狂犬が止まりません。そんなことより薔薇色の視線が問題です
ふざけんな……。
マジふざけんな!
テオは二日目にして、早速、学校をサボっている。
それは良い。
どうせそんなこっちゃろうと思ってはいた。
大体、早寝早起きなんてできる人じゃないんだから。
それよりも、だ!
僕に向けられる奇異の目。
いや、桃色?
違う。
薔薇色だ。
カタカナのバラじゃなくて、漢字の方の薔薇色の視線!!
たった一日にして、学校を駆け巡った噂。
それは、廊下の影で、男子の制服を着た二人が熱く抱擁していた、というものだった。
そして、それが僕とテオだと完全にバレているのである。
女子から「やっぱりそうなのね」とか「ありだわ」という微妙に肯定的な声が聞こえるのが、さらに痛い。
ありじゃねーよ!
絶対に無しだよ!!
「アゲハさま、今日はなんだか、教室が変です」
スズが察して、僕にそっと耳打ちする。
「ウン、ソウダネ」
僕は力なく答えた。
狂犬よりも、遥かにまともである僕の方が変な方向で注目されるなど、思いもしなかったよ。
その時である。
「どいつもこいつも、何しに潜行者養成学校に来てんだかよ!
遊びなら荷物まとめて帰っちまえ」
独り言……にしては、嫌に大きな声だった。
教室が、しんと静まり返る。
声のした方を見れば、黒髪をひとつに括った、目つきの鋭い少年が僕を睨みつけていた。
「なんだ、お前は?」
僕が口を開くより先に、スズが立ち上がる。
はえーよ。
「ああ!? お前らこそなんなんだ?入学式でも騒いでやがったがよ!」
「騒ぐ?
何の話だ?
私は正当な主張をしていただけだ。
お前こそ、アゲハさまに対して不敬だろうが!」
ツッコミどころが多すぎて定まらない。
スズは、まあ、いつものこととして。
気になるのが少年の「お前ら」の『ら』の部分だね。
『ら』って、どこに居るんだろう?
辺りを見渡しても見つからない。
テオはまだ来ていないし。
……分かってるよ!
僕のことだろ!?
***
「いいか?」
少年は言った。
「ここはな、お前らみたいなふざけた連中が遊びに来る場所じゃねえ。
スタンピードを止め、ニーズヘッグに抗う。
その覚悟があるやつだけが来ていい場所だ」
「お遊びなら、他所でやれ」
吐き捨てるように言う。
……まずい。
これは、まずい。
めちゃくちゃ正論だ。
正論ではあるが、はっきりきっぱり言おう。
それは甘ちゃんの言葉だ。
世の中を知らなさすぎる。
そんな甘い考えでは、すぐに命を落とすことになる。
なぜなら――
世の中には、話の通じない英雄たちが溢れているからだ!
そんな普通の正論では、この横の狂犬一匹止めることなどできまい!!
……って、やってる場合じゃない。
「……それは、アゲハさまに言っているのか?」
いや、お前にも言ってんだよ。
つか、主にお前に言ってんだよ。
いや……甘っちょろい考えは僕だけで、スズは真剣だから、むしろ、やっぱり僕が言われてるのか?
僕の内心の甘っちょろさまで、読んでるなら恐ろしい男だが。
僕から甘さが垂れ流されていた可能性も否定は出来ない。
……まあ、どっちにせよ、僕だけフォーカスすんじゃねえ!
「だったらなんだ?
俺は間違ったことは言ってないね」
ゴゴゴゴゴ、と音が聞こえてきそうな雰囲気を、スズが纏い出す。
止めねばならぬのは分かっている。
だが、武力では向こうが圧倒的に上なのだ。
忘れるなかれ。
はっきりきっぱり、男らしく言い切ろう!
僕は、スズが今でも怖い!!
幼少期に植え付けられた恐怖は、そんなに簡単に拭えるものではないのだ!!
クラスの何人かは、スズの変化に気がついている。
圧倒的な殺気。
それは日々の鍛錬だけで培われたものではない。
この数年間、スズはテオの無茶苦茶な地獄の鍛錬に耐えてきた。
現場を知っているとか、知らないとか、そんなレベルではない。
蛇の巣に武器を取り上げられて放り込まれる。
シトロさんの全方位攻撃を避け続けさせられる。
挙句に、遊び半分とはいえ、人間凶器のテオ相手の組み手である。
真面目なスズは、本当に全部真面目に取り組んだのだ!
僕のことは聞くな!
それなりには頑張った。
しかし、人には限界があるのだ!
まあ、それは良い。
つまるところ、今のスズは、潜行者養成学校に入りたての、ちょっと腕が立つやつ程度が対峙できる相手ではないのである。




