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未来の選択、アゲハをどうするか会議――僕は不参加です

ホームルームが終わり、僕は机に突っ伏した。


何なんだ、この疲労感は……。


ホームルームの内容など、正直ほとんど頭に入っていない。


シトロさんはホームルーム後も教室に居残ろうとしていて、さっきの……副校長先生に連れて行かれた。


恨めしそうにこちらを睨む彼女へ、僕は今生の別れだと思いながら、ひらひらと手を振って見送る。


まあ、すぐ戻ってくるだろう。


副校長先生の「またお前らか」と言いたげな目が、めちゃくちゃ怖かった。


あれはもはやご褒美ではない。


そもそも、僕は関係ない。

悪いのはシトロさんだけなんです!


「一人だけ抜け駆けしようとするから、ああなるんだよ」


疲れ切った僕の横で、テオが悪い笑みを浮かべる。


僕の潜行者養成学校行きが決まった直後。

三人は『アゲハをどうするか会議』を開いたらしい。


なんなんだ、その会は。


何も聞いてないし、そもそも僕は呼ばれてないぞ。


当事者不在で未来を決めるんじゃねーよ!


ちなみに、テオは最後まで、僕が潜行者養成学校へ通うことに反対していたそうだ。


本人は誇らしげに言っているが、いや、僕は潜行者養成学校に通いたいと言ったんだが?


ちゃんと分かってんのか?


……と思ったら。


「アゲハの望みなら叶えるべきだ」と、シトロさんとセンリツに説得され。

そしてテオは、それを渋々了承したということだった。


つまりは、お前のために自分の意見を曲げてやったんだぜ?


というアピールか。

しょうもない。


無論、この学校に通うなら寮生活は避けられない。


絶対に避けられない。


最重要事項と言っても過言ではない。


何なら下宿でもなんでも良い。

贅沢は言わない。


むしろ、その方が良いとすら言える。


つまるところ、僕は一人暮らしを諦めないし、譲らない。


彼女らも、僕の硬い意志を察したのか、家を出ることは免れないと、そう、理解したようで。


結果、僕の成長のため、しばしの別れになるが、そこは耐えよう――三人は涙を飲んでそう決めた、ということだった。


……表向きは。


「で、俺が潜行者養成学校の入学資料を見てたら、あのアホ魔女の名前があったんだよ」


シトロさんは政府側から、後進育成や研究機関への協力をたびたび打診されていた。


それをいいことに、ここの教員として潜り込むことを、すでに決めていたらしい。


うん、シトロさんらしい。


彼女ならそのくらいやるだろう。


「何が『アゲハくんのために距離を置こう』だ。クソが」


テオは悪態をつく。


でも、僕は分かってる。


そんな、しょうもない手に騙されるようなテオなら、僕だって苦労しない。


はなからシトロさんのことなんか信用なんかしていないのだ。


それが、証拠に。


「それで、テオはなんで潜行者養成学校の資料なんて持ってたの?」


僕が確信をもって尋ねる。


テオは少しだけ間を空けた。


「……センリツもひでーんだぜ?

『アゲハの住むとこ探す』とか言ってたくせに――」


呆れたように肩をすくめる。


「気づいたら寮母に決まってるしさ」


んな話はどうでも良い。


センリツが独自に動くことなんて目に見えてる。


シトロさんと結託する未来も、まるで手に取るように分かる。


それよりもテメーだよ!


「テ・オ!」


僕が語気荒く言うと、テオはしかめっ面で頭をかいた。


「……だって、お前一人で学校とか、ダメだろ」


いや、答えになってないだろ!


そもそも、何がダメなのかすらよく分からんわ!!


そんな、ざっくりした理由で良いなら、人間復興の英雄が私情で学生やってる方が、よっぽどダメだと僕は思うが。


要はお前も、他の二人を出し抜いて、潜行者養成学校の資料を取り寄せて、ここに潜り込むつもりだったんだろうよ!


最初から!!


そもそもだ。


僕はため息をひとつ吐く。


これはもう、どうしようもない。


この三人の思惑など、はなから僕とて分かっていた。


成長したなどと生ぬるい目で見ていた僕が間違っていたのだ。


しかし、だ。


「テオ。僕についてきて、テオの大事な庭はどうするつもり?

それに、何より商会は?」


そう。


テオには、生前のアゲハが愛した庭がある。


なんかキザったらしい……いや、やめておこう。


あれはテオの大事なものだ。


アゲハが好きだったツルバラとか、ハナミズキとか、アジサイとか。


色々な花を咲かせる特別な庭が、ジャンク商会の屋上にはある。


あそこの手入れだけは、センリツにもさせない。


商会員へ任せるとも思えなかった。


「それなら大丈夫だ。

温室はこっちに移したし、商会はまあ……そもそも俺がいなくても別に問題ない」


……まあ。


庭の手入れして、風呂行ってるだけだもんな、この人。


ヤバい時にだけ降臨する最終兵器だし……。


…………?


……というか、温室を移しただと!?


それはガチすぎないか!?


完全にこっちへ居着く気じゃないか。


僕のバラ色の学園ライフが危機――とかいうレベルを遥かに超えている。


テオは本気だ!


それ自体も由々しき問題だが。


僕は周囲を見渡した。


なぜだかやたら嬉しそうなスズは……まあ良いとして。


放課後。


もう皆帰って良い時間のはずなのに、クラスメイトたちが完全にこちらを奇異の目で見て居残っている。


そらそうだろ。


アゲハとテオを名乗るおかしな二人が、入学早々、副校長に呼び出された狂犬と一緒に居るのだから。


しかも、わけの分からん話を延々としている。


気にもなるわな。


これは実にまずい。


それに、まさかとは思うが。


テオのやつ、人間復興の英雄、テオ・ドールとして学校に通うつもりじゃないだろうな?


その肩書で付きまとわれた日には、女の子どころか、まともな学生生活すら消し飛びかねない。


いや。


粉微塵だ。


――早急に対策を練らねば。


僕の青春が、始まる前に終わってしまう。


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