授業が退屈? 違います、使えないだけです。
ようやく始まった実技訓練。
魔法杖の取り扱い訓練である。
しかし、だ!
なんちゅう使いづらい杖なのか!
魔法杖を使っての本格的な授業が始まったのは良いのだが。
何というか、自分のものじゃないからか、全然、光刃が安定しない。
なんか、デカくなったり、ちっちゃくなったり。
挙げ句に、スポン、とどこかに刃が飛んでいってしまい、セヴァルに、
「吾輩の授業はそんなに退屈かね?
光弾が撃てることは理解した。
そこで見学でもしていると良い」
と、嫌味を言われる始末だった。
いや、光弾なんて撃ってねーよ。
なんか、すっぽ抜けて飛んでいっただけで。
鍛錬場の隅で体育座りしていると、テオが寄ってきた。
「一緒にサボろーぜ」
なぜか嬉しそうだ。
サボってるわけじゃないんだ。
怒られた挙げ句、見学させられてるだけで。
スズとカナタはさすがというか、あんな使いづらい杖でも当たり前のように使いこなしている。
っていうか、単発式の魔法杖の方が使うの難しくないか!?
「テオはやらないの?」
「あー、オレ、ああいうの苦手だからな。
チマチマ、ピカピカ剣で戦うより、その辺の棒切れで殴る方が早いし」
聞いたのが間違いだった。
そういえば、テオは魔導師どころか、魔法使いですらない。
まあ、学校の方針としては魔導師と上級魔導師を育てたいのだろうけど、本来ならそれは魔法学園とかの領分だし。
セヴァルも言っていた。
それ以前に強者であれ、と。
そうなると、魔法を使えようが使えまいが、テオは十分以上に上級潜行者としての資質があることになる。
つか、そう考えれば別に、魔導師とか上級魔導師にこだわる必要もないのか。
もっとも、身体強化術式とか防膜を使えないと、どうにもならなさそうだけど。
まあ言うて、テオは普通じゃない。
そもそも、人造天使だし。
断じて、参考にしてはいけないのだ。
とはいえ、僕はそのテオに鍛えられてきたのである。
だから、正直、剣はちょっと自信があるのだ。
基礎も和尚様によってみっちりと仕込まれているしね!
明日から始まる剣術の実技訓練で、必ずや挽回せねば!
***
「アゲハ様、なんだか今日はもりもりお食べになりますね」
センリツが、嬉しそうに言った。
目の前には、夕食が並んでいる。
ふっくらと焼かれた白身魚。
具だくさんの味噌汁。
出汁の染みた煮物。
野菜の和え物。
いつも通り、豪華というか、隙がない。
「明日から剣術の授業が始まるの、エネルギー補給です」
僕は胸を張って言った。
魔法杖では散々だった。
だが、剣術なら違う。
テオとスズに毎日鍛えられてきた僕である。
基礎も和尚様にみっちり仕込まれている。
明日こそ、必ずや挽回せねばならない。
そのためには、まず食べる。
食べて、寝て、備える。
なんて合理的なのだろう。
隣で食事をしていたスズは、珍しく何も言わなかった。
普段なら「さすがアゲハ様です!」とか、「セン姉さまのお食事は完璧です!」とか、何かしら言いそうなものなのに。
今日は妙に静かに、そして、ちょっと嬉しそうに僕らを見ている。
なんだというのだ。
まあ、静かなのは良いことだ。
静かな食卓は、健康に良い気もする。
僕は白身魚をほぐし、ご飯と一緒に口へ運んだ。
美味い。
身はふっくらしていて、皮は香ばしい。
塩加減もちょうどいい。
次に味噌汁を飲む。
出汁の香りが、ふわりと鼻に抜けた。
そこで、ふと手が止まった。
……いや。
違うな。
これは、明日のために詰め込むものではない。
エネルギー補給とか、そういう雑な言い方をしていいものではない。
この間の麦茶でそう自戒したはずなのに、僕はすぐ調子に乗る。
ちゃんと味わって食べるべき料理だ。
僕は、改めて食卓を見た。
こんがり綺麗に焼かれた魚。
しっかりと味の染みた煮物。
味噌汁に浮かぶ青葱すら、斜めに一つ一つ丁寧に切られている。
どれも、ただ腹を満たすために用意されたものではなかった。
センリツが、ちゃんと手をかけてくれたものだ。
僕が明日、頑張れるように。
今日、ちゃんと眠れるように。
食べやすく、重くなりすぎず、それでも物足りなくならないように。
たぶん、そういうことまで考えてある。
「……センリツ」
「はい」
「いつも、ありがとうございます」
センリツは、少しだけ目を丸くした。
それから、ふわりと笑う。
「アゲハ様が、そうして美味しく召し上がってくださることが、センリツの幸せなのデス」
僕はもう一度、白身魚を口へ運んだ。
今度は、ちゃんと味わって。
美味しかった。
よし。
明日の剣術は頑張ろう。
僕は決意を新たにしたのだった。




