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単発式に3発式? やっぱり鯉が気になります。

杖談義がひとしきり落ち着いた頃合いを見計らって、ようやく本題であるリノの杖の話になった。


ちなみに鯉は六匹いた。


草の影に隠れているのを、リノが見つけたのである。


リノの観察眼は素晴らしかった。


「上級魔導師を目指すなら、やっぱり三発式? の魔法杖を買う方がいいのかな?」


なるべく早く自前の杖を用意しろというくらいだ。


自分の杖として慣れなければならないのだろう。


ならば、最初から最終目的である三発式を買うのが妥当だろう。


使っているうちに手にも馴染むだろうし、何より、一個より二個、二個より三個の方が良いに違いない。


何なら、四個とか五個あっても良いんじゃないのか?


その方が強そうじゃないか!!


「私の言えることではないが、それはおすすめしない」


……おすすめされなかった。


「単純に魔動機が増えれば強くなるという考え方は浅はかだ。

馬鹿だとすら言っていい」


そこまで言わなくても良いじゃないか!?


僕は密かにダメージを受けた。


「アゲハさまならともかく、普通は段階を踏んだ方がいい。

最初から三発式を持っても、扱えなければただの危険物だ」


いや、アゲハさまならともかく、とは?


僕も普通に段階を踏みたいんですが?


というか、今まさに段階という概念を知ったところなんですが?


「そうだね。

上級魔導師を目指すなら、三発式を見据えるのは間違いではない」


カナタも頷く。


「けれど、連動式双発を扱えない者が三発式を持っても意味はない。

まずは単発への魔力の込め方。

そこから広がる感覚。

光刃を安定して出しながら、それを振る感覚を覚えるべきだ」


「それから、無連動の双発。

さらに、連動式双発に移行すべきだと、私も思う」


スズが続ける。


「そこを飛ばすと、杖に振り回される」


つか、杖って、魔動機の数だけじゃなくて、連動式とか無連動とかあるの?


なるほど。


だから、光刃を飛ばして二つの魔動機を使っていても、魔法使いなのか。


リノが何の疑問もない感じでアドバイスを受け入れているあたり、理解していないのは僕だけなんじゃね?


マジかよ。


「実刃式はどうなんだろうな?

光刃に力を回さないから、他の運用がしやすそうだし」


実刃式ってあれか。


あの普通の剣みたいなやつ。


「鞘に入れて取り回すことになる。

なら初動は光刃の方が早い」


スズは即答した。


「それを上回るほどの実力があるのなら、光刃と同時運用したとて、そこにそれほど差はないはずだ。

双発を使いこなす前提なら、実刃式を選ぶメリットは薄い」


スズ、普通にやっぱり賢いよな。


でも魔動機が一個空くんだから、なんか、他のことができそうなもんだけどね。


気になるけど、今さら聞けねーや。


「シド君は多分、前提が間違っているね」


カナタが言った。


「光刃で一つの魔動機を使い切るわけじゃない。

もちろん、単発なら余裕はなくなる。

けれど、連動式双発は二つの魔動機を同調させて、杖そのものを運用するんだ」


「どういうことだよ」


シドが眉をひそめる。


「光刃を維持しながら、身体強化をかけ、防膜を展開する。

基本的な戦闘運用なら、連動式双発で十分に成立する」


「それで、十分なの?」


リノが不安そうに聞いた。


カナタは、少しだけ表情を引き締めた。


「十分どころか、連動式双発を扱える時点で、普通は天才の領域だよ。

それだけで、十分評価されるべきものだ。

実戦でも通用するし。

治安維持や軍部の職でも上澄みの方と言って過言じゃない」


そうなの?


僕は思わず目を瞬いた。


なんか、さっきから連動式双発が前座みたいな扱いだったから、てっきりそこそこ頑張れば届くものなのかと思っていた。


「三発式は、そのさらに上だ」


カナタは続ける。


「同じことを、より速く、より強く、より安定して行える。

術式を切り替える余裕も増える。

複雑な運用にも耐えられる」


なるほど。


パソコンのCPUみたいなものなのだろうか?


数が増えるほど、処理速度が上がって、複雑なことができる。


……いや、たぶん、そんな感じだ。


合っている気がする。


でも、それを今ここで口に出したら、変な顔をされそうなので黙っておく。


というか、スズは僕の方を一度も見ない。


たぶん、僕には説明不要だと思っているのだろう。


違う。


必要です。


めちゃくちゃ必要です。


だが、今さら「分かりません」とは言えない。


「ただし」


スズが、静かに言った。


「上級魔導師は、努力すれば誰でも辿り着ける領域ではない。

三発式を買えば近づけるなどという、単純なものではないのだ」


教室でセヴァルが言っていたことを思い出す。


最低でも魔導師。


或いは、上級魔導師。


まあまあな無茶ぶりだなーとは思っていたが、こうして聞くと、もっとひどい。


魔導師の時点で天才。


上級魔導師は、その上の化け物。


つまり、この学校は、天才を最低ラインにしているということになる。


……うん。


考えるのをやめよう。


なんか、鯉の数が気になってきた。


***


結局、リノの杖は学校指定の貸し出し品を使ってみてから決めてはどうか、ということになった。


というか、あまりに周りが当たり前に使っているから、みんな使えて当然だと思っていたが、考えてみれば、光刃が出せるかどうかすら実は微妙なのだ。


大抵の人は訓練次第で使えるようになるそうだが、その大抵というのが何割くらいなのか分からない。


例えば九割だとしても、三十人のクラスで三人は使えない人間がいるということだ。


全体で考えれば、これは大きい。


僕らの学年の上級潜行者育成科は百人ほどいるが、単純計算でも十人近くが杖すら使えずに学校を去るか、科を変えることになる。


さらに、そこから双発式を使いこなせるようになる者が、果たして何人いるのか……。


そんな少し暗い話で、僕らの親睦会は幕を閉じた。


幸い、僕はすでに光刃とかは出せるから、はいサヨナラとはならないだろうが。


逆に考えれば、適性がなければ別クラス、あるいは別の学校に編入できるということだ。


それはそれで、良いかもしれない。


とはいえ。


前を歩くスズを見る。


僕が学科を変えるとなると、スズもついて来かねない。


安全安心な暮らしを目指すのも悪くはないというか、僕的には最高だ。


けれど。


小さい頃から、あれだけ一生懸命鍛錬している姿を見ている手前、スズの夢を壊すのは気が引ける。


潜行者として実戦経験を積んで、行く行くは秩序執行隊に入りたいんだっけ?


ジャンク商会――いや、あの三英雄の役に立ちたいというのが、スズの願いだ。


まあ、だからって別に、戦う必要なんてないと思うけど。


それでも、スズが決めたことなら、もう少し付き合ってやるのもやぶさかではない。


上級魔導師になれれば、色々恩恵もあるだろうし。


卒業後、上級潜行者にならないという選択肢だってあるわけだ。


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