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人違いだから、思い出せません

僕は三食昼寝付き。


その怠惰な生活から、四歳にして抜け出すことを決意した。


……いや、昼寝もするし三食も食べるけどね。

志の問題としてやめる感じなのだ。


これまでの僕は、甘やかされに甘やかされてきた。

指一本動かさず、ご飯を食べ、オヤツを食べ、ぬくぬくの布団で眠る。


たぶん中世の貴族だって、もう少し働いていたはずだ。


そんな生活では、到底、アゲハの生まれ変わりにはなれない。


さらば、安眠の日々よ。

そして、ぷにょぷにょのお腹。


さて。


問題はここからだ。


体ごと偽物なのか、意識だけが偽物なのか。

現時点では分からない。


さすがに“英雄を丸ごと取り違える”なんてことはないだろうから、

意識だけが入れ替わったという前提で行こう。


ただし、その意識は——


戦闘の“せ”の字も知らない、完全な素人である。


自慢じゃないが、僕は中高一貫の由緒正しい帰宅部だ。


武道の心得?

あるわけない。


スポーツ経験?

皆無だ。


——全くもって、清々しいほどになにも知らん!


格ゲーは得意だったけどね。

反射神経は悪くないはずだし、体が優秀ならワンチャンあるかもしれない。


……たぶん。




そんなわけで。


僕は知識を蓄えると同時に、剣術の鍛錬を始めることにした。


ゆくゆくは魔術もなんとかしたいが、全部いっぺんは無理だ。

体よりも先に、繊細な僕の心の方が死んでしまう。



しかし、ここで一つ大きな問題がある。


剣術といえば、接近戦の鬼テオ・ドール。


数多の強者を紙のように斬り捨てたという。


魔術といえば、伝説の魔女シトロさん。


数多の強者を消し炭にしたという。


この二人に教えを請うのが一番手っ取り早い。


——だが、それでは本末転倒だ。



僕に剣術を教えたテオは、僕を見てどう思う?


僕に魔術を教えたシトロさんは、僕を見てどう思う?


運動神経も、勘も、知識もないこの僕を。


「あれ、コイツ……アゲハじゃなくね?」


そう思われるに決まっている。


試しに鏡の前で棒切れを振ってみたが、

素人の僕ですら「ひどいな」と思う出来だった。


——終わっている。


さて。


誰に教えを請うか。


それが、問題だった。


***


僕は床に寝転がり、本の続きを読む。


「なになに……アゲハは、三法師のひとりで……」


「そうですね。アゲハ様は三法師の一人、最高位に位置する神官だったのです」


「へぇ……なんで、そんな偉い人が、革命の戦いに?」


「センも詳しくは存じませんが……お優しい方でしたので。

きっと、苦しんでいる人を見過ごせなかったのでしょうね」


「そうなんだ。イケメンで天才で金持ちで、その上性格まで誠実とか……はじければいいのに——」




僕はそこまで言って、顔を上げた。


寝転がって本を読んでいた僕のすぐ近くに、

センリツのニコニコとした顔があった。



「せ、せんりつ!?」


思わず声が裏返る。


いつの間に来たんだ。

というか、この状況まずいんじゃ——。


「せんりつぅ……いつはいってきたの……?」


「アゲハさまが書庫に入られるのが見えましたので。

お飲み物でもと思いまして。

はじける? 炭酸がよろしかったですか?」


そう言って指さす先には、

無骨な机には似つかわしくない、可愛らしく飾り付けられたトロピカルジュースが置かれていた。


「何を真剣にお調べですか?」


「え、えっと……いろいろわすれちゃってるみたいだからー、むかしのこととか、しらべてみようかなーとか……おもっちゃったりとか……」


しどろもどろの僕の答えに、

センリツはぱちりと両手を合わせ、


「それは良いお考えです!」


と、嬉しそうに言った。


「センリツも、アゲハ様が早く昔のことを思い出せるよう、お手伝いします!」



僕の笑顔は引きつった。


——これは間違いなく、墓穴ってやつだ。


しかも、結構深く掘ったなー。

……大分、深いなぁ。



思い出さないよ。

思い出せないよ。


だって僕は——


そのアゲハじゃないんだから

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