第42話 レタスが好きです。そして、僕は可哀想なヤンバルクイナです
そして、決まった。
決まってしまった。
睨み合う二人。
まさにハブとマングース。
間に挟まれた僕は、可哀想なヤンバルクイナだ。
僕らの三人組は、僕。
それから、スズ。
そして、シド。
言わずもがな、先程スズと揉めた黒髪の少年である。
いやぁ、気まずいことこの上ない。
というか、なんちゅう組み合わせしてくれとんだ、あの人は!
僕がシトロさんを恨めしそうに見ると、彼女がウィンクしてくる。
バッチリやりました感が出てるけど、むしろバッチリやらかしてるよ!
シトロさん的には、テオをこの三人組に入れなかったことを誇っているのだろうけど。
現状、むしろ僕とスズとテオの方がマシだったんじゃないだろうか?
「私は弱いのと組むのはお断りだ」
「俺も、遊びでやってるわけじゃない。
協調性のない奴と組んで死ぬのはまっぴらだぜ」
まあ、ド正論ですな。
後ろから刺されかねない。
いや、スズの場合、真正面から斬りかかってくるか。
けれども、だ。
「ええー、スズ。
私が決めた三人組、嫌なの〜?
ショックぅ」
というシトロさんの言葉に、
「うぐっ!」
と、スズがダメージを受けて黙る。
「まあ確かにぃ、居心地っていうの? そいうの大事だよね〜。
効率とか戦果よりも!
皆、仲良く、楽しく!
シドくんがそういうの優先だったら組み直してあげちゃうよ!
学校生活は楽しくなくちゃねっ」
シドは何か言いかけて、そして黙った。
まあ、そらそうだろな。
かくして、なんか、めっちゃ胃腸薬が必要そうな三人組が爆誕したのだった。
シトロさんが、例のごとく教室に居残ろうとして、副校長先生に連れ去られたあと。
教室の中は色めき立っていた。
主に、シトロさんについてだ。
まあ、初日から、びっくりするくらい顔面の良い先生だと噂になっていたし。
シトロって、まさか、あの三英雄じゃないよね?
みたいな話は出ていた。
だが今回、本人が認めたのだ。
そりゃ、生徒たちが騒ぐのも無理はない。
おかげで、僕の薔薇色の噂は吹っ飛んだんじゃなかろうか?
まあ、それと同時に、別の問題が浮上した。
じゃあ、そのシトロ先生がしがみつこうとする僕は何者なのか、という話である。
***
「アゲハくんって、英雄アゲハと何か関係があるのかな。
それに、あのテオって人」
ついに来た。
ついに来てしまった。
さて、どうしたものか。
僕がアゲハの転生体であることは、あの三人と一部の関係者しか知らない。
商会の中でも、表向きは英雄と同名の子どもということになっている。
まあ、ほとんどの人は察しているし、初対面のときのスズですら知っていたくらいだ。
「不躾だぞ。
アゲハさまに対して!」
ずずいと、当然のようにスズが前に出る。
こいつは駄目だ。
すぐに喋る。
とはいえ、人の口に戸は立てられないと和尚様も言っていた。
壁にミミアリー、障子にメアリーが住んでいると、センリツも恐ろしいことを言っていた。
メアリーはともかく、ミミアリーって何だよ!
それにしても、誰だこの子?
可愛いけれど、正直印象に残っていない。
昨日も教室に居たはずなのに。
亜麻色の髪をふたくくりに緩く編み、琥珀の目は大きく優しげだ。
普通っぽいけど、良いではないか……良いではないか!!
っていうか、普通なのが良いんだ。
たまにはこういう、なんだろうか?
トンカツに添えられたキャベツのような。
てりやきチキンバーガーに挟まれたレタスのような子が必要なのだ!
大体うちの連中は濃いんだよ。
トンカツにビフカツと、クリームコロッケを乗せて、そこに海老フライが突き刺さっているような。
てりやきチキンバーガーに、牛肉とベーコンを挟んで、アメリケーヌソースをぶっかけたような。
とにかくクドいのだ!
どれがメインか分からぬのだ!!
「ご、ごめんね、突然。
私、リノって言います」
押し黙る僕と、ふんぞり返るスズを交互に見て。
女の子――リノが、おずおずと話を続ける。
「えっと、カナタくん、それからテオくんとセルを組むことになって……それで」
どうやら、ただの好奇心だけで話しかけてきたわけではないらしい。
三人組を組むにあたって、僕らのことが気になって話しかけてきたようだった。
言われてみれば、リノに気を取られて全然見ていなかったが、確かに後ろに、あの優等生――パツキン王子、カナタが立っていた。
***
「じゃあ、君たち、アゲハくん達はシトロ先生の運営する商会の関係者ってことなのかな?」
「『くん』だと?
様をつけろ。何様のつもりだ!」
カナタの言葉に過剰反応を示すスズを、僕はジロリと睨む。
どこの世界に、同級生を様付けするやつがいるのか。
昨日の晩、「僕が普通の学生生活を送りたい」ということをコンコンと説明したというのに。
僕は頭を抱える。
「スズはそうだけど、まあ、なんていうか、僕は親的な人が商会員というか」
嘘は言っていない。
テオとセンリツ、シトロさんは確かに商会員だし。
「じゃあじゃあ、アゲハくんたちが、英雄と同じ名前なのは……」
「それは当然、テオ様が御本人で、アゲハ様が……」
僕はスズの口を押さえると、ずずいと後ろに引っ込めた。
ドヤ顔で語り出してんじゃねーよ。
なんで、僕周りのことになると、この子はこんなポンコツになってしまうのだ!
「テオも僕も、英雄の名前にあやかって名前をつけたと申しますか、なんといいますか。
まあ、そんな感じです」
あとは、まあ、適当に誤魔化しておくか。
普通の会社ではないし、社員が尊敬する社長や英雄から我が子に名前を貰うのは、そこまで変ではないだろう。
ジャンク商会なんてものに所属するくらいだから、やっぱり、そこは英雄たちに憧れがあったり、縁があったりしてのことだろうし。
「では、お二人とも、英雄公認ということで間違いないのですね?」
どういうことだ?
英雄公認でないと、まずいのか?
カナタ曰く、上層や下一層あたりには、確かにアゲハやテオを名乗る人々はいるらしい。
が、しかし。
下三層となれば話は変わってくる。
潜行者たちのメインフィールドとも呼べる下三層は、いわば三英雄たちのお膝元。
そこで堂々と英雄と同名を名乗る者はいないのだとか。
この先どうなるかは分からないが、セルを組み続け、実地訓練などに向かうならば、まずは確認しておきたかったようだった。
確かに、英雄たちの名を持ってこの仕事に挑むとなれば、少し変わった人か、下手すりゃ変な思想を持った人の可能性もあるもんな。
何より、テオは多分気にも留めないが、周りからすれば、あの狂気の塊が、自分の名はともかく、アゲハの名を騙る人間を捨て置くとは思わないだろう。




