赤い悪魔……普通に教室にいます!
授業を終えるのを待たず、生徒たちに自主練習をしておくよう告げ、カザミは鍛錬場をあとにした。
極めて冷静を装いながら。
逸る気持ちを抑えながら。
真っ直ぐに向かったのは、校長室だった。
ノックの返事を待つことなく、ドアを開ける。
「ガルム殿、お話が」
「……カザミ教授か。
ずいぶん慌てた様子で……いかがした?」
ガルムが書類から顔を上げ、少し戸惑ったように尋ねる。
礼節を重んじ、普段は冷静なカザミである。
返事も待たずにドアを開け、その非礼を詫びることもなく話を始めた。
そのただならぬ様子に、何かを感じたようだった。
「一年上級潜行者育成科に、テオ・ドールがいます」
その声色は、普段のカザミのものとは違っていた。
ガルムは、しばし黙った。
たしかに、あそこにテオは在籍している。
テオ・ドールではない、テオだ。
ガルムも確認はしている。
ジャンク商会による、たちの悪い冗談。
あの赤い悪魔とよく似た生徒を、同名で送り込んできたことは把握していた。
「……同名の生徒の話かね?」
「違います」
カザミは即座に答えた。
そして、わずかに言い淀む。
「……アレは本物だ」
本物の赤い悪魔が在籍している。
カザミは、そう告げたのだった。
***《アゲハ視点》***
最初は散々だった。
リノには普通に打たれるし、シドには変な顔をされるし、カザミ先生にも首を傾げられるし。
正直、今日は駄目かもしれないと思った。
けれど、最後の方はちょっと調子が出てきた気がする。
カザミ先生相手でも、思ったより動けたのだ。
やっぱり、最初は緊張していたのかもしれない。
それにしても、カザミ先生はすごかった。
テオが虎だとするなら。
今日のカザミ先生は、よく訓練されたジャーマンシェパードみたいな?
スズは……狼だと思っていたけれど。
カザミ先生とかテオと比べると、コーギーくらいか?
考え方を変えなくてはいけない。
比較対象が、テオとスズと、あとはシトロさんくらいしかいないのは問題だ。
となると、リノは……実はラーテルだったのかもしれない。
小さいけれど凶暴なのだ。
恐ろしい。
それにしても、学校の先生って、やっぱりすごいんだなぁ。
ちゃんと段階を踏んで、しっかり教えてくれる。
無闇矢鱈に殺気を撒き散らすテオやスズとは、人間の出来が違うのだろう。
たった一回の打ち合いで、僕の考え方をガラリと変えてしまうとは。
そんなことを考えていると、カザミ先生はなぜか酷く青い顔をしていた。
大丈夫だろうか。
先生も疲れているのかもしれない。
僕も先生に褒められるくらい、もう少し頑張ろう。
そう思った。
その後は自習になって、結局、テオはサボっていた。
学校に来たんだから、真面目に授業を受ければ良いのにと思う反面。
それこそ、その辺りの棒切れを持って暴れられたら大惨事である。
昼寝してくれている方が、よほど安全だ。
なお、その先生がそのまま校長室に駆け込んでいたことを、僕が知ったのは、かなり後になってからだった。




