僕ほどの実力でも、礼は大事です
待ちに待った、剣術の授業である。
はっきり言って、自信があるのだ!
だって、テオとスズ相手に毎日鍛錬していたのだから。
潜行者養成学校に来るような連中が腕自慢であることは百も承知。
さあ、僕の実力をとくと見るが良い!!
なのに、……なぜだ。
なぜ、こうなった。
***
剣術の実技の先生は、カザミ先生という、極めて優しそうな先生だった。
温和な表情で、ニコニコとしている。
まあ、一点、気になるとすれば、古風な黒い羽織と袴は良いとして。
その下に着ているものが、左前に合わせた白帷子……。
どうも、死装束に見える点くらい。
……いや、それは一点で済ませていいものなのか?
先生は言った。
「後衛志望、前衛志望で、まず組分けをしましょう」
そんな志望確認、あっただろうか?
なんか、入学の時にアレやコレや書いた気はする。
色々、書くものが多かったから覚えていない。
前は嫌だから、後ろと書いた気もするし。
なんか、全然関係ない違うことを書いたような気もする。
当然のように分かれる級友たちをよそに、すでに僕だけ置いてけぼりである。
まあ、とりあえず後衛にするか、と後衛組に混ざる。
本物の方のアゲハも後衛だったらしいし。
前衛というぐらいだから、前は接近戦が得意なのだろう。
カナタもシドもスズも前衛に行っているから、武闘派は前衛なのだ、きっと。
だとしたら、剣術では僕が無双してしまうかもしれない。
後衛ってことは、接近戦が苦手な人ばかりだろうし。
僕は結構やれる方なのだ!
僕の相手はリノだった。
いざ始まってみると、すぐに分かる。
あの化け物たちと比べると、まるで小動物を相手にしているかのようだ!
テオが虎で、スズが狼なら。
リノはさながら小さな小リスちゃんである。
全然、圧が違う。
だが、侮ってはいけない。
和尚様も言っていた。
知崇礼卑である、と。
僕ほどの実力を持ってしても、礼を失してはいけないのだ!
今日は簡単に各々の実力を見たいということで、ちょっとした試合形式の打ち合いである。
先生の「始め!」の声とともに、礼をして、他の生徒たちも打ち合いを始めていた。
横目で見れば、ずいぶんと緩慢な動きだ。
普段、テオとスズを見慣れた僕からすれば、まるでスローモーションだね!
僕はリノと対峙する。
いざ始まってみれば、リノの動きが手に取るように分かる。
僕は必要最低限の動きで、追い詰めるつもりだった。
だって、あまり乱暴にしては可哀想ではないか。
そのはずなのに。
バシリ!
という大きな音とともに、ぶん殴られたのは僕の方だった。
防具越しに衝撃が走る。
?!
なんか、全然、思っていたのと違う方向から木刀が飛んできたんですけど!?
奇襲か!?
僕は愕然とした。
***《シド視点》***
シドは、前衛組の列からその様子を見ていた。
アゲハは妙に落ち着いていた。
昨日は魔法杖の扱いに四苦八苦していたことを思えば、ずいぶんな落ち着きようである。
もっとも、魔法杖については、シドも人のことを言えた義理ではないが。
構えは悪くない。
というか、思ったよりずっと様になっている。
ここ数日付き合って分かったアゲハの性格を思えば、むしろ、ここまで基礎がしっかりしているのは驚くべきことだった。
反復練習とか基礎訓練など、絶対真面目にやらないだろうとシドは思ったからだ。
直前に、なにか自信ありげに「今日の僕は違う」などと言っていたのは、あながち嘘ではなかったのかもしれない。
リノが木刀を振り上げた瞬間、アゲハはすっと動いた。
かなり早い。
見切るにしても早すぎる。
その上。
避けるでもなく。
受けるでもなく。
まるで、そこに入るのが正解だとでも言うように。
ゆっくりと、リノの木刀の軌道へ自分から入っていく。
バシリ、と大きな音が鳴る。
防具越しに、アゲハが派手に打たれた。
「……あいつ、何やってんだ?」
シドは思わず呟いた。
リノも驚いた顔をしている。
打った本人ですら、当たるとは思っていなかったのだろう。
それもそうだ。
放っておいても、リノはテンパって空振っていたはずなのだから。
アゲハは、防具の上から打たれた場所を押さえ、愕然としていた。
自分から打たれに行ったくせに、世界の方が間違えたとでも言いたげな顔だった。




