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理由と目標。 僕には少し難しいです

帰り道。


僕とカナタが前を歩き、その少し後ろをスズとリノが並んで歩いていた。


リノはすごい。


あのスズと穏やかに普通に会話しているのである。


僕が近くにいなければ、かなり優秀な子なんだが。

僕が近くにいると途端にだめになる。

僕にくっついて離れないのだ。


そんなスズを、リノは自然に引き剥がしていた。

普通に話しかけて、普通に隣を歩かせている。


良い人代表、恐るべし。



「今日は朝から、先生方がなんだかピリピリしていたね」


カナタが言った。


確かに、なんだろう?


殺気立っているというか、でも、それとも違う感じ。


何かを観察しているような?


こっちを見ているような感じもしたんだよなー。


なんだろう?


今日は珍しく、朝からテオがちゃんと学校に来ていて、その上、授業もちゃんと受けていたから珍しかった?


いやいや、僕らは名目上、英雄と同名の普通の生徒だ。


そんなことでいちいち注目したりはしないだろう。


とはいえ、ジャンク商会から来た、こんな名前の二人だし。


なんか、変な挑発と取られている可能性も十分にある。


それで、注目を集めているのかも。


初日からスズがやらかしているし。


やっぱり偽名とか使うべきだったのかな?


でも、それはテオもシトロさんも、それからセンリツも嫌がったしなー。


「そういえば、カナタはどうして潜行者になったんですか?」


カナタの父親は、国の議員か何かで、下1層で商売もするやり手だという。


カナタはそんな父親を、心から尊敬している。


本来ならば、彼は父の跡を継ぐはずだったのだと、以前話していた。


「……僕のエゴ、かな」


カナタは少し考えてから、そう言った。


「父の仕事の関係で、下層に何度か降りたんだ。

最初は興味本位で」


下1層でさえ、当時のカナタにとっては衝撃的な光景だったという。


大企業の本社ビルが立ち並ぶ区画はともかくとして、その周辺に作られた繁華街や、居住地区。


貧富の差も激しく、水商売や、ヤクザ者だって多い。


ストリートチルドレンとまではいかないが、ろくに学校にも通っていないような子どもたちが、街には当然のようにいた。


上2層育ちのカナタには、考えられない光景だった。


上2層は、人間復興の戦いでかなり被害の少なかった層だ。


上1層を突破した時点で、反政府軍はかなりの勢いと戦力を持っていた。


上3層に籠城した旧政府軍との戦いは、かなり激しかったようだが。


そもそも、一番普通に近い人々が住んでいたのが上2層であり、幸いなことに、反政府軍の直接の標的にはならなかったのである。


「僕は父に頼み込み、下3層を見学させてもらった。

英雄たちが最も多く死んだ土地、彼らが生まれ育った土地。

それを単純に見たかったというのもある」


そこでカナタが見たのは、下1層よりさらに劣悪な環境で過ごす人々だった。


不法潜行者が幅をきかせ、文明のレベルは低く、子どもたちは地域の寺や教会、有志の学習塾でなんとか最低限の教育を受ける程度。


潜行者ギルドはろくに機能しておらず、蛇の脅威と隣り合わせの生活。


……悪いところだけ言われれば、そうかもしれないけど。


そこまで酷かったっけ?


まあ、僕が暮らしていたのは、金将会のお膝元で、ジャンク商会もあって。


何より、ぎょくのおいちゃんが目を光らせていたからなぁ。


良い意味で、普通の下町だった。


他地域は危ないところも結構あると、センリツも言っていたっけ?


「僕は思ったんだ。

変えていかなくちゃいけないって」


カナタは、真面目な顔で言った。


「まず何より、蛇の脅威を一般人に背負わせていること。

そこが問題に思えた」


金稼ぎのために野良潜行者が集まる。

ファミリアとか、クランとか、商会を立ち上げる。


もちろん、彼らは高確率でならず者。


下3層の治安は悪化する。


カナタには、そういう構図に見えたようだった。


まあ、近からず遠からず、そういう見方もできるよね。


実際は、政府がほとんど介入しないから、潜行者ギルドとか、金将会みたいな任侠団体が治安維持していたりするんだけど。


まあ、酷いところもあるにはあるし。


僕も完全には理解していないが、介入しないというより、できないのが実際のところっぽい。


あの辺りは、ヤバい潜行者組織が結構あるのだ。


深紅とか。


金将会も、力的にはそうだし。


あとは、ジャンク商会うちとか……。



そんなこんなで、カナタはまず自らが潜行者となり、現場を知ることから始めたらしい。


「母は反対したよ。

彼女は上層しか知らないし、下層のことに興味がないんだ」


僕も正直、上層のことはあんま知らんし。


直接、影響がなければそんなものではないのだろうか?


でも、カナタにはそれが、すごく、なんていうか、悪いことのように見えたようだった。


確かに、悪意と無関心は紙一重とも言えるが。


でも、普通に暮らせていたなら、それはそれで良いじゃないかと思ってしまう。


「ただ、僕はいずれ、父の会社や立場を引き継ぐことになるだろう。

その時に、母のようでは良くないと思った。

下3層の劣悪な環境では、人は駄目になってしまう。

貧困や教育問題を見て見ぬふりしていては駄目だと」


「それなら、下3層で生活するだけでも良かったのでは?」


わざわざ潜行者なんかになる必要などないだろう。


「安全な立場から、ただ見ているだけでは、実際のところは分からないんだよ。

英雄アゲハがそうであったように、人は傷ついて初めて、人のつらさや苦しさが分かるんだ」


……そんなもんなのだろうか?


僕にはよー分からん世界だ。


英雄アゲハ。


その名前が出ると、なんとなく背中がむずむずする。


まあ、資料に残っている英雄アゲハは、だいたいそういう人な印象なのは否めない。


自分が傷ついても、誰かのために戦った偉い人。


センリツも、そんなふうに言っていた。


お優しい方だった。


自分が傷つくことも厭わない方だった。


誰よりも、ご自分に厳しい方だった。


だから、カナタの言っていることが間違っているのかどうかは、僕には分からない。


ただ。


傷つけば人の痛みが分かる、というのは、少し綺麗すぎる気もした。


まあ、カナタが立派な志のもと、潜行者を目指しているのはよく分かった。


僕にはできないことだし、彼にはぜひ頑張ってほしいが。


下3層出身の僕を目の前にして、劣悪な環境言うんはどうなんだ?


僕はそんな気にしないけど、マチダのおっちゃんとか、金将会の若い衆とか相手だと、それこそ乱闘騒ぎになるぞ。





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