐにテオに袋を手渡した。
そういえば、スズだけ一旦、寮に帰っていた。
何かを取りに行っていたようで、戻ってきた時には包みを持っていた。
テオが取り出したのは、千日紅の鉢植えだった。
それをテオは、窓際にぽんと置いた。
「特別にくれてやる。大事にしろよ?」
テオはシドにそう言った。
シドはなんだか分からない様子で、
「え? あ、ああ、ありがとう」
と礼を言った。
もしかして、昨日僕が言ったことを、ちゃんと考えてくれたのだろうか。
学校を楽しむ。
友達と関わる。
その第一歩が、シドの部屋に鉢植えを置くということだったのは意外だった。
テオは満足げに頷くと、僕を一度ぎゅっと抱きしめてから、とっとといなくなる。
キョトンとする皆。
リノが、
「アゲハくんとテオくんって、やっぱり……」
と静かに呟いた。
花は良いとして、変な爆弾まで置いてくんじゃねーよ!
***
それにしても驚いた。
テオがああも簡単に植木を人に預けるなど、思ってもみなかった。
それもそうなのだが。
「スズはテオの庭に普段出入りしてるの?」
あの絶対不可侵の庭。
移築後も移築前も。
僕は、僕とテオ以外が入るのは見たことがない。
「入口の方に、庭の手入れに必要なものなどをお運びすることはたまに。
奥までは入れて頂けませんが」
そう答えるスズは、なにか、どこか嬉しそうというか、誇らしそうというか。
確かに、庭の移築に関してはシトロさんの手を借りていたりするわけで。
あの規模の庭を、テオ一人で完全に管理しているわけではないから当然なのだけど。
少なくとも、シトロさんやセンリツ以外で、あの庭に誰かを関わらせるというのは、それはかなり意外だった。
でも、考えてみれば、テオはスズのことを気にかけている。
他には一切興味を示さない人だけど、スズには稽古をつけてやったりしているし。
かなり、特別な存在として見ている様子だった。




